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その18

 真里菜が手元の札束を見ながら言う。

「このお金、翔太くんに渡しに行ってくる」

「うん。行こう!」

 紗由、奏子、史緒も同行することになり、途中で恭介と、その面倒を見ていた充も加わり、結局、探偵事務所のメンバー総出となった。


「史緒ちゃんのごせんたくどおりになったね」真里菜が言う。

「でも、こんなにいっぱいお金もらえると思ってなかった。奏子のおこずかい、500円玉一個だし、お札なんてお正月でないともらわないし」

「さきにお祝いしたのがきいたのでしょうか」微笑む史緒。

「じゃあ、もっとお祝いしておこう!」


「何を?」恭介が聞く。

「凛くんが元気になる。清流のお祭りがうまくいく。お菓子がいっぱい食べられる」

「最後のは、もう叶ってるでござるな」

「ていうか、毎日むりやり叶えてるじゃん」

 恭介が言うと紗由がニンマリ笑う。

「恭介くんが泣き虫。もお祝いしましょう」


「やめて…」涙目の恭介。

「わあ。叶いましたわ」微笑む史緒。


「師匠!」

 池のほとりにいる翔太の元へ、充が走っていく。

「どないしたん。みんなおそろいで」

 翔太が皆を見回すと、真里菜が一歩前に出て、翔太に札束を差し出す。

「大祭へのご寄付です」

「もしかして…それ…」

「ドラゴちゃんがくれました。ぬいぐるみの代金です。でも、大地くんが、お祭りに寄付するって言いました」

 紗由は弟龍の持つぬいぐるみに、ドラゴちゃんという名前を付けたらしい。

「そうか…」


 翔太はしばし考えた。

 このありがたい寄付を、どうすれば有効に使えるのだろうかと。

 手元には自分がいただいた100万円もある。

「どうやって使うかかんがえてるの?」紗由が尋ねる。

「ああ。俺ももろたし、祭の準備はもう整ってるし、何に使うたらええやろな…」


「かわいくておしゃれな青龍ストラップつくったら、どうかなあ」真里菜が言う。

「いいですね!」

「うちの会社に注文してもらったら作るから、それを清流旅館で売るの」

 にっこり笑う真里菜に一同は思った。

“商才がある…”


「うちの店でも売るでござる」実家が居酒屋の充が言う。

「ストラップに石をつけてくれたら、奏子はその石をおまもりにしてあげます」

「誠おにいさんにもやってもらったら?」恭介が言う。

「四辻×一条のパワーストーンか。めっちゃ効きそうやな」


「恭介くんがやってるSNSで宣伝すればいいし」

 真里菜が言うと、恭介が大きく頷いた。

「かっこいいネクタイピンも作ってくれれば、おじいちゃんに付けておくよ」

 一同は、恭介の祖父で外務大臣の有川建造が、そのタイピンをしているところを想像した。

“龍よりカメのほうが似合いそうだな…”


「だったら…」真里菜がさらに続ける。「ネクタイピンに応募券つけたら?」

「おやつが当たるの?」

 紗由の問いには答えずに、説明する真里菜。

「当たるものは、史緒ちゃんの“書”。できれば、九条の命さまの書とペアがいいわ」

「何で?」尋ねる恭介。


「社長さんたちの間ではやってるんだって。史緒ちゃんのお父さまの書を飾ると会社がもうかるからって」

「…はい。いろんな方が、父にたのみにいらっしゃいます。ぜんぶ断ってますけど…」

「そこ、なんとかあ…」史緒の手を取り、見つめる紗由。


「命さまがダメなんだったら、史緒ちゃんのほうがよく効くってウワサ流せばいいんじゃないの」

「恭介くん、今日はサエてるわね!」

「では、そういうことで、さきに成功のお祝いをしましょう」

「おー!」


 翔太は、拳を振り上げる一同を微笑みながら見つめていた。


  *  *  *


 一方、急きょ、自宅に帰った誠に央司は聞いた。

「誠。これはどういうことなんだ?」

 凛の布団の周りを、50体はあろうかという、ぬいぐるみたちが取り囲んでいる。


「青い龍、赤い鳥、白い虎、黒い亀。四神を象っているのか?」

「はい。今日、青龍で行っているお祭り…と言いますか、重治先生の慰霊祭兼、青龍さまへの気の寄付集めイベントのおみやげなんです」

「おみやげ?」

「はい。気を御寄進いただいたお礼といいますか…」


「なぜ、それがここに?」

「瞬間移動のマジックを試みたのですが、少々ミスってしまいまして…。あ、ちゃんと獣神さまたちには行きわたっています。これらは予備というか…」

 誠が言い終えるか終えないかのうちに、央司は立ち上がり、部屋のふすまを開けて廊下に出ると、窓を開けた。

 庭には獣神たちが渦巻いている。


「獣神さまがた…ようこそおいでくださいました」

 ひれ伏す央司に続き、誠もその横でひれ伏す。

 すると、青龍神が部屋に入ってきた。

「我は清流旅館の守り神の弟。凛の見舞いに参じた」

「ありがとうございます」


 その時、目を覚ました凛が、弟龍を見つめ、キャッキャと笑う。

「おお…よき子じゃ」

 弟龍は、その髭でやさしく凛を撫でると、口から虹色の玉を吐き出し、凛に浴びせる。

 それを、ミルクを飲むように口を開けて吸い込む凛。

「たくさん、飲むがよい」


 弟龍の胸元から、ポンと飛び降りた“ドラゴちゃん”は、たくさんのぬいぐるみをかき分け、凛の枕元に来ると、庭の方に向き直り、手招きをする。

「イイモノ、ヤル!」

 それが合図であるかのように、庭の獣神たちは、順番に部屋に入っては、凛に気を浴びせ、ぬいぐるみを一つずつ持って庭に出る。


 凛の頬は、気が充満したためか紅潮している。

 そして、しばらくすると、すやすやと眠りについた。

「なんとありがたき…」央司と誠の頬に涙が伝う。

 部屋に残っていた弟龍は言った。

「依り代が二つ残っている。ひとつはこちらの黄龍さまのぶん、もう一つは清流旅館にいる我が兄のぶん」

「兄上様のぶんはいかように…」

「預かっておいてくれ。兄者がこちらへ伺う口実になろう」

 弟龍は、ドラゴちゃんと、新たな1体のぬいぐるみを抱え、部屋を出ると、空へ飛翔した。


  *  *  *



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