第3話「ソフィア・オルトルート」
朝がやって来た。
窓からは太陽の光が差している。
「もう朝か」
ガルアはゆっくりと体を起こす。
そして、シャワーを浴び、汗を流す。
シャワーを浴びるのがここに来てからの習慣になっている。
「朝飯でも買いに行くか」
ガルアは外出用の服を着て、部屋を出た。
そして、朝日を浴びながら商店街へと歩き出す。
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ガルアは商店街に着いた。
アルテイル帝国の商店街。
帝国の王城付近に存在する。
朝だとしても、大きな賑わいを見せる。
朝は取れたてで新鮮な野菜や、水揚げされたばかりの魚がズラリと並ぶ。
昼はレストランなどの飲食店が数多く並び、これもまた賑わいを見せる。
この他にも、薬屋や洋服屋、武具店などが建ち並んでいる。
夜には酒場が一斉に開き、賑わいを見せる。
ガルアは商店街を歩く。
少し歩いたところで、パン屋を見つけた。
「これを2つ」
ガルアは目についたパンを指差し、言った。
「毎度あり、銅貨2枚だよ」
店員が言った。
ガルアはポケットから銅貨を渡し、商品を受けとる。
そして、また歩き出す。
ガルアが買ったものはパン2つと牛乳1瓶。
人混みから抜け出した所にベンチを見つけたので、そこに座った。
買ったパンを取り出した。
まだ、ほんのりとした暖かみがある。
出来立てのようだ。
パンを口に入れる。
ほんのりとバターが効いていた。
ガルアは牛乳を飲み干した。
「帰るか」
ガルアはゆっくりと立ち上がった。
ベンチの隣にあったゴミ箱に牛乳の瓶とパンが入っていた紙袋を捨てる。
そして、商店街の人混みの中へと歩き出す。
ガルアが人混みの真ん中くらいを歩いている時、誰かと目が合った。
目が合った相手は目の上まであるフードを被っている。
―――女、だろうな。
なぜ、目が合ったかは分からない。
ほとんど肌を隠しているため、年齢は分からなかった。
目が合ったのは一瞬。
目が合った瞬間、ガルアはゾッとした。
―――何だ、この感覚は?
―――よく分からない。
この女と会ったのは始めてのはずだ。
そもそも、女と会うことが少ない。
ふとした瞬間に女はいなくなっていた。
―――まあ、いいか。
心にしこりを残したまま、ガルアは自室へと戻った。
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朝よりも気温が高くなってきた頃、ガルアは上官室へと歩いていた。
―――バルザードが俺に話か。滅多にないな。
―――今日はいつもとは何かが違う、気がする。
―――嫌な予感がする。
そんなことを考えながら歩いているととうとう上官室に着いてしまった。
ガルアはいつものようにドアをノックした。
「ガルアか、入ってくれ」
バルザードの声がした。
「失礼する」
そう言って、ガルアはドアを開けた。
いつものように。
そして、ガルアの嫌な予感は的中した。
バルザードはいつものように椅子に座っている。
が、しかし、バルザードの隣には今朝見たフードの女が立っていた。
一瞬、何があったのか分からなかった。
しかし、ガルアは咄嗟に腰につけた短剣を抜き、構えた。
「――ッ!貴様、何者だ」
ガルアは鋭い目つきで言った。
フードの女から片時も目を離さず、剣を向けている。
しばらくの静寂。
そして、バルザードが口を開いた。
「ガルア、この人は敵ではない。剣を戻せ」
ガルアは腰に剣を戻した。
そして、フードの女を睨む。
不意にフードの女が被っているフードを脱いだ。
隠されていた顔が露になる。
整った顔立ちに、黒い髪。
髪の長さは長いわけでも短いわけでもない、普通のストレートヘアだ。
年はガルアよりも少し若く見える。
少女はその紫紺の瞳でガルアを見据えていた。
「ガルア、紹介しよう。彼女はソフィア。今日から葬送部隊に配属された」
バルザードがソフィアという名の少女を紹介した。
「私はソフィア。本名はソフィア・オルトルート。
今日からよろしく頼む」
ソフィアは改めて名乗った。
大人しそうな見た目とは反して、気の強い声と性格のようだ。
ガルアは黙っている。
そこにソフィアが手を差し出した。
「これからよろしく頼む」
ソフィアは握手を求めた。
しかし、ガルアはそれに応じなかった。
「俺に仲間は必要ない」
ガルアはきっぱりと言い放った。
「葬送部隊は俺一人で十分だ。足手まといはいらない」
ガルアは言葉を続けた。
「ガルア、それは言い過ぎだ」
バルザードが指摘する。
「ソフィアも気を悪くしないでくれ」
バルザードがソフィアに謝罪した。
「貴方が謝るような事ではありません、バルザード様。
君、初対面の人にその言い方はないんじゃないか?」
ソフィアはガルアを睨み付ける。
ガルアとソフィアは静かに睨み合っている。
そんな険悪な雰囲気の中、バルザードが一つ提案した。
「よし、分かった。双方がお互いの実力を知るために模擬戦を行うというのはどうだろう」
「くだらない。そんなものに価値はない」
ガルアが拒否した。
そこにすかさずソフィアが反応した。
「君は私に負けるのが恐いのか?」
目に見える挑発。
「なんだと?俺がお前みたいな女に負けるわけがない」
ガルアは言い返した。
「それは、私と模擬戦をするということでいいのかな?」
ソフィアは確認した。
「――勝手にしろ」
ガルアはぶっきらぼうに答えた。
バルザードが手を鳴らした。
「よし、決まりだな。それでは移動するとしよう。
私に着いてきてくれ」
三人は模擬戦闘場へ移動した。