表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

6/41

第5話 図書館ショートヘア少女と小競り合い

「くわしい地図?…… しかも地形が書いてないとダメなのか?」

「はい。 ダメですね」


と、あっさり俺はステラに冷たく言い返した。


「なんでだ? 地図みてるだけじゃ、わかんないんじゃないか?」


 ステラのその疑問はもっともだ。

でも考古学の基本のキは地図だ。

そこんとこ話しておかないとな。


「地図から地形が読み取れれば、ある程度、遺跡のあるなしがわかるんですよ。 それに今までわかってる遺跡の位置を地図に書き込んでいけば、もっとあるかないかが推測できるんですよ」

「へえ。 そういうもんなのか……」

「そういうこと。 だからまず、この国全体の地図をください。貸し出しだけでも十分ですよ」


ここは西帝国附属魔導図書館の閲覧室(えつらんしつ)の一角だ。


 昼食をとってから、突然、この高飛車少女…… じゃなくって…… ステラに呼び出だされた挙句、イチャモンをつけられたため、これからの仕事の見通しというか計画を、3人で話し合ってるところだ。


「で? 地図はないのかな?」 俺はこれ見よがしに、肩をすくめてみせる。

「…… な、ないよ…… 全体の地図なんて……」

「へえ。この立派な図書館にも、地図ないんだあ」

「ぜ、全体の地図はないって、言ってるの! 部分部分はあるわよっ!」

「部分部分? 何それ? 地図の意味あるの?」


「ま、まあまあ。2人ともそんなに熱くならないで……」

「そうそう。遺跡がたくさんあるんだったら、お兄ちゃんもステラもさあ、焦ってもしかたないよぅ。 気長に気長に」


 真っ赤な顔をして反論するステラと俺を、まあまあと割って入ってきたのがルルとネルだ。

だんだんと俺とステラの距離が互いに近くなり、喧嘩腰(けんかごし)になってきたので、何とかしなきゃと思ったらしい。


 まあ、さすがに歳下の女の子にムキになることもないや……。 

ちょっと深呼吸して、冷静になった俺は、ステラに尋ねてみる。


「…… で、ステラ。 部分部分の地図しかないって、どういう意味?」

「…… 元々、それぞれの街が、勝手に自分たちの周囲の地図を作ってきたんだ。それで街周辺の地図は個別にあるんだけど、一つにまとまったものってないんだよ」

「ほおぅ。地形もそれぞれの街周辺というか、自分たちに影響あるところについてはあるってことかな?」

「そういうこと」


ステラも少し冷静になったようで、ふぅとため息をつきながらも応えた。


「じ、じゃ、ステラもユキテルさんも、ネルもせっかくだから、お茶にしましょう?」

「…… ルルの言う通りか……。じゃ、ルル。ちょっと手伝ってくれない?」

「いいわよ。 じゃ、ネルもユキテルさんも、ここで待っててね」


そう言って、手を振りながら、ルルはステラとお茶の用意をしに、奥の方へ行った。


「ねえ。 お兄ちゃん?」

「どうしたの? ネル」

「なんか不安?」

「ああ、ちょっとね……。 なんでわかったの?」

「さっきから、本棚の方をずっと見てて、眉間にシワを寄せてるから」

「うん。 そもそも俺、文字読めるのかなって思ってさ……。 大層なことをステラに言ったけど、資料を読めなきゃ意味ないからさ……」

「あ、そういうことなら安心して! こうやって会話できてるんだからさ。 読めると思うよ」 

「そうなのか?」

「だったら、お兄ちゃん、試してみれば? そこに本あるんだしさ…… ね?」

「ほい! これでどうかな?」


 にっこりしながら、ネルは本棚から本を一冊抜き出すと、ポイっと俺に放り投げた。

受け取った本は、思ったよりもずっしりとしていて、装幀もかなりしっかりしている。それに古書特有の汚れも少ない。性格悪いけど、ここの図書館職員は意外としっかりしてるな……。


 俺がその本をめくると、古代エジプトのヒエログリフか、マヤ文字のような絵文字が、目に飛び込んできた。そう思ったのはつかの間、すぐに頭の中に、日本語としての情報が流れてきたのだ。

 

 どういうしくみになってるんだ……。


「ほえ? 読めるわ……。 すごいや、ネル!」

「ふふん。 そうでしょ、そうでしょ。 ほめてほめて」

「よしよし。 って、ほんとにネルの一部が、俺の中にあるのか?」

「うん! そうだよ。 こっちに来るときに、溶け込ませちゃった。どこで何してるかもわかるよ」

「…… う。それって……。 風呂に入ってる時も、トイレの時もか?」

「あ、大丈夫! お兄ちゃんのプライバシーは守るから!」

「ほ、ほんとだろうな……」


 にこにこしているネルを、疑惑のジト目で見ていると、ルルとステラが、お茶セットを持って戻ってきた。


「は、はい…… ユキテルさん。 お口に合うかどうかわかりませんが、帝都アルスの銘菓なんですよ、これ」

「あ、ありがとうございます。ルル」


 お茶セットをテーブルに置くルルの頬が、心なしか赤くなってるし、ちょっと挙動がぎこちないけど?何かステラとあったのか……。 

 そんな俺とルルの様子を、面白そうに眺めていたステラは意味ありげに、にやりとすると、とんでもないことを口走った。


「で、2人はもう寝たのか?」

「おい……。このショート女子、何を突然、口走るんだ」

「別にぃ。だってこのご時世、男女2人が一つ屋根の下で寝ればやっちゃうぞ」

「一緒に寝ようって、ルルと僕が誘ったんだけどさ。 お兄ちゃんもルルも、恥ずかしがってダメだったんだ」

「…… こ、こら! ネルったら……」


 昨夜のことを話そうとするネルを、両手を振って全力で止めようとするルル。

そんな俺らの様子を見て、ステラは、にやにやと意味ありげに目を細めていた。


「な、なんだよ。 ステラ」

「いや、もしかしたら、ユキテルは女性経験がないのかな?と思ったから」

「ち、違う……。 あ、あるわい」 

「へえぇ。 赤くなってるけど?」 


 …… 図星だった。

だいたい、遺跡調査なんて仕事をしていると、そんな機会はほぼない……。

自分でも顔が火照ってるのがわかる……。 こんな高飛車ショートになんぞ、弱み見せてられるか……。


 ぐぬぬ…… 俺は逆転を(ねら)って、ステラの節操のなさを突くか……。


「ど、どうしてそんな風にすぐ寝るとかってなるんだ? おかしくないか? よほどステラはフリーダムなんだな」

「ん? 簡単なことさ。だって男性が少ないから!そういう機会もなかなかないから」

「…… 男性が少ない? なぜだ?」

「この国…… いや、この世界全体か、私たちの前の世代に大きな戦争があったんだ。 それで男性の大半がいなくなったんだ……」

「…… そうだったんだ…… って、それでも男性が数少ないからって、いきなりはないだろ? いきなりは?」

「あはは! まあまあ、いいって!」


 笑って誤魔化してるな、さては? 

ステラにつられてか、ルルやネルも『アハハ』と苦笑している。

ま、いいか…。


「おい! ステラ。 それはともかく、地図のことは?」

「おお! そうだった! ま、それぞれの街と周囲の地図は、地形を含めてあるよ。 ただ街と街の中間は街道周辺のしかないね」

「…… ちぇ。 じゃ、あとは現地調査しながら、地図作っていくしかないのか……」

「へ?……」

「ユ、ユキテルさん……」

「お兄ちゃん……」


 俺が独り言のようにつぶやいたことに、呆れたと言わんばかりに、皆がぽかんとする。

そんなに難しいことじゃないんだけどな。 それに都市周辺あたりとか、既にある程度あるわけだし……。


「ん? 変か?」

「だって地図作るって…… そんな簡単にできないぜ」

「できるさ。 それに地図は遺跡調査では重要だよ、ステラ。 調査前も調査後もだ」

「ち、ちょっと待って、ユキテルさん。 それって実際に歩きながら、地図を作っていくってこと?」

「そういうことだよ。 ルル。 器材や準備は必要だけれど、実際の調査でも、そうやって大なり小なり地図を作りながらやっていくんだ」

「わあ! すごいや! ユキテルお兄ちゃん!」

「…… で、器材もないし、人もいないんだが……」


 目を輝かせてるネルとは、正反対に冷ややかな目で、俺を見つめながら、ステラはボソっと言い放った。


「…… 器材も人もいないってことは、まずはそこからってことか」

「そういうことになる」


 ハッキリと告げるステラを見ながら、俺は思わず頭をボリボリ掻いた。

まあ、ここは<ヘブンズホールド>だからなあ……。 ちゃんと準備して、自分で段取りしないとダメだな。


「わかった!じゃ、これからいろいろ準備するよ。まずはこの大層(たいそう)な図書館にある地図を全部出してくれ」

「…… な、全部って…… どれだけあると思ってるのよ!」

「まあまあ、俺も手伝うし、きっとルルやネルも手伝ってくれるさ」

「「「えっ!」」」


 (あき)れたようにあんぐりと口を開ける彼女たちに、さも当然のように『やる』って、勢いで言ってしまった。


 まあ、しかたない。なんとかなるでしょ、きっと……。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ