第18話 愛を教えてくださいませんか?
*微エロありです
『な、汝、ま、マグニよ!我、スノーシャインが命ず!雷よ、撃て!トールデンリース!』
俺が拙い呪文を唱えると、指先からバチバチと雷撃が起こり、庭園に置かれた丸太に命中した。丸太には、焼け焦げたピンポン玉ほどの、穴が開いている。
「やりましたわ!ユキテルさん!初めて魔法を使えましたね!」
「……はあはあ、やっとできたよ……。ルル」
「ちえ。今日は、たまたま上手く行っただけだろ?」
「いえ。私の指導がよかったからですよ。ステラ!」
先日より、ルルとステラは、先日より、俺と一晩過ごすことを賭けて、俺に魔法と体術を教えてくれている。
当然ながら、俺は魔法なんて知らないし、格闘技もやったことがないド素人だ。
そんな俺に、ゼロから教えるのは、ルルもステラも大変だと思う。
特に俺にとって、難しかったのは魔法だ。
魔法の習得は一筋縄でいかなかった。
体質改善用煎じ液を飲まされ、大量の魔導書を学ばされたり、森の木の上で瞑想したり……。
とにかく、もう、どっぷり魔法漬けだった。
それで、やっと初級攻勢魔法を、一つ、できるようになったのだ。
「ステラ!今夜は、当然、私ですよね?」
「はあ?まだ今日の採点を、ネルとジェシカに聞いねえぞ」
「ああ。そうでしたね!さあ、ネルとジェシカさん!今日、しっかりと、ユキテルさんに教えることができて、ちゃんと成果をあげたのは、私ですよね?」
ルルは目を、らんらんと輝かせて、ネルたちの採点結果を待っていた。
ジェシカとネルは、お互いの採点記録を見せあいながら、採点を終えると、ネルが結果を宣言した。
「うん!今日は9ポイントと10ポイント。1ポイント差で、ルルの勝ちだよ」
「やったあ!ユキテルさん、今夜は一緒ですよ!長かったあ——」
「ちぇ。残念無念。ずっとあたいでいいのにさ……」
「ステラは、もう充分すぎるほど堪能したでしょう?」
「……まあ、決めた事だし。いいよ。減るもんじゃないし」
ステラはあっさりと引き下がると、帰り際に俺の肩をポンと叩いて、みんなに聞こえないように、俺の耳元にそっと呟いた。
「ルル、明るくなったし。上手くヤれよ」
わ!ヤれとか……。露骨すぎるだろう……。ステラ……。
でも、出逢った頃よりも、いろいろな表情をルルは、見せてくれるようになったかもな……。
満面の笑みで手を振っているルルを見つめながら、俺はそう思った。
***
今朝の特訓で、俺と一晩、一緒に過ごすという権利を獲得したルルは、神殿のお務めが終わるとすぐに、俺の部屋にやってきた。
「あの……。ユキテルさん……。私、どうしたらいいか……」
ベッドの縁に座ったルルが、戸惑いながら、薄緑色の寝間着に手をかけて、スルスルと脱ぎはじめた。
「る、ルル。ち、ちょっと落ち着こうよ、ね……」
「で、でも。先代から、こうしろと……」
……ったく!どういう先代だよ。妙なこと教えやがって。
そんなことを思っているうちに、ルルは全ての服を脱いで、俺にその肢体を晒していた。
細くスラリとした手足、美しく輝く深緑のロングヘア、程よい大きさの胸の双丘……。
とても美しく、気高くて、今にも壊れてしまいそうな肢体だった。
「……あ、あのさ。ちょっと服を着てくれないかな?」
「……え?私じゃ、お嫌ですか……」
「いや……。そ、そういうわけでなくってね。目のやりどころが……。それに風邪ひくよ……」
ルルの美しい肢体から目が離せない……。
……こ、今夜、俺、ルルと関係持っちゃうのか……。
で、でも、いくら何でも、いきなりって言うのは……。
「…………。私、どうしていいかわからないんです」
ちょっと前まで、少し頬を赤く染めていたルルは、そう言って、ベッドの縁に座り込んで、俯いた。
彼女のその美しい深碧の瞳は伏せられ、その細い腕は、かすかに震えていた。
そして心の奥底から、ようやく絞り出したかのように、か細い声で告白した。
「……私に愛を教えてくださいませんか?ユキテルさん……」
愛?愛を教えてくれって……?
ふと、彼女は自分は魔導兵器のようだと、あの王宮からの帰り道に、語ったことを思い出した。そう、語っていた彼女は、あの時、どこかに行ってしまいそうに、俺には感じた。
……ほんとは、先の『大戦』で、一番、傷ついてしまったのは、彼女自身なのか……。
「……私は、ユキテルさんやステラに感謝してます……」
「え?お、俺とステラは……」
「……知ってます。でも、今、こうやって彼女やユキテルさん、みんなと賑やかにいられることが、楽しいと感じるんです」
ルルは俺を見上げてると、にっこりと微笑む。
その笑顔は、俺が最初に見たルルの笑顔、そのものだった。
「……お願いします。はしたないとお思いでしょうが、私に愛を教えてください……」
そう言って、彼女はベッドから立ち上がると、全裸のまま、抱きついてきた。
「わ!ちょ、ちょっと……ルル!」
「……以前、お話したように、私は愛が、本当は何であるかわかりません……。教えられた通りにしか……。大切な感情も何もかも!何もかもです!で、でも、でも、わ、私は……」
大理石のような眉間を、激しく歪ませ、俺を痛いくらい、強く抱きしめた。
そのまま、ルルの淡い薄桃色の唇が、俺の唇を貪るように奪う。
……長い長い……接吻……。
やがてルルは、唇を俺の口元から離した。
その深碧の瞳は、これまでにない強い意思が宿っているかのように、俺には感じられた。
「……ユキテルさん、貴方の子種をください……」
俺には、一瞬、ステラの顔が浮かんだ。
そして彼女が『必ず帰ってきて』と、泣きじゃくりながら、言っていた光景を……。
「………… 貴方の子種を頂くことは、仕事です。でも……でも、わ、私は…………。仕事だから、ユキテルさんの子種が、欲しいわけじゃありません……。どうしてかわかりませんが、ユキテルさんじゃなきゃ、私は嫌なのです!」
そこまで一気に彼女は言うと、俺をベッドに押し倒し、俺の寝間着を剥ぎ取った。
「ちょ、ちょっと……」
「……ステラは、私が、ユキテルさんの貞操を奪っても、構わないって言ってたはずですよ?」
お、俺は……。
俺は……。
『大戦』で本来の自分を失ったであろう、ルルを助けてあげたい……。
……でも、お、俺は、す、ステラ……俺は、お前が…………。
「……私に愛を教えてください。ユキテルさん……」
静かにルルは自らの肢体を、俺に重ねてきながら、そう言った…………。