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その19

 清流旅館大祭のプレ祭は無事に終わり、夕食の時間まで、皆それぞれに過ごしていた。

 とはいえ、翔太は食事の支度の手伝いで忙しく、大地と真里菜はストラップ作成販売の根回しで忙しく、四辻兄妹はそのストラップに付ける石の選定や調整で忙しく、史緒も父親への交渉に時間を取られていた。

 充も恭介も、自分の役目を果たすべく、慌ただしい動きをしている。


 そして、華織夫婦と風馬一家、そして龍は華織の部屋にこもって何やら会議をしていたのだが、なぜが西園寺の名の付く者で紗由だけが、ゆったりと池のほとりでくつろいでいる。

 青龍と歓談中なのだ。


「青龍さま。ドラゴちゃんが言ってたんですけど」

「何をだ?」

「“ワレハ、カケラ”って。でも、何のかけらなのか教えてくれないんです。青龍さまならわかりますか?」

「カケラは隠さねばならぬ」

「えーと、答えになってないですよ?」

「今、言えるのはそれだけじゃ」

 青龍は池の底へと沈んで行った。


  *  *  *


「というわけなんだけど、翔太くん、どう思う?」

 紗由が尋ねると、翔太はしばし考え込んだ。


「カケラか…。巨大なぬいぐるみの一部いうことやあらへんし…」

「たくさんのドラゴちゃんがひとつになって、大きくなっちゃうんだ!」

「いやいや、さすがに通報されるて」笑う翔太。

「カケラだと、紗由はクッキーかチョコしか思いつかない…」

「食いもんもカケラ言うなあ」


「そういえば、さっき、にいさまたちとお話してたよね」

「ん?」

「翔太くん、青龍さまのたまご、いっぱい食べたって」

「卵か…殻のカケラがうっかり入って、食べづらいとき、あるなあ」

「青龍さまのたまごのカケラなんだね、ドラゴちゃんは!」

「たまごのカケラ…」


 翔太はふと考えた。

 かえるはずだった青龍さまの卵は、青龍さまが飲み込んで、気を取り込んだはず。

 でも、考えてみたら、卵の気をプラスしたら、かなりの量になるはずや。

 黄龍さまを抑えるのは、えらいこっちゃろうが、一度伊勢の癒し処へも行っとる。

 なのに、大祭に耐えられるかどうかわからんくらい、衰弱されてた…。


「まさか、卵は飲み込んだ時に割れて、カケラが散らばってもうたんか…!?」

「うーん。だったら、集めないとですね」

 紗由はニッコリ笑って、ポケットからクッキーを出すと、半分に割って、ひとつを翔太に渡した。


  *  *  *


 翔太は、紗由を部屋に送り届けると、隠し部屋に足を運んだ。

 そして、さっき紗由が言ったことを頭の中で反芻する。

“集めないと…”


「どうした、翔太」

 ぼんやりと佇む翔太に、羽童が声を掛けた。

「童さま…お聞きしたいことがあるんですけど」

「何だ?」


「青龍さまが飲み込んだ卵は、割れて散らばってしもたんですか? ドラゴちゃんが自分をカケラだと言うたのは、そないな意味なんですか?」

「青龍さまは、西園寺の姫が問うた時にお答えにならなかった。ここで答えることはできない」

「いつなら、答えてもようなるんですか?」

 翔太の問いに返事をしない羽童。


「散らばっとるんやったら、うちの庭にカケラがいろいろあるはずです。ドラゴちゃんにカケラが入ったのは、うちに来てからやろうし」

「……」

「青龍さまは紗由ちゃんにカケラを隠さねばならぬとおっしゃった。

 でも別にいらんものなら、何も隠す必要はない。すぐに必要なものなら、探せと言うはず。

 いったい、どないしたいんですやろ」

「さあ…」

「どなたかに拾うていってもらいたいんやろか…そのために他の人にみつらかんようにせいと、おっしゃっているんやろか」

「誰に拾わせたいと?」

「うちの旅館の関係者なら、今回のことで皆、集まっとります。

 でも、うちにとって重要な人でなければ、青龍さまのカケラなど関係あらしまへん」

「つまり?」

「思い浮かぶのは二人です」

 翔太はきっぱりと言うと、羽童を見つめた。


  *  *  *


 あっという間に時間は経ち、清流旅館赤子流怒大祭の日 となった。

 メインとなるのは、祭の名前通り、赤ん坊を怒らせてそのパワーを神様に吸わせるという儀式だ。

 マイナスのパワーを神様に吸っていただいて、子どもの健全な成長を祈願するという意味の反面、怒りは動かし方によっては強いパワーでもあるので、神が自分の気を強めるためのものであるという意味もあるらしい。


 例年の祭では、近所から赤ん坊ひとりが参加するのだが、4年に一度の大祭では、4人の赤ん坊が儀式に参加する習わしだ。

 今回の赤ん坊たちは3人までは決まっていた。高橋進の次男の大斗、九条清子の長女の咲耶、久我里緒菜の長男の星也だ。

 だが、最後の一人が決まったかと思うとキャンセルになり、という流れを何度か繰り返していた。


 華織が飛呂之に聞く。

「赤ちゃんは何か月までの子ならOKなのかしら?」

「本来は1歳未満のようですが、私の知る限りでは1歳半くらいの子が参加した例もありました」

「ちょっと薹が立ってるけど、華音でどうかしら…」

「うーたん!」眉間にしわを寄せる華音。

「おばあさま…」龍が言う。「そんな言い方するから、華音がもう怒ってるよ」

「華音。まだ怒らなくてもよくてよ」

 火花を散らす華織と華音。


「凛くんはどうでしょう?」

 紗由が提案すると、飛呂之が残念そうに言う。

「ある意味、気を吸い取る神事ですので、それに耐えられる状態かどうか…」


「凛を…参加させていただけないでしょうか」

 そこへ現れたのは、スヤスヤ眠る凛を抱いた誠だった。


  *  *  *


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