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第11話 アルス遺跡調査団の面接試験

 翌日、ルルの<移動魔法>で、俺とルルは帝都アルスに来ていた。

アルスの職業ギルドで、実際に俺たちの発掘を、手伝ってくれる人の面接試験をするためだ。

 ここ帝都アルスには、各職業別にギルドがあり、冒険者ギルドと建築ギルドの2ヶ所に人集めをお願いしていたのだった。


 冒険者ギルドマスターのミーヤさんは、猫耳族でありながらも、その機敏さと人を見る目の確かさでギルドマスターまで登りつめた女性だ。

 2児の母だって言ってたな。いくつなんだろう?て、聞いちゃいけないな。


 建築ギルドマスターはドワーフ族のフレムさんだ。ドワーフ族は小柄なのだが、彼女はさらに小さい。『ガハハ』と豪快に笑う人だ。


 その2人と会うのは2回目になる。

 

「おお!きたね!ユキテル坊や」

そう、フレムさんが豪快に笑いながら出迎えてくれた。

「ユキテルさん、おはようにゃ」

俺たちが来たことに気がついたミーヤさんも、にこやかに尻尾を振りながら挨拶する。


「あの、昨日言ってた人たちって、もう来られてますか」

「うん。2階で待ってるにゃ。もう面接するかにゃ?」

「そうですね。待たせておくのも悪いでしょうし」

「かあ!その心意気いいね!気に入ったよ!」

「ま、まあ、面接に行きましょう」


 俺たちは大げさに机を叩いて、相槌(あいづち)を打つフレムさんや、そんな光景を見て、穏やかに微笑んでいるミーヤさんたちを促して階段を登る。


「ところで、ミーヤさん。ちょっと疑問なんですけれども」

「ん?何かにゃ?」

「素朴な疑問なんですけれど、ここって冒険ってあるんですか?」

「にゃはは!にゃい!大戦が終わって、今の国王になって平和になったにゃ」

「え?冒険者って何してるんですか?」

「まあ、薬草取ってきたり、人探ししてみたりかにゃ。北部山岳地帯は未開の地があるから、その辺の調査とかが、少しあるかにゃ」

「思ったより平和なんですね」


 素直な俺の感想だった。

俺が知っている異世界って、大抵は乱世だったり、陰謀渦巻く世界だったりだったからだ。


「……平和だからこそ、今のうちに、昔、何があったか知りたいんだにゃ」


 平和だからこそ、か……。


「ほれ!ここが面接会場だ」

フレムさんが先に会場に入ると、5名の女性が椅子に座っていたのが見えた。


「あ、あのフレムさん。5人だけですか?」

「そうだ。十分すぎるぞ」

ガハハ!と笑いながら、フレムさんは俺とルルに5人の対面に、座るよう促した。


「でも、これでは人手が……」

「大丈夫にゃ!安心するにゃ。彼女たちは魔法のエキスパートだにゃ」

俺の不安そうな顔を見て、ミーヤさんが応える。


「ほえ?ま、魔法ですか……」

「まあまあ、面接してみろさ、若い兄ちゃん!」

どんどん!と俺の背中をぶっ叩くフレムさん。あの、めちゃめちゃ痛いんですが……。


***


「では面接をはじめます」


 張りつめた空気が漂う。

自分が面接受けてた時のことを思い出し、ついつい緊張してしまう。


「あれえ、ルルじゃない!お久しぶりぃ」

「あ、ターニャ!お久しぶりです」

「なんだ。この子、ルルの知り合いなの?」

「そうなんですよ。王宮で魔術師してる子で優秀なの。同級生なんですよ」

「へえ。この男が、前から話してたルルの男ね」

「ち、違うわ。ま、まだ……」

しどろもどろになる面接官ルルの脇を小突きながら、俺は咳払いをした。


「面接中です。あなたの得意なことや、好きなことはなんですか?」

「あはは、失礼しました。私の得意なことは、動物や植物を自在に(あやつ)ることです。好きなのは男!」


 俺を見つめ、舌なめずりしながら、ターニャは答えた。

ステラのように面倒なタイプか……。とりあえず最後のセリフはスルーが安全、安全と。


「動物や植物を操るだけでは、発掘なんてできないと思いますが」

「あら?彼らを操って、彼らに掘らせるのよ。それにその方が彼ら自身も傷つかずに済む」

「……わかりました。では現地で試してみましょう。ひとまずターニャさんの面接は

終わります」

「ルル、それから彼氏さん、またね!」


ルルに手を振りながら、帰るターニャさんを見送りながら、現地で試してみることにした。


「次、お願いします」

「はい。拙者はリディアと申す。得意なのは土と火を操ることじゃな」


 あれ、この人、エルフのように両耳が尖っているのに尻尾がある。

どういう種族だろう……。


「リディアさん、失礼ですが、あなたはエルフ族なのですか?」

「ああ、拙者はドラゴンとエルフの混血じゃ。差別には慣れとる」

「あ、いや。気分を害したなら申し訳ない。リディアさん、自分は、そんなにここの知識があるわけじゃないし、種族については、あまり知らないので、少し疑問に思っただけだけなんですよ。本当に申し訳ない」


 俺は頭をリディアさんに、頭を下げた。何となくあるかもと思っていたよ。

亜人種とエルフ、人との格差が……。


するとリディアさんは、豪快に笑いながらこう言った。

「あはは!気に入ったよ!拙者は是非、あなたの元で働きたい」


 何だかどちらかが面接官かわからないうちに、とりあえず現地に来てもらうことになった。


 ルルがリディアさんについて、ドラゴンとエルフの血を両方継いでいるだけじゃなく、本人も結構、努力しているので、かなりの魔力の持ち主だと推薦してきたし。まあ、いいか。


 その後、残り3人の面接をした。


 マリオンは樹人族の女の子で、身体がすごく華奢だった。


 得意なのは植物と会話できることと、怪力と言ってた。

どうみても身体が弱そうだったけれど、本人が『ドワーフ族並みに力があります』と言うので、試してもらったら、その辺の路地裏に転がっていた10m程の巨石を、なんと指3本で持ち上げてみせた。

 

 すげえ。合格。

 

 ターリエンはエルフ族の女の子で、見た感じはネルと同い年くらいだ。


 まあ、実際の年齢はわからないけれどね。

得意技は弓矢と音楽。竪琴で人や動物を操ることができるそうだ。

 試しにギルドに来ていた冒険者を、竪琴の力でここに来るようにお願いしてみた。

本人の意思に関係なく、吸い寄せられるように10人ほど下の階にいた冒険者たちが、やってきたのには驚いた。 


 まるで『ハーメルンの笛吹き男』のようだ。

 

 ルルやミーヤさんたちの意見では、少なくても動物を上手く作業に使えるから重宝すると思うってことだった。


 まあ、いいか。合格。

 

 面接の最後のアエラは猫耳族の女の子だ。


 ややふくよかな感じだが、何でも冒険者ギルド随一の賞金稼ぎだそうだ。

得意技はその素早さ。

頭の回転も早く、遺跡調査で何が必要かを経験もないのに、いくつか例を挙げてきた。

機転がきくことは現場では大切だ。


この子も合格。


***


 面接が終わり、みんなで階段を降り始めた。

その時、俺の後ろから降りてきたルルが悲鳴をあげた。


「きゃ!」

 ドタンと大きな音がしたので、振り向いたら、ルルが階段から足を滑らせて転がってきた。

「危ない!」

俺はとっさに彼女を抱きかかえた。

「ふ—危なかったにゃ。階段が急だから気をつけるにゃ」

「あ、あの、ユキテルさん。ちょっと手を……」


 げ!何だかマシュマロのようにふわふわする……。

俺は思いっきり、ルルの胸をむんずと掴んでいたのだ。


「ぎゃ—。ご、ごめんなさい。ごめんなさい」

耳先まで真っ赤になってるルルに、俺は全力で謝った。

「あ、い、いえ。こちらこそ、助けようとしてくださってありがとう」


 まだ真っ赤だよ。ルル。そりゃあ胸揉まれれば、恥ずかしいよね……。

こっちまで恥ずかしくなるよ……。


「ガハハ!若いっていいねえ、青春、青春」

それを見ていたフレムさんは、いつものように豪快に笑った。


***


 ルルとそのまま帰ってきて、一旦、研究所に戻った俺は神殿に行こうと入り口のドアを開けた。そこにはステラが腕組みをしたまま、すごい形相で立っていた。


「あ、あの。ステラさん?ちょっと神殿に用事あるんだけど……」

「おい!今日はルルの胸を揉んだってぇ?さっき聞いたぞ」

「だから、それは事故だって……」

「あのな!前々から言おう言おうと思っていたんだけど、『好意には行為で返す』ってのが、決まりなんだ!しっかりしろよ!」


 そう言い捨てて、ステラは俺に革表紙の分厚い書籍を投げて、プンプンしながら

神殿の方へ向かっていった。


 俺の手元には『性訓(せいくん)』と金文字で刺繍された本が残されていた。

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