14話 賽は投げられていた
俺は将棋が超弱い、俺でも勝てるような弱者を求めていた。
そんな俺が目を付けたのは90歳の爺さんだった。
効けば子供のころ少しやっただけでコマの動かし方もよく覚えていないという。
俺は意気揚々と対局を申し込みトリッキーな動きをする桂馬を使い散々苦しめてやった
そして最後に散々苦しめてやった桂馬で
ト ド メ 刺 さ れ た 。
ちっきしょぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!!!!
「狐火が消された!?どーなってんの!?」
「キャウ?」
ポメラニアンが興味津々にコンに近づいていく。
「わっ!寄ってきた!!何よコイツ!!」
「クンクンクンクンクンクンクンクンクンクンクンクンクンクン」
「嗅ぎすぎ!あたしそんなに臭い!?」
匂いを嗅ぎ終わると今度は棒で地面をガリガリ削り始めた。
棒の先端は尖っており反対側の先は丸いスタンプのようになっている。
棒というより杖だろうか。
尖っている方で地面を削っている。
『はじめまして、ポメランといいます』
「え?えっ?えぇッ!?」
『竜が出たという噂を聞いてここに来ました』
「すごい、コレって・・・」
『何か知りません?』
「そうだね!!うん、読めない!!!」
ガンッ!!
コンのまさかのコメントにずっこけたポメランが壁に頭を強打した。
「コレ多分文字だよね?あたし読めないんだ~」
ポメランが頭をさすりながら立ち上がるが微妙にぶつけた位置に
前足が届いていない。
そしてポメランが起き上がった直後。
ゴス!
「あぃたぁ!!」
右の頬を杖の尖ってない方でどつかれた。
「痛いじゃん!この!!」
コンがぶん殴ろうとしたが拳は空を切った。
その直後。
ゴス!
「ぎゃん!痛い!!」
左の頬も同じ要領でどつかれる。
「酷い!あたし女の子だぞ!!」
「ぺッ!!」
「ツバを吐き捨てた!?」
謎の毛むくじゃらは杖を肩に担ぎ侮蔑の目を向けながら
二足歩行で去っていった。
「なんだったの、あの獣・・・」
あ、もしかしてとーちゃん、かぁちゃんと似た生き物だったのかも。
攻撃してきたけど本気じゃなさそうだったし危険じゃなさそう。
まぁいいや、気を取り直して凪音さんのお家に行こう。
今日は居るといいな~。って、ここ凪音さんのお家の近くじゃん。
ラッキー!
「凪音さ~ん!居る~?」
雨入家の前まで歩いてきて屋敷に向かって呼びかける。
数秒経って屋敷の玄関から凪音がヒョコっと顔を覗かせた。
「あ!コンちゃん、いらっしゃい!ホントに来てくれたのね!
こっちおいで~」
「やっほー!」
てこてこ近づいてきたコンの異変に気が付いた凪音は
「ぶっふ!」
「!? ナニ!?」
つい吹き出してしまった。
「こ、コンちゃん・・・文字のお勉強・・・ププッ・・・
したの?」
「? してないよ」
「そ、そう・・・アハハハハ!!!もうダメ!!
我慢できない!!アハハハハ!!」
「えぇ!?この前と笑い方変わってるし!どったの??」
「も~、おバカ丸出しじゃないのコンちゃん!!ヒーヒー!」
「??」
「おいで!」
凪音がコンの手を引っ張って屋敷の中へ招き入れた。
コンは何が何だかさっぱりわからないばかりだ。
「コレね、鏡っていうのよ、自分の姿が映るの自分の顏みてみなさい?」
「?・・・ん?ほっぺたが赤くなってる、文字みたいになってる」
「も、文字みたいじゃなくて文字なのよ?なんて書いてあるかわかる?」
「ん~、わかんない今日教えて貰いに来たんだもん」
「それね右と左に一文字づつ書いてあってね、プククク・・・」
「えー!?笑うようなこと書いてあるの!?」
「ううん、コンちゃんのことを的確に示している言葉が書いてあるのよ」
「ふぅん・・・」
「ば、バカって書いてあるわ、ぐくくくく・・・・」
「笑うようなことじゃんかぁぁ!バカって言うなぁぁぁ!!!」
「あ~面白い・・・涙出てきたわ、良かったわね、コレでバカって
書き方分かったでしょ?おほほ」
「いくな~い!」
思い当たる節がある、あの毛むくじゃらだ!
毛むくじゃらめえぇぇぇ・・・!!
「ところでコンちゃん」
「ん?なに?」
「相変わらず死に装束になってるわよ?」
「コレで慣れてるからいいんだもん」
「ほほ~う?」
凪音が至近距離腕を組んでコンを見下す。
威圧感がある、何を言っても意見など通る余地がなさそうな程度には。
「な、凪音さん?ちょっと怖いよ・・・?」
ウツケとは違うタイプの恐怖演出である。
ウツケの恐怖演出は見た目による直接的なもの、コンは耐性があるので
むしろ遊びの一環程度の演出になっている。
一方凪音の恐怖演出は纏っている雰囲気によるもの、いわゆる
『あ、これガチで怒られるヤツだ』的な恐怖だ。
これはコンには耐性はない、耐性があるのは
紳士的ヤンキーの源太だろう。
「ぬ・ぎ・な・さ・い・♥」
「え、遠慮しておきま~っす・・・」
コンがススス~っと後ろに下がると凪音はまるでホバー移動
でもしているのかと疑うようなモーションでコンに詰め寄る。
新手の生霊かな?
ガシっと着物の帯に手を掛けられてしまった。
「覚悟はいいかしら?」
ふるふる、と小動物的な弱者感を出して凪音の同情を誘う
作戦に打って出たコン。
「あら?覚悟できてないのね、残念でしたね~」
無駄だった、力が緩む気配なし。
「誰か助けてぇぇぇ!!」
「おほほ、よいではないか!よいではないか!」
「あ~れ~!」
凪音はコンの着物の帯をグイグイ引っ張って
まるでコマのようにクルクルとコンを回す。
時代劇のお約束シーンである。
お互いに同意していないと成立しないモーションなので
コンも案外ノリノリであることが伺える。
当然コンはこのお約束のシーンを知っているはずもないのだが。
「・・・お嬢様、何をなさっているのですか・・・?」
「!?」
凪音が本気でビビった顏をしてみるみる顏が赤くなる。
よほど恥ずかしかったようだ恐らく人生の黒歴史確定の瞬間であろう。
「三か月間給料無し!!!!」
「げぇぇぇ!?ちょ、お嬢様!?大丈夫ですぞ!
爺やめは何も見ていませぬ!!!そんな悪代官のような行為など
知る由もありませぬ故ぇ!!!後生ですからぁ!」
「源太のジジイさんこんにちはー!」
「ヒトのお遊びを盗み見るなんてとんだ悪趣味ねぇ、源太?」
「見られたくないのなら襖位閉めて下さいよ!給料消し飛ぶような
恐ろしいトラップをフルオープンにしないで頂きたいですぞ!!」
「あら、いいじゃないどうせ給料なんて全部タバコに消えてるんでしょ?
健康第一よ?感謝なさいな」
「独裁者だ!!お嬢様が独裁者になってしまわれた!爺や悲しい!!」
「ねぇ、この前も きゅうりょう?無しって言ってたよね?
きゅうりょうって何?」
「お金のこと、ヒトが生活するのに欠かせないものなの」
「ふ~ん?」
コンが首をかしげながらそう答えた、絶対理解していない。
「まぁ、コンちゃんにはわからないわよね・・・」
凪音がコンの着物の帯を閉めなおす、もちろん正しい着方でだ。
「で?今日は何しに来たの?またお菓子でも作る?
それともお勉強?」
「文字教えて貰いに来た」
「そう、よし出来たわよこれからはちゃんと着なさいね
せっかく可愛いんだから」
「わかった」
「じゃ、向こうの部屋で勉強しましょう」
「ねぇアレほっとくの?」
コンが膝をついたまま動かなくなった源太を指さして訊ねる。
「大丈夫よ、コンの着替えを盗み見た変態だからほっときない。
「なんだ、源太のジジイさんも変態なんだ、軽蔑~」
何を言われても反論する元気さえ源太には
残されていないのであった・・・抜け殻である。
「どうなっている?」
「それが、いくら探しても居ないのですよ」
「確かに山に放したのだろう?」
「はい」
「アレが人里に降りてこないと困るのだが?」
「もしかすると稲荷山へ入ってしまったのでは・・・?」
「そうか、あの山には確かに何か居るようだからな・・・」
「探らせましょうか?」
「いや、覚えているかね?12年前私が上のニンゲンに
賄賂を用意しようとしていた時のことを」
「あぁ、確か人が来ないからという理由で稲荷山を
取引場所に・・・」
「そうだ、結果として誘拐実行犯は帰って来なかった
攫った赤子と一緒にな」
「・・・」
「同じことを繰り返す気はない、聞けば竜の花火とやらも
その稲荷山から飛来したそうじゃないか、探りをいれていい
場所ではない、今はな」
「では、新しいものを用意致しましょうか?」
「いや、熊はもういい」
「そうですか、いい政策だと思うのですが」
「ふん、私は最悪の政策だと思うがな」
「おやおや、ご謙遜を『異常なまでに狂暴な熊がヒトの生活圏内に侵入し
甚大な被害をもたらす、町長である貴方は迅速に討伐隊を結成し
最小限の被害で熊を討つことでさらなる人気を得る』全ては自分の
息子の莫大な医療費を払い続ける為、これほど立派な政策が
他にありますかな?輝也殿?」
「・・・晴斗に友達が出来た、その友達に被害が及ぶかもしれない
ことはできない、人気を得て任期を伸ばす方法は他にもある
派手じゃなくても地味な成果を積んでいくことにした」
「では、今後は我々青龍教の助けは要らないと?」
「いや、そうではない 汚い金稼ぎはまだ出来る、次は雨入家と
一帯の土地を青龍教に売ると言ったら?」
「ほほう!興味がありますな!この町に我ら青龍教の拠点が
作れるということですな!・・・手段は?」
「そうだな、金持ちを嫉んだ者による住人の殺害および証拠隠滅を図り
放火といったところか」
「ふふ、雨入の人間も不幸でございますなぁぁ!!
身代金目当てで子供を誘拐された挙句に殺されてしまうとは!フフフ!」
「お前は本当に悪趣味だな」
「ヒトのことは言えないのでは?」
「確かにな、だが息子が少しでも長く生きる為にはなんでもすると
決めた、たとえ悪事がバレて死刑になろうともな」
「うむ いい、実にいい狂気ですな」
アイヤー ナンテ コトダー 町長ガ ワルイ ヒト ダタ ナンテー チョベリバー
次回「狐につつまれて15話」「桂馬ハ サイゴ二 ウラギル カラ シンヨウ スンナヨ」
ミンナー ゼッタイニ ミチャ ダメヨー ノーミソ クサル アルヨー




