その14
弥生から預かった広幡家由来の水晶を巡り、伊勢では困惑を極めていた。
「つまり、これまで清流旅館にかなりの負担がかかっていたということなのか?」
「異議を唱えると、西園寺に対する非難が強まると思って我慢していたと」
「しかも、我々伊勢のことを心配しているではないか、小学生の翔太が…」
「一条も…その力を凛のアレルギー体質に対して使えば治癒せしものを、“命”の掟に従い、それをしていない」
「どこぞの“集”なら、堂々と使うであろうに…」
「どういたしますか」
「重治へのお別れ会があるのだったな…そこが滞りなく行われないと、翌々日の大祭にも影響が及ぶはず」
「獣神様方には、制約を加えないほうが得策かと…」
「清流旅館の青龍神への移動も自由にさせますか」
「その石を人質に取ったのですから、約束は果たさねば」
「逆に翔太への負担になるのでは」
数人の評議員が話し合っているところへ、御簾の奥から白装束の男性が現れた。
「では、加勢してやるがよい」
「奥の君…!」
そこにいた者たちは、一斉にひれ伏した。
* * *
弥生が伊勢に渡した水晶の向こうで繰り広げられていた様子を、四辻家の水晶を通して見ていた翔太は、眉間にしわを寄せた。
「なんや、俺、ほんまのアホの子みたいになっとるがな」
「おばあさまの考える設定だからなあ」苦笑する龍。
「えーと、青龍さまがあたまのわるい子になってるんですね」紗由が頷く。
「卵を産むたびに割っちゃって、もったいないから、翔太くん食べて~って、普通ありえんやろ」
「なんか、これだと、翔太はこの一年卵しか食べてないよな、その量から言って…」龍もため息をつく。
「紗由を呼んでくれれば…卵いっぱい食べてあげたのに…」少し悔しそうな紗由。「オムレツ、たまご焼き、めだま焼き、たまごサンドイッチ、スクランブルエッグにフレンチトースト、ちゃわんむし、プリン…」
「すごい量やな…」表情がなくなっていく翔太。
「でもまあ、その度重なる卵のふるまいを経て、翔太は青龍さまのエキスを物理的にも体に入れて、青龍と化したって話なんだろ」
「無茶苦茶や。俺、青龍さまの御力など持っとらんし、精査されたら、すぐわかるやろ、そんなん」
「精査ぐらいしたんじゃないの?」翼が言う。
「…翔太、おまえ、本当に青龍の卵食べてたのか?」いぶかしげな龍。
「んなわけないやろ!」
「でも、あの伊勢勢のことだよ。しないわけないっていうか…」改めて言う翼。「した上で文句が来てないってことは、精査を通過したってことだよね」
「翔太の力が上がってるってことか?」
「うん。龍がわからないくらいに、そして龍が想像している以上に」
翼の言葉に、一同は翼を見つめた。
* * *
真里菜の指令によって出来上がった、四神のぬいぐるみが清流旅館に運び込まれた。
ぬいぐるみというよりは、抱き枕仕様。大きくても寝室に置いておいておけば自然だ。
青龍、白虎、朱雀、玄武、それぞれ25個ずつだ。
「まりりん、こんなにいっぱい、大丈夫なの?…」
心配そうな奏子に真里菜は言う。
「だいじょうぶよ」
「たくさんあったほうが、獣神さまたちも、こんなに来るんだーって思うよ」恭介がフォローする。
「うん。それに、余ったら、2個欲しい獣神さまには買ってもらえばいいから」
「売る…のでござるか、あねご…」
「買いたくなっちゃうような、すごいものなら買うでしょ?」自信満々な真里菜。
「レザンのチーズケーキは、すごくおいしいから買っちゃいますよねえ」
「充くんが女の子の神様に売ればいいよ。紗由ちゃんとまりりんと奏子ちゃんは男の子の神様に売れば」
「恭介くんも売りなさいよ!」仁王立ちする真里菜。
「すんごく役に立つって説明してくれれば、神様も、ほお~って思って買ってくれますね」頷く紗由。
「ことわるのがめんどうになって、きっと買ってくれます」無表情に言う奏子。
史緒が半紙と筆ペンを取り出し、天を仰ぐと、さらさらと書き出した。
「ごせんたくです」
半紙には“祝完売”と書いてある。
「じゃあ、売れたのを、先にお祝いしちゃおう!」
紗由がこぶしを天に振り上げると、他のメンバーもそれに従った。
「おー!」
* * *
「ここんとこ、石を通じて回覧板が回ってくるんだ」くすくす笑う翼。
「どこから?」
「うーん。たぶん先の宮様から。華織おばさまが、退任した時に、自分の力を進子おねえさんに渡したのも、それで知った」
「風馬はんにやのうてか?」驚く翔太。
「風馬さんの封印は解いたみたい。だから力は倍くらいになってるんじゃないのかな」
「今まで半分やったいうことか? 風馬はんが華織はんのとこに戻って来た時にも封印解いた言うてたけど、一部だけやったんか…」
「西園寺は敵に回したらダメだよね」苦笑する翼。
「進子おねえさんに渡った力は、いずれ紗由へ。そういうことなんだろうな」龍が言う。
“お菓子もらえるんですか?”という紗由の声が、龍の頭の中に流れてきた。
「…大丈夫かな、紗由に渡して」
「そう言えば、“回覧板”に面白いことが書いてあったよ」
翼の意味深な微笑みに、皆、体を乗り出した。
* * *




