その12
紗由の言葉の意味が、他のメンバーには理解できないらしく、皆、怪訝な顔をする。
「獣神さまたちが、だれとでもお話できるようにしてあげるって、どういうこと?」
真里菜が尋ねると、紗由はゆっくりと答えた。
「紗由もね、この前まで、青龍さまや黄龍さまとお話できなかったの」
「僕、今もできないよ」恭介が不機嫌そうに言う。
「でも、気配を感じたりできるでしょ? ここにいるみんなは、自分のやり方でお話してるんだと思うの」
「うーん」腕組みする恭介。
「まりりんだったら、においでわかったり。
奏子ちゃんだったら、石が教えてくれたり。
充くんも恭介くんも、気配でわかるでしょ?
史緒ちゃんは、お習字でわかるし」
「確かに、いるのは感じる」頷く恭介。
「でもね、普通の人たちは、そういうのもないらしいの。
みんなのとうさまや、かあさまは、いろいろと、わからない人が多いでしょう?」
「わかるのは、充くんのママと、まりりんのパパぐらいかしら」奏子が言う。
「だから、ふだんお話できない人とも、直接お話できるようにしてあげるのが、ごほうび」ニッコリ笑う紗由。
「できたら、きっとうれしいですわね」史緒が頷く。
「でも、どうやるの?」
「“依り代”っていうのを作ろうと思うの」
「乗り移る場所でござるな」
「そう、それ」
「獣神さまたちが、乗り移る場所を作るのね」
「どこに移ってもらうの?」
「ぬいぐるみかなあ」
「ぬいぐるみ?」
「おでかけするときにも、持って行けるものがいいと思うの」
「でも誰が作るの、それ」難し気な顔の恭介。「獣神さまって、たくさんいるんでしょ? 一人一個だとしても、たくさんだよね?」
「うちが何とかするわ」腰に両手のポーズで立ち上がる真里菜。「うちの雑誌の通販で、ぬいぐるみも売ってるし」
「まりりんが作ってくれるなら、きっとおしゃれなぬいぐるみになるね」ウフフと笑う奏子。
「ありがとう、まりりん!」真里菜の手を取り、ぶんぶん握手する紗由。
「ただ…」真里菜がふっと笑う。「おまつりが終わったら、うちのおじいちゃまが“しゃべるぬいぐるみ”として売り出そうっていうと思うの…」
「どこの、おじいちゃんどのも、商売上手でござるな」
充の言葉に、さっきの“青龍コスプレ”の件を思い出す一同。
「あとね、もうひとつ考えがあるの」
「考え?」
「獣神さまが、自分の“気”をどれくらい青龍さまにくれたかによって、ぬいぐるみの大きさを変えたらいいと思うの」
「たくさん下さった神様には、大きいぬいぐるみを差し上げるのですね」
「僕だったら、くれた“気”の量に関係なく、全員に大きいぬいぐるみをあげるなあ」
そう発現する恭介を見つめる奏子。
「全員に?」
「私も恭介くんに賛成」真里菜が言う。
「どうしてですの?」
不思議そうな史緒に向かって、恭介が咳払いする。
「少ししかあげてないのに、たくさんあげた人と同じごほうびをもらったら、後ろめたくなると思うんだ」
「ああ、だから、後ろめたい神様が、もっと“気”をくれるのね」
「そういうこと」
「ただ…」真里菜が割り込む。「そこで終わっちゃうと、さいしょからたくさんくれた神様はなんとなくおもしろくないと思うの」
「そうよね。さいしょからいっぱいあげてるのに」
「だからね、たくさんくれた神様には、おまけを付けてあげるといいと思うの」
「どんなおまけでござるか?」
「獣神さまのストラップなんか、いいんじゃないかなあ。大人でも持って行けるでしょ」
「そうですわね。ぬいぐるみだと、大人の男の人は、あまり持って歩きません」
「OKです! まりりんと恭介くんの案で行きましょう!」
「おー!」
探偵事務所のメンバーは皆で拍手すると、ある意味予定通り、紗由がおやつを食べ始めた。
* * *
清流旅館の庭先では、衣装合わせを終えた、正確に言うならば、青龍の衣装を着たままの聖人と真琴が、嬉しそうに走り回っている。
清流旅館では、祭の前と後の各一週間は一般客を取っておらず、双子たちにしても、気兼ねなく遊べるのだ。
そこにやってきたのは、白い仔猫を抱えて歩いてくる弥生だった。
「やよいちゃん!」
駆け寄る聖人と真琴に微笑む弥生。
「まあ…二人とも、本物の青龍さまみたい。かわいいわ」
「ありがとう!」声をそろえる聖人と真琴。
「やよいちゃん。そのネコさん、どうしたの?」真琴が尋ねる。
「アトリエの前で泣いていたの…」
やよいがしゃがむと、聖人と真琴が、仔猫の頭を撫でる。
みゃあと泣く仔猫。
そこにやってきたのは鈴音だった。
「あら、おかあさん。どうしたの、そのネコ…」
「アトリエの前に捨てられていて…うちで飼ってもいいかしら」
「それでしたら、縞猫荘で飼わせていただけないでしょうか」
鈴音の後ろからやってきた弾が言う。
「白虎さまに似ている姿…これも何かのご縁かと。聖人さまと真琴さまがおいでの際にも、喜んでいただけると思いますので」
「まあ、そうしていただければありがたいですわ」
「まこたちのおやどに、ネコさんくるの?」うれしそうに聞く真琴。
「そうですよ。名前はどうしましょうねえ」
「びゃっこちゃん!」
聖人が元気よく叫んだ。
初代“びゃっこちゃん”の誕生である。
「では、そういたしましょう。…ところで弥生さん、ご相談があるのですが」
「私に?」
「はい。大祭のことです」
「大祭のこと…?」
「実は伊勢からの指示が届きまして…」
弾は弥生に一通の封書を手渡した。
* * *




