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第四十章 ジークライヒ作戦②

 ポリテーヌ共和国、クール・ブリテン連合王国海峡付近。


 そこを守る2国の連合艦隊は、東より迫る艦隊の存在を確認していた。

 ラインハルト帝国旗と大扶桑帝国旗をはためかせ、海風を切って進軍する枢軸海軍。


 両者の攻撃開始はほぼ同時であった。


 両軍の損耗は同程度、進展のない膠着状態が続いていた。


 だが連合軍艦隊はこの膠着を打破する秘策を練っていた。

 

 彼らの背後、クール・ブリテン連合王国の港から続々と押し寄せる新たな軍隊。

 リバティー合衆国海軍の派遣艦隊が増援として戦闘海域に差し掛かっていた。


 海上部隊の戦闘が始まって数時間後、陸空部隊の出撃が始まる。


 そして陸軍に交じり、機械化突撃軍も次々と指定された戦地へ向かう。

 

 風に揺られながら、輸送機の中で銃を肩に抱く機械化歩兵。

 これから行われる最終戦に向け、それぞれがブリーフィングの内容を頭に思い描いていた。


 今回突撃機械化軍が国防陸空軍と合同で行う『99式流星作戦』。

 海軍が主導で行う『セキガハラ作戦』とは違い、陸で行われるのは防衛戦闘である。


 陸軍が護衛する地対空車両の援護、もしくはその露払いを突撃機械化軍が敢行する。


 そして地上からのバックアップのすべてを受けるのは空軍の箱舟航空戦団。

 『ジークライヒ作戦』の最終工程、『憤怒の夜明け作戦』のカギを握る部隊である。


 輸送機の中で各自、作戦内容整理や武装点検にいそしむ中、黒いマントを羽織る将校は無心に窓の外から地表を見下ろしていた。


 フリードリヒ・ヴァルトハイム中佐。


 この場において特殊な境遇を持つ彼は、おそらく銃弾を交わす相手になるであろう敵国姫君のことを考えていた。

 

 アレクシア・アニョルトは再びフリードリヒの目の前に現れる。


 彼の予感は確信である。

 互いにりんりんの加護を受けた仲だ。

 加護の共鳴が両者の邂逅を促す。


 KAR98Kをぎゅっと握りしめ、銃身にそっと額を当てる。

 銃身に制帽の鍔が押され、重力に従って床に帽子が落下するのと同時――


 地上からの爆音。

 

 ラインハルト国防陸軍が戦闘を開始した。

 さらには箱舟航空団以外の空軍戦力が敵地上部隊への爆撃を開始する。


 輸送機を護衛する戦闘機の銃撃は開始されない。

 ポリテーヌ共和国にはこの輸送機を攻撃するだけの対空兵装や戦闘機を用意できない。


 これであれば、輸送機は安全に機械化兵士を地上へ下ろすことができる。


 戦争という衝撃が、大気を伝って輸送機の中にまで影響を及ぼす。

 爆音からくる振動を全身で感じ、今ここが大規模な戦場だということを嫌というほど実感できる。


 しばらくプロペラの音と戦争の音だけを聞いていたとき、久しい人間の声が耳に入る。


『――降下5分前』


 機内のスピーカーを通じ、機械化歩兵部隊に降下準備の指令が下される。


 それまで腰を下ろしていた兵士たちが次々と立ち上がり、開閉扉の近くにまで移動する。


 それぞれが所持する銃器を背負い、無言で降下開始の予定時刻をひたすら待つ。


『――降下1分前』


 扉が開かれる。

 冷たい強風が機内を満たした。


 強靭なまでに鍛え抜かれた彼らは、高高度の気温や低酸素に臆することなく直立している。

 人体を改造された軍人たちは、祖国の勝利と平和だけを考え眼下を見下ろしていた。


『――降下開始』


 その言葉とともに列になった兵士たちが次々と飛び降りる。


 機械化兵士による空挺降下。


 パラシュート以外の空挺用装備を身に着けない兵士たち。

 

 通常の人間を遥かにしのぐ強固さを持った彼らは、現在繰り広げられている激戦地を10キロ超えた場所を目指して進路をとる。


 冷風を全身に受けながら、眼下に迫る地上を見つめるフリードリヒ。


 降下目標地点は林の中である。

 木に体を貫かれることのないよう訓練は受けているが、実戦で行うのはこれが初めてだ。


 多少の緊張を持ちながら、フリードリヒはパラシュートを展開する。


 急激に減速する落下。

 目の前に広がる林地帯が徐々に迫り――侵入。


 直前でパラシュートを切り離して地上に着地。


 周囲を確認し、フリードリヒ・フッケバインの面々や他の部隊が地に足をつけていることを確認する。


 他の部隊が周囲警戒をし、フリードリヒは点呼をとる。


「――空に残ってる阿呆はいないな? 我々はこれからすぐに進軍だ。装備の再確認をしておけ」

 

 フリードリヒの指示で全員が装備点検。


「いいか、ここは銃砲の音から離れているとはいえ敵地に変わりない。抜かるなよ」

  

 フリードリヒ・フッケバインを含む複数の機械化歩兵隊は敵戦力の後方に空挺降下した。

 彼らは陸軍と対峙するポリテーヌ共和国軍を後ろから攻撃する算段である。


「――装備点検終了、いつでもいけます」


 クリスティアーネの発言を聞き、フリードリヒが指示を飛ばす。


「フリードリヒ・フッケバインは他の部隊の先鋒だ。笑われることのないよう全力を尽くせ!」


 了解!! ――部隊各位が応答する。


 そしてフリードリヒ・フッケバインを先頭に、機械化歩兵部隊の前進が開始される。


 一般歩兵を遥かに超える進軍速度で肉薄。

 

 徐々に大きくなる爆音。 

 視界に開ける火柱。

 

 林を抜けた先は戦場である。

 彼らは敵を葬るキリングマシーンとして、最大の敵との対峙を図る。

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