第四十一章 ジークライヒ作戦③
「――我々はこれよりラインハルト帝国軍の正面へと向かう」
舗装のされない道路。
軍用トラックの中で行われるブリーフィングの再確認に兵士たちが耳を傾ける。
「現在ラインハルト帝国軍は戦力を割き進行中」
我々をかく乱するのが目的なのか、戦力をいくつかに割いているのである――
「よってこれを各個撃破。我が部隊に当てられた任務は単に敵部隊を撃破するだけのシンプルなものだ」
トラックの走行音に負けない部隊長の声が響く。
「だがシンプルであろうと敵はあの悪魔の軍隊だ。気を抜いていたら鉛の弾がケツの穴にぶち込まれるぞ!!」
ポリテーヌ共和国は敗走を続けていた。
強大なラインハルト帝国に圧倒された経験から、単に敵部隊を撃破するという仕事は非常に困難なものだ。
「もうすぐ下車地点に到着する。そこで向かってくる敵部隊を抑え込め!!」
部隊長の話はそこで終了する。
トラック内の兵士たちが緊張を表し、神に祈る間――
「――もうすぐですよ、アレクシア様」
女の声が響く。
「え? ああ、そうねリル」
M1ガーランドを抱き、思案に耽っていたアレクシア・アニョルトが我に返る。
「……また彼のことを考えていたのですか?」
「……やっぱりリルは分かっちゃうんだね?」
あまり晴れない笑顔をリルに向ける。
アレクシアはフリードリヒとの再会を望んでいる。
だが、望んでいるはずの再会に陰が差し込んでいる違和感を覚えてしまうのだ。
(……どうしてだろう。奥村君がもっともっと遠い存在になっちゃった気がする……)
今やりんりんの力を引き継いだフリードリヒは、かつての真広ではないかもしれない。
だが、それは美帆に知る由もないことだ。
「……アレクシア様」
心配そうにアレクシアの横顔を覗きこむリルが話しかける。
「私は……アレクシア様がフリードリヒ・ヴァルトハイムと手を取り合うことを望んでいます」
真剣なまなざし。
アレクシアは思わずリルの真摯な瞳に引き込まれる。
「ですから私も精一杯助力します。ですから、あなたは自身の願う道を歩んでください」
「リル……」
不意に涙が流れそうになる。
だがアレクシアは目を思い切りつむり、泣き顔を見せまいと奮闘する。
「ありがとうリル、私は私のするべきことをやるよ……」
アレクシアの表情に花が咲く。
それを見たリルが、満足げに微笑みを浮かべる。
「私の心はアレクシア様と共にあります。たとえ軍の命令に逆らおうとも、あなたの隣であなたを支えます」
見つめ合う瞳。
切り離すことの困難な固い絆で結ばれた2人。
お互いが手を握りこみ、拳と拳をぶつけ合う。
「――すごく危ない目に遭うかもしれない。私の追随コストは超高価だよ!」
「――借金してでもあなたの隣を死守します!」
その宣言が2人の関係をどこまでも強固にする。
アレクシアは様々な経験で成長した瞳で、窓の外を見据える。
トラックはすでに戦闘地域に差し掛かっている。
アレクシアのお尻を震わす振動は、トラックのものだけではない。
砲撃、爆撃、銃撃。
戦争のあらゆる要素を詰め込んだ戦場の手前でトラックが停車する。
「――総員下車!! 初弾を装填して安全装置を外せ!! 戦争開始だ!!!」
部隊長の指示で続々とトラックから飛び降りる機械化兵士たち。
自動小銃を抱えて戦場へとと疾走を始める。
「いいですかアレクシア様、目標を感知次第、戦闘の混乱に乗じて中隊から離脱します!!」
「わかった!」
戦争の影響で廃墟と化した市街地。
土砂崩れのように道になだれ込んだ瓦礫を乗り越え前進する。
「来たぞ!! 機甲歩兵混合部隊だ、後ろの一般兵士の道を作るぞ!!」
部隊長の怒号と同時に各位の銃口が敵を見抜く。
「撃てぇ!!」
銃火と共に空中に吐き出された銃弾が、銃声を伴って飛翔。
目の前に迫る敵歩兵を正確に撃ち抜いていく。
ラインハルト兵士は倒れた味方を飛び越え、銃撃を開始する。
統制の取れた火力が迫りくるが、それは機械化兵士の進軍を止める決定打にはなりえない。
ラインハルト帝国軍の銃撃を掻い潜り、部隊は一人一人正確に照準を合わせる。
支援射撃を受けながら、アレクシアは迷わず敵群衆に吶喊してく。
M1ガーランドを軽々と構え、走りながらの照準で発砲。
吸い込まれるように敵歩兵の肩や足を貫く弾丸。
アレクシアはリルを伴って敵戦車の傍にまで侵攻する。
「リル!!」
「はい!!」
2人が同時に手榴弾のピンを抜く。
それを戦車の砲口から内部に落とし、薬室を爆破する。
「いいよリル! そのまま敵の陣形を崩して、あとは味方に任せよう!!」
「了解ですアレクシア様!」
M1ガーランドの銃剣に魂を込める。
陣形内部に侵入したアレクシアたちに向けられる幾多の銃口。
だが彼女たちは一切臆することなくライフルを振るった。
鍛え抜かれた銃剣が敵ライフルの機関部を切り裂き、銃床で次々と敵兵士を無力化する。
繰り広げられる弾幕を間一髪で避け切り、2人は即座にその場からの撤退を開始する。
「リル、次はあそこの中隊規模集団!!」
「はい!! 敵戦車を平らげて様子見ですね!!」
このあと予想されるフリードリヒとの戦闘に備え、何とか弾薬と体力の温存をする必要がある。
ゆえに脅威となる戦車だけ沈め、あとは後続に任せよう。
「――アレクシア様!!」
緊迫したリルの声。
「どうしたの!?」
銃撃をやり過ごしながら、リルはアレクシアに警告を発する。
「9次方向の2ブロック先から狙われています――パンツァーファウストです!!」
一瞬でアレクシアの顔色が曇った。
視線を横に流した時、視界に入ったのは彼女に向って飛翔する弾頭。
(避けられない!?)
このままのコースで直進すれば、弾頭はアレクシアの足に着弾する。
そうなれば機械化兵士といえど、体の欠損は免れない。
「アレクシア様!!」
避けられないのなら、迎撃するしか――!!
一瞬の思考で行動を選択。
尋常でない速度で構えられたM1ガーランドが火を噴いた。
回転を加えた高温の弾頭が空気を焼く。
そして吸い込まれるように直進した弾丸が、パンツァーファウストの弾頭を撃ち抜いた。
爆裂と破片がアレクシアを全身を打ちつける。
「アレクシア様!!」
リルは弾切れになるまでの射撃で敵歩兵を無力化する。
そしてその場に倒れこんだアレクシアの胴に腕を回し、強靭な脚力で遮蔽物にまで後退する。
「アレクシア様、アレクシア様!!」
必死の声かけでアレクシアの反応を促す。
「……心配しないでリル。あれくらいで死なないわ」
申し訳なさそうに、感謝するようにリルに笑顔を見せたアレクシア。
何事もなく起き上がり、自分の体は平気だということをアピールする。
「……大事なくて安心しましたよ」
「ええ、私も気を付け――」
遮断されるアレクシアの言葉。
リルも異変に気が付き、咄嗟に銃を引き寄せる。
アレクシアが何かを感じ取った。
「アレクシア様……」
「そうみたい、ついに来たんだ」
共鳴し合うりんりんの加護。
それがアレクシアに彼の存在を知らせた。
『――01より中隊各位へ』
ヘッドフォンを通して部隊長の声が響く。
『――我が軍後方より敵増援視認、ラインハルト帝国の精鋭どもだ!!」




