6話 山の中の狐 大界を知らず
あひゃひゃひゃひゃひゃ!!!お休みの日に会議だってぇぇ!イヒヒヒヒヒヒ!!たのちいなぁ♪たのちいなぁ♪休日出勤たのちいなぁ♪ブヒャヒャヒャヒャヒャ!!あー大丈夫だよぉ!作中にはこのテンションの影響ないからぁぁぁぁああ!!影響で変態とか出てたりしないからぁぁぁあああ!!フヒ、フフィフィ・・・
365日だけでいいから休み欲しい。欲は言わない365日だけでいいから。
「いたたた・・・」
透明な壁壊して外に出たときに足をパックリ切っちゃた・・・
それにしても聞いたことない音で壊れたからビックリしちゃった。
少し氷に似てたな、でも全然違う物だった。不思議。
コンは跛を引いてアスファルトの上を歩いている。
結構な出血量だが本人はそこまで気にしていない。足の傷よりも辺りの景色に
対する好奇心が勝っているのだ。
実は以前から来てみたかった場所だ、両親が心配するから言わなかっただけで。
目一杯の冒険心と少しの不安を一緒くたに抱えて不器用に歩いていく。
なんか変な角ばったテカテカした感じのものが道の真ん中辺りを真っ直ぐに
通り抜けていくアレは何?
ブロロロローって、聞いたことない音を出して何個も何個も通り過ぎる。
しかも速いし色と形が微妙に違ってる見てて面白い。中にヒトが居るみたい
人数はまばらだね。
この地面も変だよね、石みたいに硬い。そして真っ平ら。
辺りは葉っぱも木もない。石みたいに固そうな物ばかり。
でも山の中じゃ見れない色ばかり、もっと探検したい!
そういえば上に三角形が乗っかってる四角ぽいのがニンゲンの住みかって
かぁちゃんが言ってたな。
勝手に入ったら怒られるよね・・・。
あ、ヒトが前から歩いて来た。ちょっとヒトはまだ怖いから狭い道に入ろっと!
大通りから脇道に入ってしばらく進む、ブロック塀の狭い道も興味津々で
スンスン臭いを嗅ぎながら進んでいく。
ちょっと空気汚い感じするなぁ、それでも面白いからいいや。
ていうか私の服変わってるんだけど、尻尾と耳ないし。
アレかな、川に流されたときに全部葉っぱに戻ちゃったのかな?
という事は全裸であそこまで運ばれたってこと?
それでこの服を着せられたの??えー、恥ずかしい・・・
とりあえずは葉っぱ探して元の格好に戻りたい。
この薄いピンクの服は着物と比べるとのっぺらでカッコ悪いだもん。
なんか石の道の隙間から生えてる草あるけどなんとなく引っこ抜くのは
可哀想な気がする、落ち葉無いかなぁ。
「お、おおお、お、お嬢ちゃん」
背後から声をかけられて振り返る、さっきの大通りにいたヒトが心配してついて
きたのだろう。まだ少し血が滴っているから。
「あたし?」
「そそそ、そうそう、け、けけ、怪我、ししてる、みたいだけど」
「ヘーキ直ぐ治るよ」
「いやいや、て、ってて手当、し、してあげるよ」
「いいてっば・・・」
太っている大きい男、病院にいた女性でさえ少し怖かったのだから当然怖い。
いきなり知らない場所に居て、嗅いだことのない空気、初めて見る自分以外の
ニンゲン、それも自分より大きなヒト。未知に恐怖を抱くことは当然で
病院から逃げたのもニンゲンが怖いからだった。
「い、いいいから、こ、こっちにおいで・・・ハァハァハァ・・・」
「い、いやだ・・・」
どうしよう、あそこから逃げたのは間違いだったかもしれない。
よくよく考えると助けてくれてあそこに運ばれたのかもしれないし。
だって川岸に全裸だったわけだもんね・・・。
絶対そうだ、助けてくれたんだ。
思い返せばあの女のヒトあたしが起きたって優しそうに笑ってたし。
コイツは逆に明らかにヤバそう・・・。
足怪我してるし逃げれる気がしない。
あんな汚い笑顔見たことないし、かぁちゃんの悪狐笑いのが
マシだもん。
怪しい巨漢がにじり、よじりと距離を詰めてくる。
「く、来るな!変態!!」
変態の意味をコンは知らずに父親に向けて使っていたことがあるが今回は奇跡的に使用法が正しい。
「変態じゃない!ぼ、ぼぼぼ、僕はロリコンなだけだぁぁぁ!!」
「きゃぁぁぁ!!!」
飛びついてきた巨漢を横っ飛びで何とか回避したが怪我のせいで
そのまま転んでしまう。
「んぎ!いたぁい!!」
「よ・・・避けたね、ママにも避けられたことないのにぃ!!!」
「ママは避けないの!?スゴイネ!!ちょ、やめて!来ないでぇ!」
「も、ももも持って帰って、僕のお、おお、お嫁さんにしてあ、あげるよ」
「ヤダ!絶対ヤダ!ヤダヤダヤダ!!!だって明らかに優しくないもん!!」
「いいからっ!!」
「いくない!!とーちゃん以上にバカなの初めて見た!!」
「ななな、なにを、をっをを!!」
上手く立てない、足がズキンズキンしてる。ヤバイ変態くる。
なんかズボン降ろしてるし!?ナニする気!??あの棒なに!?あたしには
あんなの付いてないないよ!?なんかの病気!?
「来ないでってぇ!!」
あーもう!!どーなっても知らない!やっちゃお!!!
コンの堪忍袋の緒が切れた。
「狐「あら?可愛い子ねぇ?大きい声聞こえたけど・・・
あのデブに何かされたの?」
「え?あ、だ、誰・・・?」
コンのすぐ後ろの曲がり角から茶色のボブヘアーの女性が出てきた。
生成されかけていた狐火がシュワっと散るように消える。
上下ともにクリーム色の服のその女性はどことなく
柔らかい雰囲気を醸し出している。
「通りすがりよ、買い物に行くとこだったんだけどね、大きい声が聞こえたから
大丈夫かなって」
「ななな、なにもし、してない!!僕はなな、なんにも!」
「嘘つけぇ!あたしのこと持って帰るとか言ってたじゃん!!
お嫁にするとか言ってたじゃん!ズボン降ろしてなんかしようと
してるじゃん!!」
「あらまぁ、じゃああのデブはロリコン誘拐未遂露出狂強制わいせつ性犯罪者
なのね?」
ろり・・・?ろしゅつ・・・?せいはん・・・?
ちょっとよくわからないワードが羅列されてる
なんとなくだけど理解してしまったら汚れてしましそうな気がする。
深く考えないでおこうかな、うん。
「多分そう、かな・・・」
「やっぱり?粗末な物丸出しだものねぇ、ちょっと~!」
自分が出てきた角に向かって女性は声をかける。
「お嬢様、ちょっと待って下さいよ!急に走らないでください!
爺やには堪えますぞ!!」
「またまたジジイぶっちゃっても~!文句言うと解雇しますよ?
いつもそう言ってるわよね、耄碌したの?今後クソジジイって呼びますよ?」
「お嬢様!毒舌が過ぎますぞ!!爺やは悲しゅうございますぞ!」
その声と共に現れたのは白髪の男性。60歳ぐらいだろうか。
黒のスーツ姿に所々あしらわれている小さな金装飾が完璧にマッチしており
優しそうな顔立ちとあわせて正に老紳士のイメージそのものである。
なんと片眼鏡まで装着している。
「ロリコン誘拐未遂露出狂強制わいせつ性犯罪者よ、お願いね☆」
「ちょ、お嬢様!?お願いとは・・・」
「大丈夫?ちょっとこっちにおいで?怪我してるじゃない!血は・・・
止まってるわね、家で包帯巻いてあげるわ」
「え?いや、大丈夫」
「いいから!おいでなさい!!」
「ぎゃーす!!」
逃げる間もなくガッチリとと胴体を掴まれてわき腹に抱え込まれてしまった。
どっかに連れていかれる!持って帰られる!!これって誘拐じゃないの!?
もしかしてニンゲンってヤバい奴しかいない感じなのですか!?
「た、助けてぇぇぇぇぇ!!!」
「お嬢様!やってることがこの男とやや同じでは!?」
あ、駄目ですな。お嬢様聞いてないですぞ。・・・あーぁ行ってしまわれた。
「あ、ぼ、ぼぼぼ、僕の嫁が・・・」
「さて、と」
老紳士がロリコン誘拐未遂露出狂強制わいせつ性犯罪者を鋭い眼光が見据える。
「ひ!?」
「ちょっと、コッチに来なさい」
「あ、あたしは食べても美味しくないよ!離して!」
「食べないわよ?怪我に包帯巻くだけ」
「ほうたい?って何・・・?」
「あら?知らないの?ま、家に来ればわかるわ」
少し歩いてからこの子の服に意識が向く。
「ていうか貴方その服、患者服じゃないかしら?」
「かんじゃ・・・?わかんない、川に落ちて目が覚めたらコレ着てた」
「大丈夫なのそれ!?外に出ていいってお医者様言ってた!?」
「おいしゃって誰?」
「え・・・?」
あれ?なんかこの子変じゃないかしら??お医者様もわからないの?
もしかして記憶喪失の一種?病院に連れ戻したほうがいいんじゃ・・・?
「ねぇ、目が覚めた場所に戻った方がいいじゃない?お母さんと、お父さん
心配するわよ?」
「あそこの臭い嫌い、ヤダ!それより離して!!」
じたじたと女のヒトの腕の中で暴れてみるけどあんま効果なさそう。
どうしよう。さっきの男に連れてかれるよか100万倍
マシなんだろうけど・・・。
うーん、病院に戻すのはとりあえず後にしましょうか
この子病院イヤみたいだし。
私のこともイヤみたいだけど。せめて包帯は巻かないととねぇ。
説得はその後で。
・・・なによりもう目の前だもの、家。
「着いたわよ、私の家」
「わっ・・・」
大きな屋敷にが眼前に広がっていた。
家を取り囲む塀、立派な門は金持ちの家という感じが丸出しだ。
ただ塀の背が随分と低い、子供の背丈でも十分に中の様子が窺がえる。
これはこの建物の持ち主の心の現れだろう。
門には『雨入』と表札が出ているがコンは字を読めない。
なんだろうこの家はあたしが目を覚ました場所より暖かい感じがする。
あたしが目を覚ました場所の方が大きかったけどなんか角ばってて真っ白で
冷たい気がした。
山の上からたまに覗いていたのと近くまで来るのじゃ印象が全然違うなぁ。
あたし何も知らなかったんだね。
「じゃ、入りますよー」
「・・・はーい」
コンが折れた。貴重なシーンかもしれない。抱えられたままで門をくぐる。
目一杯の不安と、ほんの少しの冒険心を一緒くたに抱えて。
あーあ、買ってもない宝くじ当たんねーかな。
10億でいいよ。欲は言わない、10億だけでいいから。
俺無欲な人間だから。
・・・なんだね、そんな憐みの目をこっちに向けて。
次回「狐につつまれて」第7話 「同情するなら休みくれ。」 平成31年1月1日0時00分投稿予定
みんな絶対に見ないでくれよな!!!