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第28話 大樹の儀式

*注釈があります

 <大樹の儀式>では、極魔法を修得できるという。


 極魔法は大陸ではルルしか使えない秘伝中の秘伝。

それは強力かつ特殊なもので、空間や時間を操ることができるという。

 

 いつも、ルルにお願いしている<移動魔法>もそうだし、範囲を指定して結界を張る<箱庭魔法>もそうだ。


 ネルやルル、そしてみんなを守るには必要な魔法技術……。


 昨夜の泣きはらしたルルを見た後だ。

いつも穏やかに微笑んで、よく転ぶ巫女さん……。俺をここに招いてくれたひと……。

 

 最初に出会った時のことを、今更ながら思い出す。

吸い込まれそうな深碧の瞳……。あ、最初、膝枕されてたんだっけ……。


自分は魔導兵器みたいなものだって、寂しげに笑ってた彼女……。

愛はわからないけど、好きですって、言ってくれたひと……。


…………。

……ほんとは3人で結婚するんじゃなくって……。

そう、本当に彼女が望んでいるのは…………きっと……。


ルル……。守らなきゃ……。できることはちゃんとやらなきゃ……。

今日の儀式はきっと上手くいくはずだ。


よし!行くか…………。


***


 静まり返った神殿の礼拝堂に入ると、大樹があった。


 大樹はギリシャ神話の巨人アトラスであるかのように、ただそこに在った。


 礼拝堂を突き破らんばかりの太い枝、そして上が見えないほどの高さ……。

それは見るものを、ただただ圧倒し、自らの矮小さを、否応なく身を以て、感じてしまう存在……。それがこの大樹……。


『世界樹』


 俺のいた世界では、どの神話や聖典にでも記載があり、世界の中心として描かれることが多い神話上の樹だ。

 

 大樹はまさにそのような存在だという。

聞けば、この大神殿も、大樹を守るために建立されたという。

 この世界の神話では、原初からおり、全ての生き物や力の源となったという。


そんな大樹の下で、ルルは跪いて祈りを捧げていた。


 ……きっと彼女のことだ。

自分よりも他のみんなのことを祈ってるのだろう。


 やがて、祈りが終わり、艶やかな緑色の長髪が、少女の動きに合わせてキラキラと舞い、弧を描いた。


「……ルル。いよいよだね」

「……はい……ユキテルさん……」


 昨夜と違って、いつもの微笑みがそこにあった。

その深碧の瞳は何の迷いもないように、真っ直ぐに俺を見つめた。

それはちょうど、ネルを助けることを決意した時と同じ瞳だった。


「……ステラたちは?」

「もうそろそろ来る時間ですね」


 ステラやジェシカ、そして調査隊メンバーには、この<大樹の儀式>に立ち会ってくれるよう、伝えておいたのだ。


 何があるかわからない。


もしかしたら、これが永遠のお別れに、なってしまうかもしれないから……。


「よお!お二人さん!準備はできたのか?」

「ユキテルさん、ルルさん。おはようございます」


 いつもよりも大きな声を出して、やってきたステラ、ジェシカたち。


「あらあら。お二人さん、ご結婚されたって聞いたわよ。お仲間に入りたかったわあ」

「拙者もお祝いをせねば!」

「……お似合いです」


「2人だけじゃないぞ!まだ婚約だから!それにあたいやジェシカもだぞ?」

「そうなんですか?ステラさん。隊長、さすがですね!嫁を3人も……」

「……まあ……逞しい……」


 調査隊メンバーは、早速、俺たちが結婚したという情報を聞きつけたらしい……。

さすが女の子!こういう情報は早いや……。


 ……調査隊メンバーの中でも、真面目なマリオンやターリエンまで……。


 いつもよりも浮かれているように見える調査隊の連中たちが、ステラやジェシカたちをからかってる様子を眺めていると、自然と口元が緩んでくる。


 それはルルも同じだったようで、みんなの様子を感慨深そうに眺めながら、微笑んでいた。その顔全体が、花が咲く瞬間のように、俺には光り輝いて見えた。


 この何気ない時を慈しむかのように、ルルはそっと目を閉じて深呼吸した。

…………。

……。

僅かに微笑んだかと思うと、ゆっくりと目を開けて、俺に声をかけた。


「さてと……みなさんお揃いになりましたね、ユキテルさん」

「そうだね、ルル。じゃあ、そろそろ準備しようか?」

「はい。ユキテルさん」


 彼女はにこやかに微笑み、一つ一つの儀式具を大樹の前に並べていった。


 いつもの香とは違う香りが、礼拝堂に広がる。

何だろう?カモミール?ハーブのようだけど、爽やかな香りだ。


大樹の根元はいつもとは様子が違い、その猛々しいまでの幹の一部が透明に見える。


「……さてと……みなさん。万事整いました!」


 ルルはみんなの方を向き、儀式をはじめることを宣言した。

女官たちはステラたちを所定の場所に座らせる。


「……じゃあ、ユキテルさん……行きましょうか……」

「ああ、ルル……よろしく。一緒に行こう……」


俺とルルはお互いに見つめ合い、視線を絡ませた。


***


「……あのさ……ルル……今更なんだけど、どうしてここで全部脱ぐの?」

「ユキテルさん、そりゃあ、大樹と私たちが一体になるためですよ……」

「……で、確か、あそこに入るんだよな?」


 俺はルルとひそひそ話をしながら、大樹の根元の透明な部分を指差した。

一体になるとは聞いてたけど、意味が違うような……。


「はい。そうですよ。ユキテルさんと私は、いつも夜、愛し合ってるようにすればいいんです。あそこで」


 にこにこしながら、ルルは大樹のムロとなっている部分を指す。

 

……そりゃあ、俺がいた日本のように、巨木信仰にはそういう名残りあるとこあるけどさあ……。透明だよ!丸見えだよ!恥ずかしいよ!


「……恥ずかしいのですか?」

「ああ。すごく……」

「……可愛いです。真っ赤になって……。大丈夫ですよ。儀式なんだし」


 自分たちの行為をこれから、知人たちに見せるのだと思うと、かなり恥ずかしい……。

そういう西壁はないぞ。


「じゃ、時間もないことですし、行きましょう!」


 ルルは女官たちに指示し、俺と彼女の服を全て脱がせる。

そして戸惑う俺の手を取り、一緒にムロへと向かった。


***


「……あのユキテルさん……もっといつもよりも密着させてください……。そうじゃないと見えちゃう……」

「え……。完全に?」

「そうです。下半身もですよ……。もっと……です」


そこまでいうと。ルルは自らの唇を、俺に重ねてきた…………。


………………。

…………。

……。


 あれ?ここはどこだ?

 

周りを見渡すと、人、人、人、人……かつて人であった肉片……。

みんな血で染まり、腕がないもの……頭が半分割れているもの……。

そんな惨状がここにあった。


……向こうで誰か俺に向かって叫んでる……。

叫んでるのは女……? 顔の半分は血だらけで、大きな剣をこちらに向けている……。

その女が俺に向かって、走ってくる…………。


……ん?あれ?さっきとは違う……。はて?


 今度は俺は、古い大型コンピュータのようなものが、たくさん置いてある場所にいた。

たくさんあるマシンの奥には、薄水色に光り輝く柱がある。

 俺はその柱の中に、10歳くらいの少女がいることに気がついた。


……閉じ込められているのか?

柱の中は液体で満たされており、少女は俺に気づくと、はにかんで手を振った。


……可愛い……。

あれ?どうして俺、この子を可愛いって思うんだろう……。


ん?可愛い……?

俺は不意に吸い込まれそうな深碧色の瞳をした少女を思い出した。

……そうだ……みんなのいるところに……あの少女と……。


ふと、懐かしい気がして振り返る。

さっきまで思っていた深碧色の瞳をした少女が、そこにはいた。


「ユキテルさん……。お帰りなさい」

「ん?誰?」

「……うふふ。幾千万の夜と幾億の昼、幾兆のはざまで、貴方を待っていた女……」


その少女はそう言うと、俺を優しく抱きしめた……。


ああ……。この甘い匂い……。俺はこの匂いを知っている……。

………………ルル!


「ルル……ただいま……」


どこに行ってきたわけでもない。

でも、そう応えるのがいいような気がして……。

何だろう……。自然と……自然と……涙が……。


「……ユキテルさん、後ろに大樹の精霊がいるわ……」


 俺が後ろを振り返ると、それはいた。


 その精霊は文字通り木の形をしていた。

ガサガサと葉が揺れる音がするが、どことなく童話に出てくる木の精霊に似ている。


(……。ワシはミーミル……。大樹そのものじゃ)

「あ、あの……大樹さん……。えっと、ミーミルさん!」

(なんじゃ?………ほう……巫女か……。大樹の儀式を執り行って、何事じゃ?」

「私たちは力を必要としています。お力をお貸しください」

(ま、いいだろう……。おぬしではなく、この男にだな?)

「はい……ありがとうございます」

(……そこの男!名は何と言う?)

「……ミーミル様、私はユキテルと申します」


  俺はこの大樹に一礼をした。

別に初対面だからと言うわけでなく、何となくそうしなければならないように感じたからだ。


(なんと……!そうか……なるほど……。ではこちらに来るがよい)


 俺はその木の精霊のところに行くと、枝状の腕の先で、俺の頭を撫でた。


(うむ!すぐ回復したの!もう極魔法を用いることができるぞ!)

「ありがとうございます。ミーミルさん」

(おお!巫女……。ついでじゃ、2人とも帰れ!昼寝の邪魔じゃ!)


 そう言うなり、俺とルルは緑に光る魔法陣に包まれる……。


 気がつくと、俺はルルと結ばれた形のままで、みんなの前に放り出されていた。


 帰ってきたのか……俺たち……。


 ステラたちには、『いつまでも引っ付いてるな』と理不尽な事を言われたり、はたまた羨ましがられたり、散々冷やかされた。


 でも、俺は真っ赤になりながら、笑っているルルを見てると、なぜかホッとした。


 またここに戻ってこれたのだと。

世界樹

・北欧神話に詳しい方ならユグドラシルと言えばお分かりでしょうか。

この手の神話、世界中にあり、普遍的なものです。(エデンの園の林檎の木とかもです)


巨木信仰

・大木や古木には精霊や神が宿っているとする信仰は、日本をはじめ、世界中にあります。

・巨木はよく男性のシンボルと同一視されます。巨木信仰を基盤とする祭りには、そういう男性の象徴を祭ったりすることで、五穀豊穣を願います。

・樹木にまつわる信仰や儀礼はたくさんあります。お調べになると面白いかもしれません。

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