表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

11/41

第10話 はじめての踏査

*用語解説あります

 大浴場でもみくちゃにされた翌朝のこと、ふと目が覚めると、深緑の髪と薄桃色の唇が目の前に迫っていた。


 可愛いな……。誰だろう? この甘い香り。どこかで……。

……ああ、そっか、ルルか……。

……って。ルルがなんで、俺んとこで寝てるんだ?

しかも、俺、抱きしめちゃってるし!

いかん!覚えてない…………。


 俺はギョとして、一気に目が覚めた。

ルルに不埒(ふらち)なことしなかっただろうか……。いかん、冷や汗が湧いてくるぞ。


「ルル、ルルさん…… 朝なんですけど……」

 

 俺はおそるおそる、彼女の身体から手を離し、声をかける。

うむむ……。可愛い寝顔だから、ホントはそのまま見てたいのだけど、今日から仕事だ。


「ユキテル殿、おはようござぃ……」


 もう一度、ルルを起こそうかと思ったその時、ノックもなく、いきなりジェシカ王女様……じゃなかった、ジェシカが部屋の扉を開けた。

 そしてベットの上にいる、ルルと彼女の肩に手をかけている俺を交互に見て、口をパクパクさせている。


やばい!事後にしか見えない…………。


「し、失礼しました!」

「ん。朝っぱらから、なんだ、なんだあ?」


 ジェシカが、(あわ)てて扉を閉めようとすると同時に、ステラが部屋に入ってきた。


「おお!ルル!ユキテルとヤったのか?おめでとう!」

「……おはよ……。ステラ……。えっ?ゆ、ユキテルさん、どうして私、ユキテルさんのベットで……」

「……ユキテル!さてはお前、ルルを無理矢理眠らせて……」

「ち、違う!」

「……ごめんなさい。違うの、ステラ。風呂上がりのユキテルさんが体調良くなかったようだから、様子を見に来て、そのままいつの間にかユキテルさんのベットで寝ちゃってて……」

「ちぇ。一番(しぼ)りはルルだと思ってたのにな……。つまらん」


 顔を真っ赤にしながら、全力で首を横に振って、否定する親友ルルを見て、残念そうにステラは口を尖らせながら、不穏なことをいう。

 

 一番搾りってなんだよ、一番搾りって……。

ツッコミたいけど、やめておいた。きっとやぶ蛇だ……。


「……よかった。で、ユキテル殿、昨日の昼間、会議でメリッサ財務官とお話していた、発掘作業していただける人の件のことですが……」

「あ、どうなりました?ジェシカさん」


 そうなんだよね……。


 実際に発掘するには、掘削したり、土を運んだりする人たちがとても大切だ。それに規模が大きくなれば、それだけ人数もいるんだよ。できるだけ土をいじることに、慣れている農家の人たちや、土木関係の人たちがいいって、メリッサさんにお伝えしておいたけれど……。


「メリッサ財務官が、アルス冒険者ギルドと、建築ギルドに、依頼を出したとのことでした」

「ジェシカさん、ありがとう。今日の踏査(とうさ)の帰りに、アルスに寄っていくよ」

「いえいえ、こちらこそ。ユキテル殿のお役に立てて幸いです」

 

 ジェシカさんには何となく気を使っちゃうな。向こうも『殿』付けだから、お互い様か……。

そんなことを思っていると、ルルたちがいつの間にか、今日の調査の支度を終えていた。


 用意、はやっ……。


「お、おい!みんな支度はやいよ!」

「あたいらは、昨夜から準備しておいたからな。当たり前だ!」

「お兄ちゃん、遅いよ!もういつでも出かけられるよ!」


 早く早くと急かすネルやステラたちにどやされながらも、俺は急いで、今日の調査の支度をした。


***


 今日は大神殿のすぐ北側にあるダール地区の踏査だ。ここは、結構、前から知られているところなのだが、本格的な調査はしたことがないらしい。

 そのためどんな遺跡なのかをはっきりさせることと、全体の大きさを把握することが、今回の目的だ。

 歩いて痕跡を探したりするため、女性陣と俺だけで十分間に合う。

 

 ルルの先導で、大神殿の北側に到着した。彼女にとっては庭先だね。

そこは、ただ一面草原で、所々、石の柱や碑らしきものが立っていた。

石碑なら、もうルルたち巫女さんたちが、解読してるんじゃないかなと思い、聞いてみる。


「ねえ、ルル。あの石碑って、読んだことあるかな?」

「いいえ。ここら辺一帯にある石碑は、先代が読もうとしてたのですが、まったく読めなかったのです」

「ん?ってことは、今、使ってる文字や言語じゃないってことかな?」

「いや、違うぞ、ユキテル。ここの碑文は暗号を使ってるんだ。それで読めないんだよ」

「へえ。さすが図書館員」と、俺は素直に感心する。

「当たり前でしょ!で、これからどうするの?」

「そうだな……。ネル、ちょっと、あの辺りの石の柱があるところを、上空から観てくれないかな?」

「うん。わかったよ!お兄ちゃん、上から観てみればいいんだね」


 そう言って、ネルは自分の羽根をまたたかせて、上空に舞い上がった。


「おおい――、ネルぅ――。柱が並んでいるように見えないかあ」

「うん!お兄ちゃん!いくつも丸く並んでるよぅ――」

「やっぱり!いくつ丸くなってるかな?」

「うん!5つぐらいかな」

「ありがとう!ネル、もう降りてきていいよ」

「わかった!」

「あ、あの辺あたりが、少し高くなってません?」

 

 ルルが指差す先は、確かに小高い丘のようになっていた。あれがたぶん、この遺跡の中心部だろうな。そして、俺は周りを見渡してみた。俺たちより、外側には石碑も柱もない。ってことは、あの丘の高いところまで歩けば、歩幅と歩数で遺跡の大きさがわかるってことだ。


「そうだね。ルル。ありがとう。ちょっと行ってみようか。みんな、道すがら、地面に何か落ちていないか注意してね。何かあったら、拾って俺に見せてみて」

「「「「はい!」」」」


 少し散らばって、ゆっくりと丘の高い方へ向かって、5人で歩く。

そのうち、ジェシカが、興奮した声をあげた。


「ユキテル殿!これ!」

「おお。これ、何かの刃物の一部だね。刀剣かな」

「ユキテル!こいつは?」 

今度は左前方を歩いていたステラが、手を振って招く。

「ああ、これは……槍の穂先の一部っぽいや」

「ユキテルさん、これは……」

お次はルルだ。

「これは弓矢のやじりだね」


 少し歩くと、いくつも金属製の武器が見つかった。

おそらく、この場で戦闘があったか、戦士の墓があるかのどちらかだ。


「ねえ、ルル。ここって、昔、戦があったのかな?」

「いいえ。先代からは聞いてません。ねえ、ステラは何か知らない?」

「いや、あたいもここで戦があったとは知らないな。そういう資料もないし。大体、神殿とその周りは神聖な場所だから、そういう戦闘行為は固く禁止されているしな」

「そっか。ここさ、こういう武器がたくさん見つかるから、そういう関係かと思うよ」

「……そんな、こんな神殿のそばで……」


 不安気に眉をひそめるルル。

そりゃそうだ。神聖な神殿のそばで、戦があったなんて信じられないのだろう。


「まあ、実際に掘ってみないとわからないよ。戦士のお墓かもしれないし」


 俺は戦以外の、もう一つの可能性を伝えると、ちょっとルルは安心したように、ため息をついた。そうこうしているうちに、丘の一番高いところに着いた。

 丘の高いところから、周りを見渡すと、折れた柱や石碑が円環のようになっているのが、体感できた。で、規模はと……。俺が勘定していた歩数と俺の歩幅を、掛け算してみてびっくりした。


 でかい!


 一番内側の円環から、ここまで直径200m以上ある。あのストーンヘンジが直径30mほどだから、めちゃくちゃ大きい。

 俺が遺跡の大きさに、どうしてくれようと途方に暮れていると、ルルがそっとお茶を差し出した。


「ユキテルさん、お昼にしましょう」

「そうだね。ルル。ありがとう」


 いつも変わらず優しいよな。ルル……。俺は心の中で感謝した。


 丘の上に着いたのは、もうすでに昼過ぎだった。これから神殿に戻ると、もう夕方だ。

ルルの言う通り、ここで昼食をとることにした。


「これ、おいしいね!お兄ちゃん!」

 

 思いっきり、頬張りながら話しかけるネルの口元を、ほらほら!と言いながら、拭いているルルを微笑ましく眺めていると、ステラが俺を肘で小突きながら、意味ありげに小声で言った。


「お前、今朝、ルルを抱きしめてたんだって?」

「ぶっ! だ、抱きしめてたって言っても、身体が勝手に……」

「ほほう。ルルが言ってたぞ。彼女も暖かくてよかったってさ」

 

 お、お前らは……。2人で並んで歩いてると思ったら、そんな話を……。

ここで蒸し返されると面倒だ。とりあえずは話題を……。


「ところで、昼食終わったら、すぐ神殿に戻るぞ。暗くなるからな」

「ぬ。話題そらしやがったな!ユキテル」

 

 俺は立ち上がって、みんなに帰りのことを伝えた。

もちろん、脇でなんか言ってるステラにはそしらぬ顔でね。


***


 帰り際に、予定通り、ルルの<移動魔法>で、アルスの冒険ギルドと建築ギルドに寄った。

どちらのギルドも、親方はとても気さくな女性で、打ち合わせも順調にできた。

 既に何人か候補がいるとのことだったので、今度、それぞれのギルドの建物で、俺たちや親方が面接したうえで、採用する手はずにした。


 「はあ、疲れましたね」

 

 みんな、戻ってくるなり、そう口々にため息をついていた。

まあ、慣れないと疲れるさ。野外だもんな。


「んじゃ、風呂浴びてくる」

「あ、こら、風呂はみんなで入るんだぞ!」


 俺が早々にひと風呂浴びてこようかとすると、さっきの恨みもあるのか、ステラが思いっきり、俺の腕を強くつかんで、引き止めた。


 またか……。で、また、浴場で打ち合わせするハメになるのか……。

……ちょっとはのんびりさせてくれ。

踏査:地図を持って、現地を歩いてみる調査です。分布調査ともいいます。直接、土器や石器などを拾うことがあります。それらがあったり、住まいの痕跡があると、『遺跡がある』ことになります。地形や出てきたものの範囲を考えて、遺跡の大きさをある程度決めます。


歩数と歩幅で計測:実際によく使います。草木生い茂る山の中とかでは重宝します。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ