第3話 街に行ってみる
2018/11/2 修正:朝食シーンをカット
ルルやネルの話を聞いて、俺は、この<ヘブンズホールド>という、この魔法がある世界で古代遺跡の調査や探索をすることとなった。
で、どうして、この2人…… 特にルルは俺の寝室にいるんだ?
ルルやネル達の話が終わった後、もう夜ですし、お疲れでしょうからって、ルルに案内されたのがこの部屋だったんだが……
「ねえ、なぜ2人とも薄着の寝間着らしきものに着てるの?」
「え? だ、だって、このお部屋は元々、私の寝所ですし…… そ、その、あ、あの…… このように、ご奉仕するのが当然! って、先代に教わったものですから……」
「ねえねえ、お兄ちゃん! 僕と一緒に寝よ」
赤く頬を染めながら、ルルはベットサイドでもじもじしてるわ……。
ネルはネルで、ベットの中から誘ってくるわ……。
まあ、ネルはいいよ。ネルは…… 。子どもだしさ……。
正直言って、28歳独身=彼女いない歴の、ヘタレな俺にとっては猛毒だわ……。
もし、神聖な巫女であるルルに、手出しなんかしたら……。
怖ろしくって……。
恥ずかしさのあまり、熱っぽくなってる自分の頬を感じながらも、とりあえず冷静に冷静に
そう冷静にならないと……。
「と、とろえず。とりあえず、今夜はいいからさ……」
「きゃはは! 舌かんだ! 僕やルルの姿みて、緊張してるね! 気にしない、気にしない! だって僕、まだ、女の子じゃないからさ」
う。ネルに笑われちまった……。
「え? ネルって、男の子なのかい?」と、素朴に疑問に思ったので、聞いてみる。
「ああ。 ネルは次に羽根が生え変わる時期までは、男の子か女の子かわからないんですよ。ネルのような蝶人族はそういうものなのですよ」
「そうそう! 僕は、まだ大人じゃないから! それにユキテルお兄ちゃんとは、ずっと一緒だもんね! もう僕の一部はお兄ちゃんの中に入ってるから。離れられないよ!」
「え? ネルの一部って?」
「あれ? ルルから説明聞いてないの? こっちに来る時に、僕の一部がユキテルお兄ちゃんの中に入ったから、言葉通じるんだよ?」
そんなことを言いながら、ネルはベットの上で立ち上がって、俺に飛びついてくる。
「ば、バカなこと言わないの! ネル! ユキテルから離れられないなんて……。 そんなことは、大人の女性がいう……」
と、言いかけて、ルルはハッとしたようによけいに真っ赤になって、両指をもじもじさせる。
これって、どういうこと? やっぱ、ルルはネルに嫉妬してるってことだよね?
…… ってことは、ルルは……。
ヘタレだけど、鈍感でも難聴キャラでもない俺でも、そのくらいは……。
「イテテ! ルルってば、何すんのさ」
「ほら! ネル、ユキテルさんが休めないから!」
ルルは真っ赤な頬のまま、ネルの耳をひっぱりながら、一緒に出ていってしまった。
***
翌朝起きて、昨日、ルル達と話をしていたホールに出ると、テーブルの上に果実を主体とする朝食が用意されていた。
朝食後、ルルから提案があった。
「ところで、ユキテルさん。今日はこれから、貴方の生活必需品を揃えたいのですが、よろしいでしょうか?」
「ま、まあ…… ほとんど着の身着のままで来ちゃったし。そうしたいとは思うけど……」
「ん? ルル! ユキテルお兄ちゃんとお買い物に行くの?」
急に目が覚めたかのように、ネルの瞳がパッと輝いて見えた。
「そうですよ、ネル。 ユキテルさんと買い物に行こうと思うの。ネルも一緒に行く?」
「うん! お買い物、一緒に行く!」
と、言うわけで、ルルとネルと3人で街に買い物へ行くことにした。
なんでもルルが言うには、神殿から帝都アルスまでは、公用ならば、直接、移動用の魔法で行くことができるのだそうだが、今回は私用だからということで、馬車を呼んでいくことになったのだ。
ん?ルルの場合、公務ってことは、国家公務員?
それとも巫女なのだから、もっと特殊な立場なのだろうか……。
よくわからん。あとで聞いてみるか……。
巨木が立ち並ぶ見事な並木……。その樹々の足元に色とりどりに咲き乱れる草花……。
俺は、今、はじめて自分がいた世界とは異なる世界の風景を、馬車に揺られながら観ていた。つい、さっきの出かける前の慌ただしさが、ほんとに嘘のような光景がそこにあった。
流れる車窓に、はしゃいでいるネル同様に釘付けになってしまう。
そんな俺の肩をルルが、ちょんちょんと突いて、声とかけてくる。
「都では、まずユキテルさんの衣服を買おうかと、思ってますがどうでしょう? さすがにそのままだと目立ってしまうので……」
「…… そうだよね。 ちょっと汚れてるし……」
そう言って、俺は自分が履いてる作業服を見る。昨夜は来客用の寝間着を借りたけれど、ずっと借り物ばかりじゃ迷惑だろう。それに普段着や下着も持ってきてるわけじゃないし、生活必需品もないもんな……。
そうこう言ってるうちに、正面に帝都アルスが見えてきた。
帝都の周囲は堀が巡り、高さ10メートル程の城壁がそびえ立っていた。 典型的な中世ヨーロッパ風の城郭都市だよなあと思って見てると、堀の橋のたもとに、いかつい兵士たちが立っていた。そっか、人の出入りはチェックしてるんだな……。
「馬車を止めよ! 何かアルスに用か?」
筋肉質で髭を生やしている兵士が、槍をこちらに向けてくると、ルルは馬車を止めさせた。そして彼女は毅然とした態度で、兵士たちの前へ進み出たのだ。
「これは大巫女ルル様。大変失礼いたしました」
「彼らは私の連れです。通しなさい」
「は! 直ちに!」
片膝をつき、神妙な面持ちで騎士風の礼をする兵士たちを見て、俺はちょっとルルを尊敬した。
…… と、思った瞬間、颯爽と戻ってきたルルが、馬車に乗り込む際に階段を踏み外して、悲鳴をあげた。
「きゃ!」
「ほら、捕まってよ」
俺は泣きそうになってるルルに手を差し伸べながら、小さくため息をついた。
…… ほんと大丈夫だったかな。こっちの世界選んで……。