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第三十九章 ジークライヒ作戦①

「先日ポリテーヌ共和国の3つの要塞陣地の奪取に成功。陸上部隊も着々とポリテーヌ領内へ侵攻開始。『バトル・オブ・ライヒ作戦』は完全に成功だ」


 作戦会議室に静かな歓喜が巻き起こる。

 恐ろしいほど計画通りに遂行された前回の作戦。

 こうしてポリテーヌ共和国の盾が、ラインハルト帝国の盾としての機能を発揮するのである。


 作戦書類に視線を移し、アウデンリートは次なる作戦の最終確認に移行する。


「これで我が帝国はポリテーヌ共和国との戦争の最終局面を迎える。作戦名――『ジークライヒ作戦』だ」


 ジークライヒ作戦。

 ポリテーヌ共和国壊滅を念頭に置いたバトル・オブ・ライヒ作戦に続く大規模作戦である。


「この作戦は3つの構成からなる――」


 セキガハラ作戦。

 九九式流星作戦。

 憤怒の夜明け作戦。


「第一段階のセキガハラ作戦のため、我々の支援協力を受諾した第三国はすでに某国に到着している」


 これも予想通り。

 戦局はすべてラインハルト帝国に掌握されている。


「作戦開始は明日の12:00。すでに訓練は済ませている――総帥、何かありますか?」


 アウデンリートの質問で、この場の視線がエレナに向けられる。


「作戦成功の暁には、参加した全兵士に恩賞を与える。全員がいい気分に浸った状態で終戦を迎えるぞ」


 決して迫力はないが、エレナの確固たる意志を感じ取った作戦室が敬礼の嵐に包まれる。


 最終ブリーフィングを終え、作戦室にはエレナ一人が残っていた。

 絢爛な椅子の上で足を組み、優雅にティーカップを傾ける。


「――入れ、今なら誰もいないぞ」


 室内には誰もいない。

 エレナは扉の向こうの人物に声をかけた。


 ガチャリと重い扉が開く。


「――どうだ? お前に渡したP08と専用弾の真価は。私の加護を宿した徹甲弾は一撃で強化された神を射殺したぞ」


 神殺しの誉れにウキウキするエレナ。


「――はい。ですが、まさか先日のりんりんの殺害を見越して私にこの銃を預けたのですか?」


「ああ。突撃機械化軍の隊長格には実験的に配備しているが、お前が撃ち放った弾丸は特注品だ」


 背もたれに背を預け、エレナはティーカップを口につける。


「りんりんの魂を抜き取ったその銃を持った感想はどうだ? そろそろお前も()()()()()()()()()()()頃だと思うが」


「いえ、自分では実感がありませんので」


 そうか。

 エレナは一言で返答をし、紅茶で喉を潤す。


「――明日の作戦で戦争を終わらせるつもりだ、そうしたらお前はどうする? 私の力で現実世界に帰してやることもできるぞ?」


「――そうですね」


 言葉を濁すフリードリヒ。


「――まあいいさ。お前の好きにさせてやる、下がっていいぞ」


 敬礼の後、彼は踵を返して部屋を出ていった。


(吉野美帆への依存はほとんど残されていないようだな、これもりんりんの力による汚染の弊害か……)


 飲み干したティーカップをテーブルの上に置き、エレナは作戦室の天井を見上げる。


(我が子である人間の精神を壊すなど、親のすることではないのかもしれねえな……)


 りんりんへの復讐心から始まったこの世界の戦争。

 正直彼女は『ラグナロク』に深く関わるつもりはない。


「私の世界の住民――奥村真広と吉野美帆」 


 奥村真広はストラスマルセイユ国立大学での襲撃において、吉野美帆を殺せなかった。

 そして吉野美帆は今でも奥村真広に再開し、彼の目を覚まさせようと奮闘している。

 2人ともりんりんの加護を受け、お互いを殺しあうように洗脳されているはずだが――


「もしかしたら、この世の間違いを正すことのできる特別な人間が現れるのかもしれない」


 そうなれば、戦火で失われた『ワルプルギス文書』の探索にも希望が持てる。


「私がりんりんからこの世界を引き継いだ。だからこそ戦争を終わらせて、平和な時代を取り戻さないとな……」


 静かな決意表明。

 そうしてエレナは自然に眠りに入っていく。


 彼女が目覚めたのは運命の日。 

 今作戦に参加する軍関係者は早々に寝床を飛び出し各々の準備に取り掛かる。

 すでに海軍は作戦海域に到着、増援艦隊も港を出港している。


 そして帝国内に散らばる陸上部隊が、各々の担当個所で武装確認を済ませている。


 今でもラインハルト帝国軍中央本部にいるのはごく少数の部隊のみ。

 

 そこにはフリードリヒ・フッケバインも含まれている。

 飛行場格納庫の隅に建設された待機室。

 完全武装の突撃機械化軍特務隊が終結し、出撃命令を待っていた。


 時刻は11:55。

 あと300秒で『セキガハラ作戦』の火蓋が切って落とされる。

 フリードリヒはヘッドホンを通じて作戦室の会話を傍聴していた。


『――艦隊より通達、『我、敵艦隊ヲ目視セリ。業火ノ鉄槌ヲ撃チコム砲塔、仰角完了』と』


『――()()()な平文を連中はキャッチしたであろう。正々堂々たる我が海軍の戦いぶりを世界に示すときだ』


『――クール・ブリテン連合王国沿岸海軍基地及び港を攻撃。これで義勇軍の渡航を阻止する』


『――ようやく戦争が終わりますな。戦後のワインが楽しみだ』


 ヘッドホンから聞こえる会話は緊張感がありながらもどこか気の抜けている。

 多少の楽観も必要だが、戦闘時には気を引き締めてほしいものだ。


(俺たちが向かう先は陸地、99式流星作戦における重要拠点の1つ)


 おそらくアレクシア・アニョルトはそこに現れる。

 切っても切り離せない糸のようなもので2人は繋がれている。


 アレクシアは二度も逃した。

 これ以上の失態は犯せない。


 フリードリヒの決意表明。

 今度こそ敵を狩る想いを銃弾に乗せて発射する。


 フリードリヒの思案の中、刻々と刻まれる秒針が時刻を指した。


 『ジークライヒ作戦』の開始である。

 

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