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第六章 覚醒後夜


 共和国大使館爆破テロの直後、当時の大統領ゲルツ・ライヒマンが暗殺された。


 彼はポリテーヌ共和国に対し融和な態度を取り、独立を叫ぶ大多数の世論の声を無視して不利な条約、不利な力関係、不利な搾取をされ続けた歴史を顧みず、共和国の忠実な犬として飼い主に媚びへつらう。


 国家改造を目標にしたデモ活動であれば国内で頻繁に起こっていた。だがここまでの実力行使に出るとは世界中が予想だにしないことであった。


 共和国が介入し、無論青年は極刑にされ、関係者も全て処刑されることとなった。


 テロを計画、実践した青年に感化された集団が激化、政府関係者が根こそぎ暗殺される異常事態が起こった。憲兵隊の努力むなしく、怒りと希望に洗脳された国民の物量には太刀打ちすることなど不可能であったのが現実だ。


 政府は瓦解、あらゆる機能を失った一〇一地点だが、突如として一人の少女が頭角を現す。


 大統領と首相を兼任し、総帥という肩書を得て台頭したのは成人してもいない少女であった。


 政治経験者でもない、ただの高貴な家柄のお嬢様。その少女が初めて壇上に立った時、()()()()()拍手喝さいが巻き起こったという。


 それからだった.


彼女が総帥に就任した直後、ラスコー・ポリテーヌ共和国に宣戦布告した。


 最初に起こった戦闘はラインハルト帝国の圧勝で終わった。なぜ隷属国家が異常なほどの戦力をいつ、どこで整えたのかは謎に包まれている。


 ラインハルト帝国を中心に、大扶桑帝国、スオメン共和国、アペニン王国などと軍事同盟を結び、帝国枢軸同盟軍が、ポリテーヌ共和国、ボリシェビーク連邦、クール・ブリテン連合王国、リバティー合衆国など共和国連合軍に対し敵対行動をとると勧告。


 積極的行動に出ず、高みの見物を決めているリバティー合衆国とは反対に、ラインハルト帝国はポリテーヌ共和国との西部戦線、ボリシェビーク連邦との東部戦線の二つの戦線を抱えている。


 東洋の小さな島国である大扶桑帝国や、両側を大国に囲まれたラインハルト帝国、ボリシェビーク連邦との冬戦争中のスメオン共和国は、数では共和国連合軍に全く及ばない。はたから見れば、枢軸同盟軍には勝ち目が無いように思えた――


 だが結果は違った。


 人間を超えた能力を持つ機械化人間(アンドロイド)を多く運用する連合国軍が、革新的な軍事力と技術力を持った枢軸国軍に大敗状態であった。


 特にラインハルト帝国では、国中に張り巡らされた鉄道を通るリニアモーターカーや、大型の輸送機を使って物資や兵隊の輸送を行っていた。これにより戦場では貴重な物資が不足することはなかった。


 更には航空機と戦車を連携させた電撃戦に加え、遊撃海軍による機動機械化艦隊の攻勢で、海上戦闘でも比類の強さを発揮していた。


 総帥は、帝国を奴隷として酷使してきた共和国に対し、非道な行いを平気でする共和国人は()()()()()。人ではない以上、戦時国際法は適用されない。という解釈で都市部への民間人をも巻き込んだ大規模攻勢に着手した。

 

 今までの戦争史ではありえなかったパワーバランス、この異常な戦争は世界で初めて起こった世界大戦であった。


 しかし枢軸国軍関係者はみなこう言う。


 なぜここまでの技術力が手に入ったのか、それを知る者は一人もいない、と。

 


 


 

 







 ラインハルト帝国 首都 帝国軍中央最高司令部


 戦場とは裏腹な閑静の中央本部内部は、いつもと違い、慌ただしく響く足音と話声で満ち溢れていた。


 窓から見えるヘリポートには、VIP専用ヘリの他に、何機もの攻撃ヘリが重圧な護衛を固めながら降下する。ヘリポートに集まった参謀将官や諸々の面子が規則正しく整列していることから、来賓が到着したということが予想できる。


 スーツに身を固めた官僚の人間たちも含め、着陸したヘリから姿を現す特権階級の人物を待つ。


 ここで、ただ一つ気になることがあった。


 本来はこの場に出向く予定であるはずの帝国重要人の姿が見当たらないのである。










「――閣下ぁ、閣下ぁ‼」


 廊下に敷かれた高価な赤絨毯の上を、ボロボロにしそうな勢いで駆け抜ける一人の男性がいた。書類を挟み込んだ辞書のように分厚いファイルを脇に挟み、片手で制帽が脱げ落ちないように支える、その体勢で必死に疾走する男性は、とある荘厳な扉の前で停止する。


 荒れた息を整え、襟を正して背筋を伸ばす。汗の滲んだ額を拭いたハンカチをしまい、制帽から覗く双眸に緊張感を込めて扉をノックする。


「失礼します。アルベルト・ヴォス・オーバーザルツベルグです」


 アルベルトの入室合図の後、一呼吸おけるほどの時間が経ってから入室許可を下す声音が響く。失礼します、と再度の声掛けをしてから、エンタシスのように僅かな膨らみを持った柱上の取っ手を引く。


 扉を開けた途端、部屋から漏れる香気な香りを鼻腔で感じ取ったアルベルトが、扉が閉まるのを確認する。





「――どったのベルベル? 顔から下が汗で大洪水してんぞ? シャワー浴びる?」






 顔を合わせてからの第一声に危うく脱力しかけたアルベルト。だがすぐに姿勢を正してその人物と正対する。


「――ただいま来賓が到着致しました。午前十一時より面会があります、すぐに準備してください、よろしいですね――」


 その時、アルベルトが言おうとした。発言しただけで時が止まりそうな感覚に包まれる、威厳を持ったその人物の名を――





「――エレナ・フィルデナント・ディートリヒ・エーアリンガー・ブライトハウプト・デム・カルテンブルンナー・ジークフリート・ディルデヴァンガー総帥」





 軍事国家であるラインハルト帝国の国家元首であり、ラインハルト帝国軍を総括する総司令官であるその人物は、総帥というにはあまりにも若く、その肩書からは想像もつかないほどの端麗な顔立ちをした長髪の女であった。国民から令嬢総帥、帝国軍令嬢と呼ばれていた。


 金髪の間から覗く、くっきりとした碧眼でアルベルトを見つめるエレナは、磨かれた金属のように美しく光る唇を開けた。


「そうだっけ?」


 国家元首とは思えない発言をしたエレナの目の前では、急激に血圧が上がったアルベルトが、ポーカーフェイスでこの場をやりきる。


「――閣下、先日に大扶桑帝国からの来賓がお越しだと伝達致しました。それが今日です、早く正装に着替えてください」


 起床時間が過ぎてからもう数時間も経っているというのに、未だにパジャマのままで過ごしているエレナを胃を痛めながらなんとか説得しようとする。だが当のエレナはアルベルトの忠告を聞く素振りも見せず、手元に常備しているお菓子に手を伸ばす。


 咄嗟に動いたアルベルトが、常人の反応速度を超えたスピードでお菓子の袋を取り上げる。


「とっとと着替えてくださいよ。もう来賓だって来ているんですよ?」


「……」


「早くしてください……」


 一通りの会話を済ませて部屋を出るアルベルトは、閉じられた扉の前で頭を抱えた。


(まったく、あのお方は……)


 生意気ながらも、どうしても憎めないという不思議な雰囲気を纏った彼女のことがふと浮かぶ。エレナの側近として働き出してから、そして今日までずっとあの性格に振り回され続けてきた。


 一見能天気に振舞っているとしても、実際誰よりも責任感が強く、仕事も早く正確である。総統としての役割を十分すぎるほど忠実にこなしている。国内の支持率が軒並み高いことがそれを裏付ける。


 二十三歳という若さで総統の名を背負う彼女だが、国民の前以外では実に自分勝手な人間であり、手を焼かされている関係者も少なくない。


 だがそれでも、ラインハルト帝国の代表としての人格は問題なく、トップとしての資質、カリスマ性は十二分に備えている。


『ベルベル、入っていいぞ』


 ドア越しに伝わる華やいだ声に答えて入室する。すっかりパジャマ姿から総帥制服にジョブチェンジしたエレナの変わりようは異常なほどだ。


「ったくメンドくさいな。今日は執務のないオフだぜ? こんな優雅な日はヘッドフォンつけてマーチング団を見るのがお楽しみだってのに。部屋から出たら休日潰れ(デットエンド)だ」


面目丸潰れ(デットエンド)にならないために面会に出ろと申し上げているのです。同盟国の来賓との会議ですよ? 互いの挨拶や情報交換なども重要です」


「でもよー」


「でもよーじゃありません」


「……」


 抱えていたファイルを手渡したアルベルトはネクタイを締め直し、制帽を被り直す。来賓と顔を合わせる準備は万端だ。


「なあ、軍事会議ならアウデンリートとマンシュタイン、外交なら外務省に任せればいいんじゃね?」


「ダメです。元首であるあなた自身が出席しなければ品位を疑われます。それにあちらも国の()()自らお越しになってくださったんですよ?」


 ひょうきんとしていたエレナが豹変する。一瞬にしてまじめな表情を浮かべたエレナを案内するように、再度扉を開けたアルベルトはこう告げる。





「本日お越しくださったのは、大扶桑帝国内閣総理大臣、清川彰邦(きよかわあきくに)様です――」










 装飾の入ったレッドカーペット。壁にも天井にも豪華な施しのされた応接室の扉がノックされる。


 どうぞ、という控えめな返事を聞き、重い扉が開かれた。


「やあやあ、ディルデヴァンガー姫様。ご無沙汰しております、先に入室させてもらったよ」


 応接室中央、真上にシャンデリアが位置する長机の真ん中に腰を下ろした男性が、隣に将軍を連れ、二人の護衛を傍に伴って腰を下ろしていた。主張の強い口ひげが喋るたびに微かに動く。


 その反対側に、清川と向かい合う真ん中の一席だけ空けて、アウデンリートとマンシュタインが腰を下ろしていた。


「申し訳ございません、キヨカワ殿。少々遅刻してしまって……」


 居たたまれないといった表情で謝罪するエレナを見た清川はにこやかな微笑みを浮かべる。


「気にすることはない、女性が準備に時間が掛かるのは世界共通だ。私も承知しているよ」


 清川の優しさに救われながら、アウデンリートとマンシュタインの間に着席する。再び、絢爛な室内の雰囲気に合うような静けさが舞い降りた。


「――では会談を始めましょう」


 沈黙を破るようにアウデンリートが一言入れる。


「現在我々帝国枢軸同盟の戦況は優勢、資源も資金も必要限度を上回っている状態です。この状況が続けばいづれ共和国は叩けるでしょう」


 アウデンリートの言葉に続き、机の上に大型のタブレット端末を用意し、電源を付けたマンシュタインがこう話す。


「我々は二つの戦線に挟まれた状態であり、斜め上のクール・ブリテン連合王国の戦力がロレーヌ戦線でも確認されています。連中がこのまま本格介入を始めれば、まだ十分な戦闘データが取れていない分厄介になるでしょうな」


 世界地図を表示したマンシュタインがタッチペンで各国の現在の動きを矢印で表す。ラインハルト帝国から伸びる矢印がポリテーヌ共和国、ボリシェビーク連邦を指している。これは現在交戦中であることを示しているようだ。


 共に枢軸として同盟中の大扶桑帝国はまだ大戦に介入することがなく、各国の動きを眺めているようだ。だが多少の不安材料もある、それは――


「我が皇国は北の大国ボリシェビーク社会主義共和国連邦を警戒している」


 そう口を挟んだ清川が地図を指し示す。ひと際目を引く領土を持った国であるボリシェビーク連邦は、過去に数回大扶桑帝国との小競り合いが起こっていた。ラインハルト帝国との戦争だけに全ての戦力を投入しているわけではないだろう、その気になれば大扶桑帝国との開戦も考えうる。


「ですがまだ冷戦状態ですな。皇国では現在軍備を強化、対ボリシェビーク侵攻に備え、海境を警護、何重もの巡航ミサイル群もその矛先をあちらの国に向けている状況です」


 一通りの説明をし終わった後、目配せで喫煙の許可を獲得しようとする清川に、エレナが会釈で促す。


 高級そうなパイプを噛み締め、芳醇な煙を吐き出す。


 両隣の愛煙家であるアウデンリートとマンシュタインにも喫煙の許可を出したエレナがグラスに注がれた炭酸ジュースに口をつける。その様子を見ていた清川があることを思い出す。


「――そういえばディルデヴァンガー姫は煙草もお酒も禁止しているのであったな?」


 「ええ、私はアルコールを取るとすぐに戻してしまいますので。煙草は、えと、個人的な理由がありまして……」


「はて? 理由とは?」


 温厚な人柄とは裏腹に、ぐいぐいとした質問にエレナは目を伏せる。僅かに紅潮した頬を髪で隠す。


「実は、煙草を吸う女性はお断りだと言う男性が多いと聞きましたので……」


 不意に訪れる沈黙。数秒の閑静の後、パイプを清川の口からテンポよく空気が漏れる。


「――なるほど! 帝国の令嬢総帥様も、やはり年頃のお嬢様だということか!!」


 清川の大笑いにつられ、室内がどっと爆笑に包まれた。アウデンリートとマンシュタインも笑いを堪えずにいる。


「お……お笑いなさるなんてひどいですよ! アウデンリート! マンシュタイン! なぜあなたたちも便乗なさっているんですか!?」


 顔を真っ赤にして怒るエレナに対し、マンシュタインが謝罪を述べる。


「申し訳ございません総帥。煙草がだめなら葉巻を吸ってみてはどうですかな?」


「どっちも同じでしょう!!」


 話の腰が完全に折れた会談。冷静さを失いかけたエレナの存在がいい意味で緊張をほぐしていた。このやり取りは五分間続くこととなった。






「――話が反れてしまいましたね。では本題に戻りましょう」


 すでに冷静さを取り戻し、顔の紅潮も潮を引いたエレナが話を進める。


「今回、貴国には大規模作戦の協力を仰ぎたいと思っていますが……」


「以前聞いたあの件か? それなら答えは既に出ている。答えはJa(ヤー)≪イエス≫だ」


 清川のラインハルト語を聞いたエレアに笑みが零れる。協力要請の承諾に、アウデンリートとマンシュタインも内心ガッツポーズをしていることであろう。


「ありがとうございます清川殿。『ジークライヒ作戦』を構成する、『セキガハラ作戦』『九九式流星作戦』『憤怒の夜明け作戦』は大扶桑帝国の協力なしでは為し得ないものです」


「協力するのはもちろんだ。この作戦を通して我が軍の実戦における優位性と士気向上にも繋がる」


 企画された『ジークライヒ作戦』とは、共和国、そしてクール・ブリテン連合王国に大打撃を与えるための、史上最大規模が予想される一大海戦である。中心となるラインハルト帝国遊撃海軍、大扶桑帝国海軍で行う。


「詳細は既に伝達した通りです。密かに通じていた()()の協力も取り次いでいます、ね、アウデンリート?」


 にこやかな表情でエレナがアウデンリートを見上げる。資料をめくり、某国のサインと捺印の入った書類を見渡す。


「――閣下のおっしゃる通り、某国から『こちらは支援という立場でしかないが、全力で協力させてもらう、あなた方は徹底的にやれ』との返事が来ました。今後はどうなるのか分かりませんが、一時的な協力関係ですね」


 灰皿に吸い殻を零したアウデンリートは真剣な表情で書類に食いつく。


 心なしか嬉しさを顔に張り付けた清川が口を割る。


「大変喜ばしいことだ。仲良しこよしになることは無いだろうが、だがそれでも一時的でも協力は協力だ」


「――今後の課題ですね。ゲン担ぎに夕餉は赤飯でも炊いてみようかしら?」


「なるほど、ライスか――」


 再び笑いが巻き起こった。今回は恥をかかずに済んだエレナは胸を張って堂々とする。


「――ご協力ありがとうございますキヨカワ殿。晩餐会にご招待しようと思っていたのですが、伺ったところお忙しいので?」


「――ああ。すぐにでも本国に戻って執務だ。晩餐会は戦勝後盛大に行おう」


 席を立った清川が手のひらを差し出す。エレナはすかさず握手する。


「この作戦、やりましょう総帥、今回はそして今後もアペニン抜きで」


「ええキヨカワ殿。アペニン抜きで」










 清川を乗せたヘリコプターが飛び立っていった。


 再びの静けさが戻った中央司令部では、とある噂話が広まっていた。


「――閣下。先日面白い話がありましたよ?」


 先ほどの応接室で余りもののお菓子を処理するエレナが好奇心旺盛に聞き返す。


「どんなの? どんなの?」


 ものすごい食いつき気味のエレナを抑えるように沈着に話を進める。


「先日の東部戦線において、とある小隊の兵士が一人生き残ったそうです」


 アルベルトの言葉を聞いたアウデンリートとマンシュタインが、お互いの会話を切り上げてアルベルトを注視する。


「その生き残りが無事駐屯地に帰還した、と。――敵機甲部隊一個中隊を壊滅させて……」


 激震が走った。


 アルベルトの話し方から察するに、その兵士は部隊のたった一人の生き残り。つまりたった一人で一個中隊を撃破したと捉えることができる。


 真剣にアルベルトの話を聞いていたマンシュタインが質問する。


「その兵士とは一体何者なのだ?」


 彼の質問に対し、アルベルトはこう答えてみせた。


「――前線の左翼の一部を担当していた第四〇八小隊の一員、フリードリヒ・ヴァルトハイム伍長です」


 お菓子を口に運ぶエレナの手が止まった。好奇心を口元に集中させるように笑って見せる。


「そんなすごい奴、あたしに言ってくれれば騎士鉄十字章を申請してやったのにー。けちー」


「受賞にはまだまだですよ。確かに一人で奮闘したのは素晴らしいですけど、あと、閣下はそのホイホイ勲章を授ける癖を直してください!」


「ええー? いいじゃん別に。足りなくなったら作ればいいだけじゃん!! ダイヤモンド付きはアレだけど」


「そういう問題じゃないでしょう。ギブミーチョコレート感覚で与えないでください!」


 二人のやり取りの楽しそうに見ていたマンシュタインがこう切り出す。


「しかし、その伍長は気になる人物です。彼は帝国の栄光に多大な貢献をしてくれそうですな」


「何だ話が分かるじゃねえかマンシュタイン。あたしも会って直接会話がしたい」


「そうですな。彼はおそらくまだ東部戦線にいるでしょうな」


「いよっし決まりだ。ベルベル、彼をご丁重に中央本部にご招待して差し上げろ!」


「り……了解しました。すぐにでも手配します」


 そう言って部屋を出るアルベルトを見送る。エレナはアウデンリートとマンシュタインの方へ向き直る。


「なあアウデンリート、マンシュタイン。お前ら突撃機械化軍に特殊部隊を設置したいって議案が出ていたよな?」


 エレナの切り出しに二人は互いに顔を見合わす。二人は、彼女の言葉の意味とアウデンリート、マンシュタイン両者の考えを再認識し、アウデンリートが返答する。


「――はい。敵機械化人間(アンドロイド)の中で、特務隊仕様の性能が倍上げされた個体も確認されています。これをほっておけば我が軍にとって大きな障害となるでしょう、そのためピンポイントでこれを撃破するための特務隊編成が必要なのが現状です」

 

「まったく共和国の連中は、自分の体のパーツを機械に作り替えて、超人類にでもなったつもりなんかよ? あたしはそういうのは人間の尊厳を失う行為だって思うんだけどなー」


 嫌味ったらしく言葉を捨てたエレナが四杯目の炭酸ジュースを一気に飲み干す。


「――まあでも、帝国の機械化人間(アンドロイド)の連中は嫌いじゃないぜ? ラインハルト帝国の民族は体質上、機械化適正をクリアしている奴が非常に少ないし法律でも禁止されている。だが祖国のために体をいじくって超人類を演出し、多大な戦力として貢献を為す――あたしのためにそこまでしてくれるなんて、惚れちまったらどうすんだよチクショー♪」


 過去最大規模の自惚れを披露したエレナがチョコレート菓子を口に詰め込む。太らないのはいいことだが、暴飲暴食の彼女を心の中で心配しているアウデンリートやマンシュタイン、アルベルトは少々肝を冷やしていることだろう。


「ま、何にせよ――」


 お菓子を食べる手を止めたエレナが背もたれに身を預ける。


機械化人間(アンドロイド)の醍醐味であった人工知能とその人工の心、あの失われた技術を取り戻させるわけにはいかない、あれは危険すぎる――」


 突然真剣さを取り戻したエレナが忌々しく言葉を吐く。今回の作戦は彼女の目指す世界への一歩に過ぎない。


 今回計画されている『ジークライヒ作戦』は後世の歴史家たちに語り継がれるであろう、史上最大の徹底攻勢作戦である。その最高責任者であるエレナには緊張が全く感じられない。余計な不安が無ければ無いほうが良いのだが、それでも緊張感は持ち合わせて欲しい、それが彼女を支える者たちの思いであった。


「――さあってと!」


 十分に間食を堪能したエレナが勢いよく立ち上がる、座り疲れで鈍った体を伸びでほぐす。


連合軍(世界のゴミ共)を徹底的に洗浄してやろうぜ? 合法的に敵をぶっ殺せるお待ちかねの戦争だ」


 不敵な笑みを浮かべたエレナが応接室を退出する。敬礼でエレナを見送ったアウデンリートとマンシュタインは、作戦の綿密化のため今日も大忙しで軍務についた。 


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