第9話 浴場ミーティング
サービス回です
「「「「え?王女様、ここに泊まられるのですか?」」」」
研究所ができたその夜、王女様は突然、むちゃくちゃな事を言いはじめた。
てっきり、ちょっと手伝いに来ただけだと思ってたが、ずっとここにいて、仕事を手伝いたいとか、意味不明なことを言ってきたのだ。
俺たちは、もうすっかりパニックだ。
てか、ここ俺んちでもあるので、女の子……それも、お、王女様なんて不相応すぎる。
だいたいルルに対してさえ、どきまぎして困るっていうのに!
「どうしてですか?ジェシカ王女様」
ルルはわなわな震えながらも、王女様に聞いた。
「私は国王陛下の命で、ユキテル様のお仕事を手伝うよう言われております。……それに、お仕事が終わるまで、城には戻るなとも言われてますので……」
「あのですね!王女様、ここにいるユキテルは、むっつりスケベでとんでもない奴なんですよ!一国の王女様とあろう方が、こんな奴と同棲するなんて!」
「そ、そうだよ!僕のお兄ちゃんと一緒に住むのは、僕とルルだけって決まってるんだもん!」
「こら!ステラ!どさくさに紛れて、言いたいこと言いやがって!そもそも同棲ってなんだよ、同棲って。違うだろ?ネルもネルだぞ。俺はルルんとこに居候してるだけだし」
もう、みんな好き放題に言いはじめてしまって、収拾がつかなくなってしまった。
「静かにしてください!ここは大神殿の敷地内ですよ!」
普段は比較的物静かでおとなしいルルが、凛とした声で俺らに言い放った。
「いいですか、王女様。好きでもない男性と一緒に泊まるなどと、はしたない事を言うものではありません。神殿内に私がお部屋を支度いたしますから、そちらにお泊まりください」
う。……迫力ある……。大巫女って呼ばれてるのは、伊達じゃないな。
そのルルの提案にしたがって、王女様はおとなしく、神殿内の一室に泊まることになった。
***
結構、汗水流して、研究所の体裁を整えたので、お風呂とは言わないまでも、ちょっとシャワーくらい浴びたいところだ。
そのことをルルに話してみる。すると、あっさりと『お風呂ならありますよ』とのこと。
やったね!さっそく案内してもらって、服を脱ぐ。
…………。
「ところで、ルル。いつまでもそこにいると、これ以上、脱げないんだけど……」
そう。彼女は脱いでる間、ずっとそばにいたのだ。
「あ、ごめんなさい。私も……」
「ルル。あたい、ちょっと風呂借りるよ……って、おい!」
「あ、ルル!ずるい!僕もお兄ちゃんとお風呂入りたい!」
「きゃ、ユキテル殿のお身体が……」
パンツ一丁の俺。
今にも上着から胸が溢れそうな体勢のルル。
脱衣所に入ってくるなり、速攻で脱いで思いっきり大きな胸を晒しているステラ。
ジェシカ王女様は手で目隠ししてるし、ネルは不満そうにほっぺを膨らませてる。
なにこれ?
ラッキースケベって奴か?
「おのれぇ!ユキテル!人前でヤるな」
「あ、待って!ステラ!」
耳元で鋭い風切り音がするやいなや、ステラの廻し蹴りが、俺の顔面をモロに直撃した……。
……。
………………。
……。
気がついたら、目の前には心配そうに、俺を覗き込んでいるルルの顔があった。
「ごめん。ユキテル。公然とルルとヤろうとしてるんだと思った」
「あのな、ステラ。俺がそんなことする理由ないだろ」
「お兄ちゃん、お兄ちゃん。ちょっといい?」
「どうした?ネル」
「あのさ、みんなで一緒にお風呂に入っちゃえば、いいんじゃない?そうすれば、みんなでお兄ちゃんをシェアできるもん」
「……なるほど、さすがネルですね」
「うむ。どうやら女性慣れしていないユキテルには、いい訓練だな」
「え?ユキテル殿は、女性慣れしてないのですか?ステラ殿」
「喜べ!ジェシカ王女!ユキテルは童貞だと思われる」
あのな、ルルもステラも、そして、ジェシカ王女様も、よくわからないネルの提案に同意しないでほしい……。
結局、俺は、女性陣の同意の上、お風呂に一緒に入ることとなってしまったのだ。
大神殿の浴場は2ヶ所あり、1つは旅人や信者たちのために、供されるとのこと。
もう1ヶ所は、ルルたち巫女たちの沐浴と、神殿内での日常生活のための施設だそうだ。
俺らが、今、入ってるのは後者だ。
ここは何処となく、日本の温泉旅館風で、よい香りのする木の大きな浴槽と洗い場がある。
こういうのはやっぱり落ち着くよ……。まさか、異世界に来て風呂に入れるとはね。
「おい!ユキテル!何、あたいの胸をガン見してるんだ?ん?」
「こ、こら。か、からかうんじゃないよ!ステラ!」
湯気が立ち込める浴槽の中、ステラが俺の傍に寄ってきて、そんなことを言う。
つか、胸が触れそうに近いぞ!
「……わ、私、ステラほど大きくないから……」
ステラが俺に近寄ってきたからか、スーっと傍にやってきたルルが、自分の胸を見て、頬を染めながらつぶやいた。
いえ!ルルの胸、程よいですし、全てきれいです!と、心の中で力強く俺は叫んだ。
そんな美しいルルを見惚れるような隙も与えず、ステラがこれからの予定を尋ねてきた。
「ところで、ユキテル!あたいとしては、最初の探索は近場がいいと思うぞ」
「近場って言ったら、このあたりか、アルス周辺になると思うぞ」
「……私も、できれば最初は、近い所がいいと思います」
少し離れていたところで、こちらの様子を伺っていた、ジェシカ王女様が声をかけてくる。
「王女様、近いと言っても、候補がいくつかございますが?」
「……あの、王女様はやめてください……。みなさんと同じように、ユキテル殿とは接していきたいと思っておりますので」
「……わかりました。王女……じゃなかった、ジェシカさん」
「私は、神殿の北側にある遺跡がよいかと思いますわ」
俺が王女様を名前で呼ぶと、ちょっと嬉しそうにはにかみながら、少し考えてから応えた。
この子、陛下から言われて、いやいや参加してるのかと思ってたけれど、どうやら本気らしいな。自分からどこを調べたいって具体的に希望を言ってきたしな……。
「俺的には、北部山岳地帯の周辺とか、まだ未開の場所があるんでしょ?そこらへん、面白そうなんだけどなあ」
「ユキテルさん、ダメです。だいたい、慣れないうちは近場のほうが安心できますよ」
「お兄ちゃん!僕も近場がいいなあ」
ぐぬぬ!さすがに最初ってこともあって、ルルもネルも近場希望かあ
「それにまだユキテルさんは、<移動魔法>使えませんよ。まさか馬車ですぐ行ける場所って、思ってません?」
「……うぐぐ! た、確かに……」
実際に北部山岳地帯は、馬車で2月半かかるほど遠いって、地図を探している時にステラが言ってたことを思い出す。それに真夏でも雪や氷があり、ちゃんと準備をしていかないとダメそうだ。
「わかったよ。最初の遺跡調査だし、この神殿のすぐ北側にあるダール地区に行こうか」
「やったね!お兄ちゃん、僕、頑張るよ!」
そう言いながら、無邪気に風呂の中で抱きついてくるネル。
まだ性別不詳で、まっ平らな胸とはいえ、どちらかというと幼女に近いネルに裸で抱きつかれると、その気はなくとも、何だかイケナイ気持ちになってしまう。
「こ、こら、くっつくと恥ずかしいから。ネル、やめろって……」
「えへへ。僕が身体洗ってあげるよ。あ。そっか!せっかくみんなでお風呂入ってるんだから、みんなで洗いっこすればいいよ」
「くくく。それはいいアイデアだぞ、ネル。童貞ユキテルをいじめるチャンスだ!」
「私も先代からの言いつけで、ユキテルさんの身体を洗います……」
「……み、みなさんがユキテル殿を洗うのであれば……。参加しますね」
「おい!ステラ!俺はど、童貞なんかじゃ……お、おい。ちょ、ちょっと待て、早まるな」
ネルをはじめとして、女性陣が手をにぎにぎしながら、石鹸とタオルを持って、鬼気迫る勢いで、俺に迫ってくる。
こ、怖い……。
「ま、待て!そ、その前に、確認だ!明日からの遺跡調査はダール地区でいいんだな」
「「「「もちろん!さあ、さあ洗いますね」」」」
「そ、そういうときだけハモるなーー。わあ!」
その後?
俺は女性陣にもみくちゃにされて、気持ちいいやら、恥ずかしいやら、湯気の熱気やら、女性たちの肌の熱気やらで、思いっきりのぼせてしまった。
一言でいうと、『疲れた』。
ちなみに最初にこのように大浴場で、みんなで話し合って決めたためか、仕事の打ち合わせや、ミーティングは大神殿の浴場でやることとなってしまった。
ま、裸の付き合いっていうからね……。




