今日は休日だそうです ②
「すいませんすいませんすいません……」
みらのは歩きながらも、ぶつぶつと何か呟いている。一時はどうなるかと思ったが、なんとかなってよかった。
あそこまでみらのが凄いとは思わなかった。これからは部屋も変えて貰うことにしよう。何が起こるか分かったもんじゃない。
俺たちは今は街中を歩いているのだが、いつまでも制服ではいられないからな。
何か別の服を探しに来ているのだ。
金はどうするかって? まぁ、見てれば分かるさ。
俺たちは近くに見つけた看板に「BLOOM」と書かれた服屋に立ち入った。
「どうも! 私はBLOOMの店長、クルーナ! どうぞお見知りおき!」
俺たちが一歩入ると、瞬間、目の前に頭に耳を生やした人間が現れた。
なんだこの化け物は。
俺は警戒の目でそいつを見るが、隣のみらのは目を輝かせていた。
「猫耳!? そんな空想の産物がこの世界に存在しているなんて!」
「後輩、なんかキャラ豹変してるぞ?」
俺のそんな言葉も虚しく、みらのは少女に飛びかかった。
素早く少女を押さえつけると、耳を甘噛みしたり撫で下ろしたり、少女は辱しめを受けているようだった。
「や、やめ! る、にゃん!」
「俺は一体何の現場を見せられてるんだ?」
俺は自分で目を隠しながら言った。
そうしていると、少女は耐えきれなくなったのか、みらのの腕を掴んで噛みついた。
「ちょ、痛い!」
みらのは思わず少女を離す。すぐに少女も立ち上がる。
俺はすぐにみらのに駆け寄った。
少女を見ると、今にも人を殺しそうな目をしている。ヤバイ奴だ。
何なんだ、この少女は……。
すると、俺の視界に何かが映りだした。
それは少女の横に浮いているバーの様なもので、「クルーナ・アルトバス」と書かれたものと、「吸血」と書かれたものの二つがあった。
片方は自己紹介してたから名前なんだろうが、もう一つはなんだ? 「吸血」? ドラキュラかよ。
「先輩、この変なのは何ですか?」
みらのがそう言った。きっと俺と同じものが見えているんだろう。
「さぁな。俺も知らん」
何の仕掛けで動いてるんだ、これは。俺の作品とも少々違う仕組みで動いているようだ。
「休日くらいのんびりさせて欲しいものだがな。お前の責任だぞ? 後輩ちゃん」
「うぅ、私の性癖が疼いてしまって……すいません」
「バーカ」
俺はみらのの額に爪弾いた。
「あいたっ!」
みらのは痛めてしまったのか、屈み込んで額に手を当てた。
「こればっかりはお前が悪い。謝るくらいはちゃんとしとけ」
「うぅ、すいませんでした……」
みらのは反省したように言った。もっとも、本当にこれからしないかは別だが。
謝罪すると、クルーナの鬼のようだった顔が戻った。
「いや、謝ってくれるならそれで充分だよ。こっちも噛みついちゃってごめんね?」
「こいつには後で言っておく。それで、俺たちは服を買いに来たんだが、何か良いのはないか?」
クルーナは顔を明るくした。
「うん! 見繕うからこっちに来てくれない?」
俺はクルーナについて行った。
昔の手作業で作る服だからか、少し雑さも見えるが、頑張って丁寧にしているようだ。
彼女の努力が垣間見える。
「んーその服さ、貴族の物っぽいけどどこか違うよね。だって貴族の人は黒着ないもん」
そう言ってクルーナは俺のズボンを見た。
「その服とっても綺麗だねぇ、誰に作ってもらったの?」
「ん、気になるのか? えーとな……」
俺は中にあったネームタグを見た。
「チャイナだな」
「ん? チャイナ? 聞いたこともないね」
「あんたらは一生知らなくていい話だよ」
そう言って俺はこの話を切り捨てた。
「じゃあ、これなんてどう?」
クルーナは俺にシャツと黒いカーディガンを渡した。
「君は黒が似合いそうだからね。いいんじゃない?」
俺は後ろで待っていたみらのの方を見た。
「後輩!」
「な、何ですか?」
みらのは突然のことに驚いた様子だったが、俺はさっきクルーナに渡された服を見せた。
「これ、似合うか?」
「そんな、着てみないと分かりませんよ」
そう言われればそうだな……。
だがこの中世ヨーロッパみたいな時代に更衣室なんてあるのか?
すると、横からクルーナが顔を出した。
「そう言うことなら、二階を貸してあげられますが?」
……とことん好都合だな。
俺はクルーナに案内されて二階に上がり、クルーナがいなくなったのを見送ってから、手で目を塞いだ。
これは何の為の行為か。俺が考える為の行為だ。
俺が考えたいことがある時は、いつもこうして光を遮断してから
考え出す。
じゃあ、始めるか。
今回の議題、クルーナは何物だ?
気になるところ一点目。俺の目に映ったあの「吸血」という言葉。
あれはハルマロが言っていた『スキル』とやらに関連しているのだろうか。
みらのから聞いた話では、物理法則をねじ曲げるような強力な物らしい。
それがクルーナにもあるとしたら、危険人物であることには変わりないな。
要注意っと。
二点目。貴族の服について「貴族は黒を着ない」ということを知っていたこと。
なんで着ないかなんて知ったこっちゃないが、彼女は絶対に着ないということを断言していたことが何より気になる。
服屋だからこそ気付いたのか、それとも別のなにかか、なんであれ、まだ断定はできないな。情報が少なすぎる。
まぁ、危険人物とだけ見ておこう。
俺は考えるのをやめて、手を目から離した。
この間、たったの二秒。