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第16話 ステラとルル(1)

*注釈があります


——

ごめんなさい。少し長くなりました。空白入れて4500字以上あります。

 その夜以降、ステラはほぼ毎晩のように、ダール地区の整理の手伝いに来るようになった。

 

 早々に、ルルとネル、ジェシカたちが、整理作業の手伝いからあがった夜のこと。

ステラが話を切り出した。


「あのさ、ユキテル。あたいは毎晩、ずっとユキテルと一緒にいれて嬉しいんだけどさ……」

 

 彼女らしくもなく、少し言葉が詰まって俯いてしまう。いつもの飄々として、自信に溢れた表情はそこにはなく、眉間にしわを寄せ、美しい唇を歪ませていた。


「……ルルのことか?」


 その言葉にぴくりと肩を震わせ、こくりと頷いた。


 ステラにとってはルルは親友だ。それも俺なんかが生まれる遥か前から……。

裏切って、自分が横取りしてしまったって、思ってるんだろうな。きっと。


 ……俺だって、ルルの好意に甘えてしまってた。でも一方じゃ、流されるままに、ステラと関係を持ってしまって……。


 裏切ったと、ルルに(ののし)られるかもしれない……。


「……ステラ、お前、どうしたい?このまま、ずっとルルには、俺たちのことを黙っておきたいんじゃないか……」

「……辛いよ……。でも、ユキテルの最初の女は、ルルじゃなきゃダメなんだよ」


顔も上げずに、今にも泣き出しそうな声で、そう呟いた。


「……わからないんだけど……時々、お前は、俺の一番出汁はルルとか、最初の女はルルじゃなきゃダメだって、言うんだけど……どう意味なの?」

 

 そうなんだよ……。俺とステラは関係を持ったとはいえ、実は最後までしてはいない。

ステラ自身が、最後まですることを拒むのだ。ルルの方が先だと言って……。


「……あ、あたいも、ルルから聞いたことだからさ、そんなに詳しくはないんだけど……。なんでも、覚醒のためにユキテルの力がいるって言ってたんだ」

「……覚醒?誰のだろう?ルル自身のことかな?」

「……教えてくれないんだ……ルルは」

「そっか…….。なんか俺、ルルに過大評価されてる気がする……。そんな、大層な力なんてないぞ。前、ステラが言ってた通り、優柔不断な童貞だしさ」

「あ、そ、それは、ま、前の話、持ち出すなよ!あれは、こ、言葉のアヤって奴で……」

「あはは、ちょっとは元気になったかな‥‥」

「……ちえ。ずるい奴……童貞なのは確かだけどな……。あたいが奪いたかったぜ」


 口を尖らせつつも、文句を言うその顔には、さっきまでの悲壮感はなかった。


 ん?待てよ?ルルの本当の気持ちって、どうなんだろう?

彼女の態度や言葉には、好きだって感情があるように思うけど……。

 あの夜、『ルルは元々、冷血で冷徹だった』って、ステラが話してたよな。


 好き=恋愛感情って訳じゃない。

そっか。俺はルルの本当の気持ちを、まだ確かめていないんだ。


 ルルの好意が恋愛感情によるものなのか、それとも、仕事上、俺が必要なだけで、たまたま、俺の何かが、ルルの心の琴線に触れただけなのか……。


 怖いけど、俺はルルの本当の気持ちを確かめなくっちゃならないのか……。


「そうか、俺、ルルが俺を本当はどう想ってるか、確かめなきゃならないんだ。そうじゃなきゃ、お前も親友とずっと……」


 そのあとの『板挟みになって、苦しむことになると思う』と言う、残酷な言葉を俺は飲み込んだ。

さっき、少しは元気になったかのように思えた、ステラの表情が曇ったから。


「……ユキテル。約束してほしい。もし、ルルがお前を愛してるとしても、あたいはユキテルから離れるつもりはないよ。…………だから……あたいのところに、必ず、必ず、帰ってきてよ!」


 震える声でそう言う彼女の頬は、溢れる涙でびっしょり濡れていた。


「約束する。ごめんよ、ステラ。苦しませて。みんなに俺たちの関係、認められたいじゃないか……」

「……あ、あたい、ユキテルの2番目でいいから。2番でいいからぁ——」


 泣きじゃくって震える彼女を抱き締めて、そっと涙を拭った。

 

 それは、いつも俺に悪態ついてくる彼女ではなく、小さな女の子を抱き締めているように感じた。

そして俺は決めた。


ステラのために、絶対、ルルの本心を確かめようと……。


***


 約2週間後、ダール地区遺跡予備調査報告書もできあがり、報告書を王宮に提出することとなった。

 

 予備調査の後に施工する本格調査は、手続きも準備も単純ではない。

全ての関係機関に申請し、必要な予算や人数、日数を明らかにしなきゃならないからだ。


 ぶっちゃけた話、発掘とは工事だからだ。


 まず、報告書の提出ついでに、王宮の面々を説得しなきゃならない。

お金を出してくれるのは、なんて言っても王宮だからな。


 その説得にルルと2人で行くことになった。


 俺はその日の朝から、ルルの顔色を(うかが)いながら、いつ、ルルの本心を尋ねようかと、そわそわして、意味もなく何杯も水を飲んだ。

 そうじゃなきゃ、こう、やってられないというか、落ち着かない……。

ちょうど大事な試験前の心持ちに近いや……。心臓がチリチリする……。


 朝食を終え、いつものようにルルの<移動魔法>で、王宮の中庭につく。

中庭から謁見の間に向かう長い回廊で、俺は、思い切って、ルルに声をかけた。


「あのさ、ルル……」

「何でしょう?ユキテルさん」

「……ちょっと、謁見終わってから、話があるんだけどいいかな?」

「はい。いいですよ」


 ルルはいつものように微笑んで、そう応えた。

いつものその屈託のない笑顔が、今日は張り付いた能面のように見えた。


 今は……謁見が終わるまでは……遺跡のことだけ考えよう……。

俺は念仏のように、何度も何度も、遺跡遺跡とだけ唱え続けた。


 そして今、俺は何とか、ギャロウ国王陛下とローレン将軍、メリッサ財務官たちと謁見している。


 俺はダール地区遺跡の概略を、口頭で説明した。

 

土器や矢じり、槍が出土したが、比較する資料がないため、いつの時代のものかわからないこと、歯車や機械の一部が出てきたが、欠損が多く組み立てできずに、一体、どういうものなのかわからなかったことなどだ。

 そのため、詳細なことを知るためには、本格的な調査が必要なことをお伝えした。


 陛下は一通り、説明を聞き終え、報告書をパラパラめくりながら、俺に尋ねた。


「なるほど。ユキテル殿、ご苦労であった。して、うちの王女の様子はどうであった?」

「はい。道具の手配をはじめ、縁の下の力もちとして、陰ながら助けていただきました。本当に感謝しております」

「ガハハ!それはよかった。色々面倒を見てやってくれ」

「はい。承知致しました」


「ユキテル殿、もし本格的に調査をすると、どのくらいかかるのですか?」

 

 ああ、やっぱりそうきましたか、メリッサさん。

そこは俺は慣れてるんですよ……。

 予備調査後、行うであろう本格調査の予算の積算は、調査報告とセットだからねえ。


「メリッサ財務官様。ちゃんと報告書の後ろに、試算表をつけておきました」

「おお!手際がよいな。うむ……。部署内で早急に検討してみよう。それでよろしいでしょうか?陛下」

「おおう。最初の調査だ。是非、ちゃんと調査をしてくれ」


 ……なんとか、ダール地区遺跡は、本格調査をすることができそうだ。

俺は、内心、ホッとすることができた。

 元いた世界では、いつもここで、予算絡みのトラブルになるんだよなあ……。


「ありがとうございます。実は、ダール地区遺跡の本格調査の前に、もう数件、予備調査を行いたいのですが……。よろしいでしょうか?」

「おお!いいぞ。どんどんやって構わん」

「ありがとうございます、陛下」


「……ユキテル殿、改めてお尋ねしたいのだが……」

「何でしょうか?将軍様」 

「出土してきた機械については、本当に何もわからないのか?」


 将軍は、どうして今、説明した機械のことを、改めて確認するのだろう……。わからない。

ステラが『軍には気をつけろ』と言ったことが、脳裏に浮かび、思わず俺は少し硬い口調で応えた。


「……はい。資料の量が足りませんゆえ。それが何か、いつ作られたのかも不明です」

「そうか、わかった」


 将軍は、俺の返答に少し眉を動かしたように思えた。


「それでは本日は、これにて失礼いたします」


たった今、ルルが今日の謁見中に口にしたのは、その挨拶のみだったことに、俺は気がついた。


***


「ユキテルさん。お話って何でしょう」

 

 王宮の中庭でルルが俺に尋ねてくる。その顔には、いつもの微笑みはなく、冷たい瞳が俺の顔を捉えていた。


 たぶん、察しのいいルルのことだ。とっくに、ステラとのことを、知ってるんだろうな……。

……ダメだ。逃げちゃ……。ステラをまた泣かせたいか?俺。

それにルルを裏切っていいのか?

俺は覚悟を決めて、深く深く息を吸って、彼女に尋ねた。


「あのさ、ルル……」

「はい?」

「ルルは俺のことをどう想っているの?」


 や、やっと言えた……。は、ははは……。


「……好きですよ。でも、きっと、ユキテルさんの考えている、好意ではないと思います」

「……え?どういう意味?ルル?」


 俺は少し混乱した。あれ?

俺の考えている好意って、男女の恋愛感情のことだよな……。


「私には、愛情が何かわからないのですよ」

「え?わからないって……」


 意外な答えだった。


 てっきりルルが、俺のことを好きだと思ってたってことが、俺の妄想か願望に、過ぎなかったんだと思ってたから……。あれ?

 ……近いけど、それとも違う……。


「……私は、先の『大戦』の真っ最中に生まれました。『大戦』の中で、敵と戦うために、魔力を練り上げ、ひたすら戦って勝つためだけに、育てられました……」


……そ、そんな。それじゃ、まるで……。

俺が唖然(あぜん)として、ルルを見つめていると、続けて言った。


「そうですね。ユキテルさんが、たった今、思ったように、私は魔導兵器と言えますね」


どこか遠くを眺め、そして、フッと口元を緩めて、にっこりと微笑んで言った。


「……ただ、貴方をたまたま、異なる次元で見つけ、身も心も育っていくのが、たまらなく嬉しかったのです。貴方が欲しいとは思いますが、これが愛情なのか、わからないのですよ……」


 そう言って、ルルは俺を愛おしそうに見つめる。

……彼女が俺に抱いてた好意は……。そう。むしろ……。


 だが、次のルルの一言が、俺のかすかな希望を打ち砕いた。

—— もしかしたら、ステラとの仲を認めてもらえるかもしれない。

一瞬でもそう思ってしまったのだ。


「ステラと男女の関係になったようですね」

「……い、いや。ルル。俺とステラを……」

「……ステラがよそよそしくなったので、わかります。一度、彼女とは話をしなきゃならないですね。ユキテルさん、貴方もですよ」


………しゅ、修羅場か……。

心臓が痛いし、頭もズキズキしてきた……。

遺跡発掘は実際には納期も予算もある土木工事です。

調査責任者は、労働安全衛生法上、必ず土木系作業主任者を取得していないといけません。


遺跡発掘において、予算や金銭のことで問題となるのは、調査費用は原因者(道路工事ならその工事をする主体者、宅地なら不動産屋などです)が負担する決まりになっているからです。

このため、時折、発掘を巡って裁判になることがあります。「伊場遺跡訴訟」などが有名です。


何か建設する場所に、遺跡がある場合、発掘調査をしなければならないのですが、その法的根拠は、建築基準法と文化財保護法によって定められています。

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