その17
「ねえ、紗由ちゃん。だれが何を間違えたの?」
「誠おにいさんが、手品を」
さらに首の傾げ方が大きくなっていく真里菜と奏子。
「あのね、誠おにいさん、瞬間移動っていうのをやろうとしてたの」
「パッて遠くに行っちゃうやつ?」
奏子の問いに頷く紗由。
「神さまたち、まーくんとまこちゃんのファッションショー見てたでしょ。そこに、パッて呼ぼうとしたらしいんだけど…」
紗由が説明していると、駆け寄ってくる誠。
「ごめんね…みんな。驚かせちゃって…」
「だいじょうぶです」ニッコリ笑う奏子。「泣いたの、恭介くんだけですから」
「あ、そう…」
「大きいぬいぐるみが100個も走って来たから、びっくりしちゃったみたい」
紗由が言うと、真里菜が叫ぶ。
「わかった! まとめて動かそうとしたら、かってに動いちゃったんだ!」
「手品でやるには人手が足りなかったから、念を使って動かそうとしたら、あんなことに…あはは」乾いた笑いの誠。
「そういえば数が多かったよね。確か50柱くらいでしょ、獣神さまたち」
「いっぱいあるほうが、神さまたちが、他の神さまもいっぱい来るって思うかなって、思ったの」
真里菜の言葉に感心する誠。
「まりりんちゃんは、本当に商才がありそうだねえ」
「“しょうさい”って何ですか?」紗由が尋ねる。
「ビジネスの才能だよ。まりりんちゃんのおじいさんが上手なやつ」
「それなら、まりりんは、すごいんです!」ニコニコ顔の奏子。
「でも…全部なくなっちゃったね。半分残る計算だけど…」
「あれ? 神さまたち、1個ずつしか持ってなかったですよ?」
「えーと…ということは…」
「どこかに“瞬間移動”しちゃったんですね」
「うわあ…探さないと…」疲れた顔の誠。
「誠おにいさん」真里菜が言う。「なんで、一番前にいた龍のぬいぐるみだけ、おしゃべりしたんですか?」
「しゃべったの?」驚く誠。
「おにいさんのしわざじゃないんですか?」誠をじっと見つめる紗由。
「…仕業じゃありません」
「ふーん。だれがやったのかなあ…」
紗由は辺りをぐるりと見渡した。
* * *
翔太は、青龍に“気の寄付”をしてくれた獣神たちに、礼を言って回ろうとしていた。
だが、十数柱の龍神たちに取り囲まれ、身動きが取れなくなっていた。
「龍の子じゃ…」翔太をのぞき込んで、口々に唱える龍神たち。
「あ、あの…この度は、ほんまにありがとうございます」
翔太が頭を下げると、弟龍のぬいぐるみが翔太の足元にやってきた。
「イイモノ、ヤル」
翔太の靴の上に100万円の札束を置くぬいぐるみ。
「え?」
「依り代の代金だ」
「いえ…“気”をいただいているのですから」
札束を拾い上げ、返そうと両手で掲げる翔太。
「では、そなたの花嫁に旨い物でも馳走してやれ」
「紗由ちゃんに…?」
翔太は弟龍を見つめながら、思わず考えた。
“100万で、どんぐらい、もつかな…”
「足りぬか?」
「い、いえ。とんでもありません」冷や汗を拭う翔太。「あの…これは、依り代を作ってくれたところに、代金として渡そうと思いますが、よろしいでしょうか」
「承知。渡すとしよう」
「後で渡しておきます」
「我の務めだ」
「イイモノ、ヤル」
ぬいぐるみは、抱っこをせがむように腕を伸ばす。
弟龍は、ぬいぐるみを髭で巻き上げると姿を消した。
「あの、これ…!」
翔太は、手元の札束と空を交互に見つめた。
* * *
史緒が大地を連れて、紗由たちのところに戻って来た。
「お連れしました!」
大地と手をつなぎながら、嬉しそうに言う史緒。
「ありがとう、史緒ちゃん」
紗由が言うと、史緒は、いいえと言いながら、大地とつながった手をぶるんぶるんと振る。
「真里菜、腕がだるいの?」
「うん。腕、ぷるぷる……してない!」
「よかった、よかった」ニコニコの大地。
「もう治っちゃった。でも、足がぷるぷる……?」
真里菜が足元を見ると、弟龍のぬいぐるみが真里菜のブーツを掴んで動かしている。
「さっきの子!」
「イイモノ、ヤル」
真里菜の靴の上に100万円の札束を置くぬいぐるみ。
「依り代の代金だ」
真里菜の目の前にふわりと現れる弟龍。
「あ、あの…」
動揺しているのか、ぬいぐるみをむんずとつかみ上げ、そのポケットの中に札束を押し込む真里菜。
「神さま。ぬいぐるみは、久我家からの寄付です」大地が言う。「神さまたちが“気”を寄付してくださったのと同じです」
「そうか…」
「なので、清流旅館のお祭りに、このお金は寄付したいと思います」
「よいこじゃ。だが翔太にも渡した」
「イイモノ、ヤッタ!」真里菜の腕の中で言うぬいぐるみ。
「ねえ。あなた、何でしゃべれるの?」
「ワレハ、カケラ」
「何の?」
紗由が尋ねると、弟龍は真里菜に札束を渡し、ぬいぐるみをそっと取り上げ、天に昇って行った。
「秘密なんだ…」
紗由は口をとがらせて空を見上げた。
* * *
その頃、京都の一条家では、先の宮である誠の父親、央司が誠に電話をしていた。
「凛がぬいぐるみに囲まれているんだが…」
「すぐ戻るから」
誠は慌てて電話を切った。
* * *




