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第1話 深碧の案内人

ん? あれ? 俺、つい地雷に触っちゃったんじゃなかったっけ?


 ぼやけて見える目の前に、少女がいる。

(つや)やかな緑色の髪をさらさらとさせて、吸い込まれそうな深碧(しんぺき)の瞳をしていた。

そして、俺の顔を心配そうに(のぞ)き込んでいた。


 じんわり暖かな体温と、柔らかな感触を頭や首筋に感じるんだが……。ああ、そっか。こんな可愛い子に、膝枕されちゃてるのか、俺……。 生きてる時は、女の子に(えん)なかったもんな……。

 これが臨死体験ってやつか。

三途の川でおじいちゃんとおばあちゃんが、手招きしてるんじゃなかったのか。

あ、でも、天使様に逢えるとかなんとかって。TVでやってたのを見たことあるな。


「ここがあの世ってやつか」と、ぼそっと呟くと、その少女が戸惑うように口を開いた。

「……。 あ、あの世って何ですか?」

「俺、地雷に触れちゃって、死んだんじゃ……」

「ああ、ご、ごめんなさい……。 安心してくださいな、貴方は死んではいませんよ」


小首を(かし)げて、にっこりと微笑みながら少女は答えた。


 そのしぐさがとても可愛くみえて、気恥ずかしくなった俺は、起き上がって、にぎにぎと手指を動かしてみる。うん、ちゃんと動いてるなあ。まあ、生きてるのか?でも何だか納得がいかない。だって、ほんのついさっきまで、土ほこりが舞う遺跡の調査現場にいたんだが。

 

 でも、ここは……。

 

 木々の木()れ日から漏れてくるような柔らかい雰囲気といい、目の前にいるちょっと変わった美少女といい、やっぱり天国かなんかでは……?


 そんなこんなで、頭ん中が疑問符だらけになってた俺に、少女がおそるおそる声をかけてくる。


「わ、私が貴方をここにお呼びしたのです」

「へ?呼んだって?」

「は、はい。召喚盤が光っていませんでしたか?」

「召喚盤?」


彼女は微笑みながら、うなづく。


「これくらいの緑色の円盤が、光っているのを見ませんでしたか?」

と、ちょうどその円盤の大きさほどに、両手を拡げながら、にっこりと微笑んだ。

「え、ええっと、光ってたよ」


 どうやら、あのよくわからないものは召喚盤というようだ。

でも、召喚盤って考古学の世界じゃ、聞いたことないぞ……。

アニメやラノベとかの召喚獣なら知ってるが。


「適性者だけしか、召喚盤は反応しないのです」

「適性者?」

「はい。貴方は古いものを調べられておられたのでは?」

「まあ、それが仕事だから。でもなぜわかるの?」

「召喚盤は、特定の人にしか反応しないのですよ」

「……? 特定の人って?」

「私が召喚盤に、ある程度、魔力を蓄積している人に反応するようにしておいたので……」

「魔力を蓄積って? 俺がってこと?」

「はい。古い文物そのものが魔力を持ってますから。それに触れていくうちに、自然と魔力が溜まっていくのです。それに召喚盤自身が、はっきりとした意思を持っている生き物です。召喚盤に気に入られたのですよ」

「あれ、生き物なのか! ずいぶんと硬かったぞ」

「ここ、貴方のいた世界とは違うところですから…… 硬いとか見た目も、たぶん、貴方のいた世界のものとは違うと思いますよ」


 何だか意味不明だな。信じられん。

眉間(みけん)にしわを寄せている俺の表情を覗き込みながら、彼女は、はっきりこう告げた。


「貴方は、これまで貴方がいた世界とは異なる世界に召喚されたのですよ」

「空を見上げてみてくださいな」


 少女は美しい長い緑色の髪をかき上げながら、空を指差す。

そこには、いつも見上げてる太陽とは違って、土星のように輪を持って、輝いてる太陽があった。


「な、なんだ!これ! 違う惑星なの?」

「いいえ。貴方のいらっしゃった世界や宇宙とは、まったく違うところですよ。世界は無限にあるのです」


 驚いて、身震いしてしまってる俺に、深碧(しんぺき)の瞳で見つめ返す彼女は、怯える子どもを諭すように、静かに優しく語りかけてくれた。


……俺は、頭を()(むし)り、深呼吸をしながら、混乱しがちな頭の中を整理する。

 まず、これまでの知識や経験からは遺跡から出土した理解不能な緑の円盤……。

その円盤は点滅していたから、明らかに人工物だし、高度なものだ。


 それに俺のいた世界では見られない、緑色の髪と瞳を持つ、この少女……。

そして知らない、見たことがない空。

 どうやら、本当に違うんだな……。違う世界にほんとに来ちゃったらしいや。

まだ俺、やることあったんだけどな……。

 ネットショップに予約してた本、どうしようとか。

どうでもいいようなことを、ふと、思い出す。

 呆気にとられてると、深碧の瞳の少女は、慰めるかのように俺の頭を軽く撫でながら、名乗った。


「私はルル=シャバリエと申します。ルルとお呼びください。貴方のお名前をお教えください」

「…… 俺は、小林雪輝。遺跡の調査しか……って、古いものを調べることが仕事だった」

「小林雪輝様……」

「あ、別にユキテルでいいよ」

「ユキテル様、 ではさっそく参りましょう。いろいろお話しもありますし」


いまだ呆然(ぼうぜん)として、夢心地の俺に、そう促して、2、3歩ほど歩く。


ビタ――ン!


 ルルと名乗った少女は、目の前の三センチほどの段差から、足を滑らせ、顔から床に盛大に突っ込んでいった。


「だ、大丈夫?」

慌てて、立ち上がろうとするルルの手をとろうとした。


ステ――ン!


あらら、見事に転んだ。


「ご、ごめんなさい。ご案内するどころか…… ちょっと緊張してて……」


そう言って、頬を染めて、やや涙目になるルル。


 大丈夫なのか? この子……。この子が案内してくれるようだけど。何気にこの先、不安になってきた……。この子って、見た目とは違って、結構ドジっ子なんじゃないかと、溜め息をつく。


 時々、転びそうになるルルの手をとりながら、彼女が案内する方へ行くと、そこには太さ数十メートルほどで、高さもこれまた高層ビル並みに高い大木が、文字通りそびえ立っていた。


「うわあ、でっかい木だ」


 その巨木に驚いてると、ルルは、3本の大木の間にある大きな扉に、自分の左手をかざして、何やら呪文を唱えた。


ギギギ……


 重そうな扉が自然と開くと、にっこり微笑みながら、ルルは淡緑の光が舞う建物の中から手招きする。


「どうぞ、中にお入りくださいね」

「なんだろう…… 何だか森の中にいるようだ」

「お気に召しましたか?」

「ああ。なんだろう。落ち着くよ」


その森林のような香りを味わうかのように、思わず深呼吸する。


「ようこそ。<ヘブンズホールド>が4つの柱のひとつ、わが西帝国大神殿へ」

「え?ここが神殿なのか……」

「はい。私、巫女なんですよ。だからこそユキテルさんを、お呼びできたのかもしれません」


ドジっ子の割に、落ち着いた雰囲気(ふんいき)があるのは、巫女さんだからか……。


 キョロキョロと落ち着きなく、周りを見廻していると、いつの間にか、ルルがお茶を持ってきて、身近なテーブルと椅子がある場所へ、座るように促してくれた。


「まずは落ち着きましょう、ユキテルさん。いろいろお話ししなければならないことがあるのですが、まずはお疲れでしょうから」

そう言って、琥珀(こはく)色の紅茶のような飲み物を勧めてくる。

「へえ。何だろう。紅茶と緑茶の合いの子みたいな味だけど、いい香りだ」

「ユキテルさんのお口にあったようで、よかったです」


 あれ? そういやさっきから変だな。言葉が通じてるんだが?

疑問に思っていることをルルにぶつけてみた。


「言葉ですか……。 それはこれから紹介するネルの一部が、ユキテルさんの中に溶け込んだからですよ」


 そういうと、ルルが指をパチンと鳴らすと、目の前にあの緑色の円盤が現れた。彼女はおもむろに円盤の光ってる部分に指を触れ、「『ティルバケ・ティル・オリジン』」と唱えると、円盤から大量の光が溢れ出す。


わ! と、驚いて、目を閉じてしまってると、


「羽化あ――」


と、明るい子どものような声がしたと思ったら、背中に薄い蝶のよう羽根を持った子が、指をくわえて立っていた。


「お、お前は……」

「この子が召喚盤ですよ。と、いうより、召喚盤はこの子の(さなぎ)の姿だから…… あ、こ、こらぁ」


 飛び跳ねて、フラフラとあらぬ方向へ行こうとするのを、ルルが慌てて連れてきた。

その子は黄色い瞳をきらきら輝かせながら、にっこりと首を(かし)げながら名乗った。


「はじめまして…… じゃないね。ユキテルお兄ちゃん! 僕はネルだよ。よろしくね」


 まるで憧れのアイドルにでも会ったかのように、羽根を(またた)かせながら、上気した顔で、そう名乗った。


 ああ、ここって、ファンタジーや魔法が、普通にある異世界なんだ……。

にこにこしているネルを見ながら、改めてそう思った。

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