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第6話 魔導図書館の夜

2018/11/4:修正…文章分割、冗長な部分のカット(まだ修正予定)

 とりあえず、ここ、附属魔導図書館が収蔵している地図をありったけ拡げてみることになった。

 ステラが言うには、ここ西帝国附属魔導図書館では、西帝国全ての文献や資料の他、隣の中王国をはじめ、諸国の文献や資料もあり、最大の図書館とのことだ。


 その図書館で、できる限りの地図や文献を探し出そうってんだから、すぐにできるわけじゃない。


 ま、他国はひとまず置いておいて、まずは近場だろう? 


というわけで、この帝都アルス周辺の地図と地理に関する文献(ぶんけん)を、3人で手分けして探している最中だ。


「おい! いつまでこれやらんきゃならんのだ?」

「もう疲れました…… ユキテルさん……」

「お腹へったよ、お兄ちゃん、聞いてる?」


 はりきって探し始めたのはいいけれど、かれこれ2時間ほど……。


 さすがにみんなから文句が出てきた。

そろそろ休むかなと思っていると、ルルが言いにくそうに、もじもじしながら話しかけてきた。


「あの、ユキテルさん、もう暗くなってしまってきたのですが……」

「え? ああ、もうそんな時間か」


俺はふと窓の外を見た。ルルの言う通り、もうすっかり真っ暗になってしまっていた。


「どうしましょう? いつでも神殿には魔法で戻れるのですが、あんまり遅くなっても……。 ネルはもう眠むそうですし……」

「この図書館って、俺が借りても構わないの?」

「どうでしょう? たぶん大丈夫だと思うのですが、ステラに聞いてみますね」


 そういうとルルはステラがいる棚の方へと向かっていった。


すぐ近くにいたネルの様子を伺うと、本を手にとったまま、こくりこくりと眠そうにしていた。

 ……しょうがないなあ。俺はネルを起こさないように、本を元に戻して、そっとネルを近場の長椅子に横にした。


 ちょうどその頃、ルルはステラに、ユキテルの本や資料の貸出について、尋ねていた。


「ねえ、ステラ。ユキテルさんって本の貸出は大丈夫だよね?」

「貸出? ユキテルを貸し出してくれるのかな?」

「ち、違うわよ! な、何言ってるのよ! ほ、本よ、本!」

「わはは! 冗談よ、冗談! 本気にしちゃって、可愛いぃ」

「もう!まったく!」


 ステラは楽しそうにルルをからかうが、真剣な顔に戻って、質問に答えた。


「本と資料の貸し出しは大丈夫。 貸出厳禁のものについては、複写したものがあるから、そちらを貸し出し可能だね。でも、ルル。 資料拡げる場所あるの?」

「神殿の離れがあるから、そちらの方で、お仕事していただければなって……」

「へえ、ちゃんともう準備してたんだ」

「え?、だ、だって、ネルの魔力を通じて、どういう人かわかってたもの」

「……ほんとは彼が好きだから、この仕事まかせようって思ったんじゃない?」

「そ、そんなことないわ!ステラ!公私混同なんてしないわ!」

「まあまあ、ルルったら、そんなに興奮しないで……。まったく、あんな優柔不断そうな男のどこがいいんだか。まあ、さっきの地図のやりとりで、ちょっとは考えてることはわかったから。 でも今晩はどうする? さすがにこれから帰って、食事の支度したりするのはキツくない?」

「そうね……」


 まだ頬を桜色に染めているルルを見ながら、ステラはこめかみに人差し指を当てて、ちょっと考えてみる。大親友のルルが選んだ、あのユキテルという男を、まだ信用したわけではない。実際に仕事をしたわけじゃないからだ。


 まあ、優柔不断だけど、真面目そうではあるな……。

そして、ふと思いついたように、ルルに提案してみる。


「あのさ、今晩はうちに泊まっていかない?」

「え? いいの?お仕事あるんじゃない?」

「今日は大丈夫。夕食はまかせた」


ステラはそう言って、ユキテルのいる棚へと向かっていった。


 困ったな……。俺は素直に困っていた。 

 

 まあ、とりあえずはこの帝都周辺の地図や地形関係の資料は揃った。 ただちゃんとした場所ないと、資料広げられんのだが…… いっそのこと、この図書館で場所貸してくれないかな…… いや、でも、あの高飛車な奴に頭下げたくねえ……。

 そんなことを悶々と考えていると、ルルたちがおしゃべりしながら戻ってきた。そしてステラが、尊大な態度で腰に手を当てて、無駄に大きな胸を揺らしながら、俺に言い放った。


「さて!喜べ!今日は特別にお前をここに泊めてやるぞ」

「は? 図書館に?」

「異論は認めない」


 ルルの方を見ると、苦笑しながらも頷いた。

2人で決めたな……。 

 俺は、気持ちよさそうに、熟睡してしまっているネルを横目でみて、肩をすくめながら応えた。


「わかったよ。 寝た子を起こすのも悪いから、お邪魔(じゃま)させてもらうよ」


 すると、その返事を待っていたかのように、白髪のタキシードを着たダンディなおじさんが、俺らの傍にやってきた。


「ダン、今日はこの人達を泊めるから、お部屋へご案内して」

「承知いたしました。ステラお嬢様」

「ステラ? この方は?」

「ああ、気にしないで。 優柔不断男。彼はここ附属図書館専属の秘書だから」

「ひ、秘書っ! お前、実は偉かったのか?」

「そうだけど? ルルには負けるけどね」


 ルルは顔を真っ赤にしつつ、両手をぶんぶん振りながらも否定する。

う。このふんぞり返ってる女…… そんなに偉いのか。 

でもルルがそれより立場が上って……。 

そんなことを思っていると、タキシード姿の秘書は俺たちに会釈をしながら、移動を促す。


「ルル様とそのお連れの方々はこちらへどうぞ」


 まだ寝ていたネルを、俺は抱きかかえて、その秘書の後ろをついていくことにした。

腕の中のネルはとても軽く、やわらかく温かみがあった。

そんなネルの寝顔を見つめていると、ルルもその寝顔を覗き込むようにしてきた。

その表情はとても優しく穏やかだった。


 その間、ダンは静かに螺旋状になっている廊下の赤い絨毯の上を先導してくれていた。やがて、重厚な樹木や蔦を模した彫刻の扉の前に立つと、その扉を開けてうやうやしく、一礼をした。


「どうぞ。 ルル様たちはこちらとなります。ごゆるりとおくつろぎくださいませ。何かご用件がございましたら、いつでもお呼びくださいませ」

「ありがとう、ダン」


 ルルはにこやかに老秘書に会釈をしたあと、ソファにくたびれたかのように、ぐったりと座った。

 俺はネルをその隣にゆっくりと降ろして、スースーと寝息を立てているのを、ホッとして眺めた。


 すると、ルルがため息をつきながらも、気遣うかのように、そっと声をかけてきた。


「はあ。 今日は疲れましたね。 ユキテルさん」

「まあね……。 でも、あのステラって、どうしたもんだか……」

「あはは。 彼女はああいう性格だから……。それに仕事には厳しいのですよ」

「……だろうね」


 しかし、いきなり初対面で『こんなやつ』呼ばわりとは……。

俺の元上司みたいな奴……。


 そんなことをいろいろ考えていると、バッタンと扉を勢いよく開ける音がした。

そこにはステラが両手を腰にあてて、思いっきりふんぞり返って、鼻息荒く立っていた。


「しっ! 静かに。 ネルは寝てるんですよ……」

「…… ごめん。ちょっとネルも起こしてくれると嬉しいんだけどな」

「はあ。 しょうがないわね、ステラ。 なんでネル起こさなきゃだめなの?」


 ルルが眉を吊り上げ、そっと口に人差し指に手をやりながら、ステラに言った。ちょっと怒ってるみたいだ。


 そのステラ本人はそれほど悪びれもせず、俺たちに両手を合わせて拝み倒しているが。

 

「どうしてもネルを起こさなくちゃダメ?」

「さっき話しそびれちゃってさ…… アハハ」

「お仕事上のことだよね?」

「もちろん!」


 コクコクと頷くステラを見ながら、ルルはため息をついた。

そして小声で俺に、ネルを起こしてねとつぶやいた。


「……ネル、ネル。 起きて!」

「むにゅにゅ……」

「ステラが用があるってさ。 ほら、ネルったら、ネル!」


 なかなか起きないネル。

しょうがないので、ちょっと肩を揺さぶると、羽根をパタタッとさせてようやくお目覚めのようだ。


「……ふみゅ、どしたの?」

「ああ、なんかステラが話があるんだってさ」

「ん。お仕事のこと?」

「そのようだよ」


 あ、そんな嫌そうな顔しなくても……。 俺だって嫌だよ。


「で、ステラ。何の話?」


今にも文句を言いそうなネルに代わって、俺が尋ねた。


「ごめん。で、肝心な打ち合わせをするのを忘れたから、思い出したうちに話をしておくよ」

「ん?」

「で、ルル、ユキテル、ネルもいいかな。 今回、わざわざここに、あたいが呼び出したのは、これからの調査計画を立てることと、予算獲得のための段取りづくりの打ち合わせさ」

「おい。最初にやることは、地形図に遺跡の位置を記入してくとこからだって、言ったこと忘れたのか?」

「で、その後は? 全体の計画はどうするのさ? 全体の計画もなしに、国王陛下に予算くれって言えるわけないだろ?」

「う……わかったよ」


 まさに売り言葉に買い言葉だった。

ついつい目先の地図探しに、熱中してしまった俺らも悪いよな。


「ねえ、ユキテルさんもステラも、明日、詳しい打ち合わせをするってことにしない? もう眠いもの……」

「わ、わかったよ。ルル。で、打ち合わせのたたき台くらい、ユキテル!お前、作ってくれよ。できるだろ?

明日、朝飯前にちょくら、打ち合わせ済ませたいからさ」

「明日、あさイチに打ち合わせか!」


 俺はあまりの無理難題さに(あき)れた。この子、S(サド)かよ!

そう心の中で毒づいてると、さらに追い打ちをかけてきた。


「その打ち合わせ終わったら、王宮に一緒に行きたいんだ」

「なんで、明日行かなきゃならんのだ?」

「だって国王がいるのは明日の午前中だけで、それ逃すと数ヶ月待たなきゃならんからさ」

「どうしても明日、俺は国王に会わなきゃならんのか?」

「いきなり予算よこせって言えないでしょうに。せっかくルルたちと街に出てきたんだから、顔見せくらいしておかないとまずいと思うけど?そのために呼んだんだし!」

 

 最初にそれ、言ってほしかったよ…… 

あっさりと言ってくれるねえ。ステラ!


ロクに資料も(そろ)わないうちに、打ち合わせとか。

まあ、数万ヶ所くらいって、遺跡件数ある程度わかってるんだし、昼間集めた手持ちの資料だけで、とりあえず作ってみるか。


ルルも明日、また詳しいこと話し合おうって、言ってくれてることだしね。しかたない……。 


 結局、俺はその夜、徹夜で手持ちの地図や地形の資料を元に、帝都アルス近辺の遺跡があると思われるところの数や大まかな調査の予算を作ったのだった。


 夕飯? 俺は食べてるヒマなかったよ……。とほほ。

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