その9
紗由は自信満々に告げる。
「あのね、お見合いパーティーしたらいいと思うの」
「獣神さまたちのお見合いパーティーするんか??」驚く翔太。
「うん。獣神さまたちって、今までは、自分のところを動いたらだめだったんでしょ?」
「ああ」
「でも、おばあさまが、そんなのやめてって言ったから、自由にうごけるんでしょ?」
「まあ…そうね」
「だから、同じグループじゃないところのお友だちを作って楽しくなってもらうの」
「なかなか面白そうだな」躍太郎が笑う
「まりりんに、いろいろ聞いたの。
お見合いパーティーのまえにはね、アンケートをとるんだって。好きなものとか、いろいろ」
「そのアンケート…誰が取るのかしら?」いぶかしげに尋ねる華織。
「男の子には、おばあさまがとってください。女の子には、おうまさんがとってください」
華織と風馬が眉間にしわを寄せる。
「やっぱりここは、ベテランさんがやりませんとね」爽やかに微笑む紗由。
「まあ、参加率に関わる部分やしな」
「おばあさまが“来ないなんて言わせませんでしてよ”って言えば、皆来るよ」
淡々と言う龍を睨む華織。
「紙をわたしてもらうだけですから。
あとは、史緒ちゃんのところにおろしてもらって、史緒ちゃんがさらさら書きますから」
「渡すだけなら…まあ、いいかしら」
「男の子が40人で女の子が10人くらいらしいです」
再び眉間にしわを寄せる華織。
「史緒ちゃん、だいじょぶなんか? 腱鞘炎になってまうがな」
「だいじょうぶです。
大地くんにつきっきりになってもらうことにしました。大地くんのいやしの力でOKです」
「二人でくねくね踊ってて、お習字にならないんじゃないのかな」ぼそっとつぶやく龍。
「ところで、史緒ちゃんに学校を休ませて作業させるつもりなのかい?」躍太郎が聞く。
「史緒ちゃんのお父さまからOKをもらってあります」
「九条の“命”から!?」声を合わせて驚く華織、風馬、躍太郎。
「まえに、にいさまが悪者におそわれた時に、史緒ちゃんのお父さまは、知らんぷりしたでしょ? 史緒ちゃんにはそのこと、ぜーーーったいに言いませんからって、言ったの」
「紗由ちゃん、それ…脅迫や」
「だいじょうぶ。九条さんが悪者におそわれたら、ちゃんと助けますからって言っておいたから」
「紗由、それ…ただのダメ押し…」苦笑いする龍。
「それでね、アンケートで好きなものも教えてもらうの。
史緒ちゃんのお習字を、和歌菜おばさまにわたして、お友だちになれそうな人たちをとなりの席にするの」
「久我家が何気に大活躍だな」笑いだす躍太郎。
「あとね…紗由おもったんだけど、獣神さまたちは、お宿を守るまえに、本当に好きなことをしたらいいと思うの」
「好きなこと?」龍が戸惑う表情でつぶやく。
「お宿守る前に好きなことをして、ニコニコになって、そのパワーをお宿にくださればいいと思うの」
「なるほどね」下を向いてふふふと笑う華織。
「アンケートはそのためのものでもある、いうことか?」翔太が尋ねる。
「旅行したかったら、させてあげればいいとおもうの。
カラオケしたかったら、させてあげればいいとおもうの。
おやつをいっぱい食べてもいいとおもうの」
「そんなの紗由だけだよ」
龍が言うと、珍しく華織が紗由をかばう。
「大酒飲みの神様もいらっしゃるし」
「龍神さまはそう言われることが多いな」
「あとね、守ってくださったあとに、ごほうびをあげるといいと思うの。かあさまが、よくやるやつ」
「よくやるやつって?」龍が尋ねる。
「自分へのごほうびに、きれいなバッグや靴を買ったりするの」
「ふーん」冷たい視線の龍。
「あら、龍。とても大事なことなのよ、ご褒美があるかないかは」
華織がこぶしを握ると、躍太郎が咳ばらいをする。
「でも、獣神さまたちにご褒美って、何をあげるわけ?」
龍が尋ねると、紗由は手を腰にやり、仁王立ちする。
「それを考えてもらうための会議ですから!」
「…そこは丸投げなんや」
「とうさまはね、紗由のかたたかき券をごほうびにあげると、すごくよろこぶの。紗由が肩たたきじょうずだからだね」
紗由が嬉しそうに言うが、龍が異を唱える。
「とうさまは、紗由がくれるなら何でもいいんだよ。肩たたきのせいじゃない」
「それや!」翔太が立ち上がる。
「どれ…や?」龍が翔太を見つめる。
「普段、守っている宿の亭主に何をしてほしいかとか、そういうのを叶えて差し上げればええやん。働きやすい職場にするんや!」
「違う“集”の宿の亭主に、どうやって働きかけるわけ?」
「集まっていただいた、他の“集”の獣神様方からや。
担当宿の獣神様がどれだけ頑張っているかを、他の獣神様からそれぞれの亭主に伝えてもらう」
「…ああ、そうか。第三者からの高評価があれば、報奨をあげたくなるってことか」頷く龍。
「この“集い”こそが興味深い」
誠の背後に現れた、一条家の黄龍。
「黄龍さま!」
右手を差し出す紗由に、黄龍は髭を一本、紗由の手に触れさせた。
その髭を握り、ぶんぶん上下に振る紗由。
「いらっしゃいませ!」
「さて…」
黄龍は、一同を見回し、言った。
「我からも提案がある」
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