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第三十七章 真実①

 某空間 某所


 普通の人間の住む世界とはかけ離れた領域、科学では解明しきれない未知の聖域。


 ファルネスホルン聖域。

 

 そう呼ばれるこの世界では、万物を創り出した創造者――神の存在が住まう世界である。

 

 ここでは数多の神が自分の世界を創造し、遠隔管理する。

 しかし中には直接自分の世界に入り込み、その世界の住人として直に世界を管理する者もいた。


 その中にはエレナ、りんりんの姿もあった。

 りんりんの世界に遊びに来たエレナ。

 彼女たちは教会の一室で語り合っていた。

 

 彼女たちは古くからの友人、そして親友と呼べるほどの仲であった。

 りんりんはある世界でポリテーヌ共和国の住人として生きていた。

 エレナはある世界でドイツ連邦共和国の住人として生きていた。


 どちらの世界がより優れて、そして幸せな世界にできるか――健気で優しい女の子たちはそうやって競い合い、高め合っていた。


 彼女たちがこうして親交を深める前、神の世界では大規模な大戦が勃発していた。

 

 本来神々の創造する世界の力、文明、幸福度は平等でなければならず、それを破るのは禁忌である。

 しかし神の中には禁忌を密かに破る者も少なくなかった。

 

 己の世界の力を伸ばす、それは違反とされる行為であり魅力的な行為であった。


 その違反を実現する方法、それは創造主である神自身の力を強大にすること。

 神と世界は一心同体、神が強大になればなるほど比例して世界は強大になる。

 

 ならばそれをどうやって実現できる?

 方法は一つ。


「人間の生命エネルギーを吸い出すって、残酷な話だよな」


 それは過去の記憶。

 初々しさが残るエレナの台詞。


「そうですね。神様が自分の世界で戦争の火種を作り開戦させる。そうして効率的に人を殺して生命エネルギーを摂取する」


 りんりんの肯定。

 人間が死んだ際に肉体を離れる生命エネルギー、言い換えれば魂だ。

 神は生命エネルギーを摂取し力を得る。


「――まあ、それでも復興から立ち直ることで人間はどんどん前に進んでいく。神がそういう風に人間を創ったからな」


 一呼吸置き、エレナは20袋目のチョコレート菓子を頬張る。


「もう、お菓子食べすぎじゃありません? そんなことでは太ってしまいますよエレナ」


 この頃は本当に仲が良かった。


 だが時代の変化が2人の仲を引き裂くこととなる。


 エレナとりんりんが生まれる以前の神々の戦争。

 自身の世界を反映させるための自分の世界の中での人殺し――それは神を最大限に強大化するにはあまりにも効率が悪かった。

 故に私利私欲のため、他の神の命ごとその世界の生命エネルギーを強奪する者が現れた。


 それが悪夢の始まりだ。

 今まで争いごとなど存在せず、前例のない事態に神は恐れおののいた。

 いつ自分が襲われるか分からない――だから力をつける必要がある。

 

 最初の一例を引き金に神による他の神の殺害、殺害した世界を支配し大勢の人間の生命エネルギーを吸収していった。


 殺されるのが怖い、だから他者を殺す。

 雪だるま式に膨れ上がる恐怖があらゆるものを壊していった。


 だがそれもいつかは終わりが来る。

 ファルネスホルン聖域を統括する組織『ファルネスホルン聖域最高評議会』によって停戦宣言が下される。


 これにより全軍撤退。

 ようやく平和が戻ってきたと思われた。


「私たちが当時に生まれなくてよかったな。お前と争うことになったら嫌だもんな」


「ふふ。どんなことがあろうとも私はエレナに牙を剥いたりしませんよ?」


 だが平和など、戦火の交えない冷戦に過ぎなかった。


 神が殺し合いをやめたことで、新たな神々が誕生し新たな世界が次々と創生された。

 数えきれないほどの神が誕生したが、戦争を放棄したことで効率的な生命エネルギーの摂取は見込めない。


 以前に比べ成長スピードが落ちたとはいえ、それは平和の産物だ。

 しかしファルネスホルン最高評議会は油断していた。


 理由はこの世の容量不足だ。


 神はこの世の容量は無限大、宇宙のように幾多の世界が創生されようとも問題はないと思い込んでいた。

 だがそれは誤りだった。


 全域にわたって世界構成システムがダウンし、すでに数百の神と世界が崩壊を始めている。


 最高評議会はパニック状態であった。

 神は己の全能さを過大評価しすぎていた。

 過度なプライドが神を盲目にし、この世の欠点に気が付けなかったのだ。


 その崩壊はファルネスホルン神域にまで広がっていく。

 一度崩壊をしてしまえば、崩壊を止めることはできても回復は不可能に思われた。


 ――崩壊を始めている世界など見捨てるのが妥当であろう!


 ――世界を見捨てれば神も死ぬことになるんですよ!? あなたには同胞を救うという考えがないのですか!?


 ――救うだと? 救出の具体案も出せない者がしゃしゃり出るな。すべてを拾うことはできない――だから何かを捨てる覚悟が必要だ。


 ――それでも――


 ――君も君の世界を管理する神であろう? 他人の世界よりも自身の世界の存続だけを考えろ。


 世論は沸いた。

 自分の死、自分の世界の崩壊――渦巻く不安が治安を乱し、最高評議会は分裂した。


 戦争で効率よく神を殺し、世界を崩壊させて不足したこの世の容量を取り戻す――主戦論。


 闘争を避け、融和に解決策を模索する――非戦論。


 論争が続く日々。

 だが最終的に分裂したファルネスホルン最高評議会の大多数が非戦論に傾きつつあった。

 そうだ。以前の大戦を忘れたのか?

 あんな不幸は繰り返してはいけない、神のため、そして世界と人間のため。


 時間は有限だ、すでにファルネスホルン聖域の崩壊も進んでいる。

 すぐさま英断を下し、事態の対処を――


 だがそれは叶わなかった。


 非戦論の決定が下される直前、少数の最高評議会主戦論者が非戦論を掲げる神に先制攻撃を加えた。

 

 戦端が開かれ、非戦論派も反撃に出るしかなかった。

 こうして神の世界で二度目に当たる大戦――『ラグナロク』が幕を開ける。


「とうとう始まっちゃったな。こっちにも被害が出なければいいんだけどな」


「そうですね」


 エレナとりんりんはラグナロクに足を踏み入れていない。

 あくまで非戦中立の立場で事態を傍観している。


 聖域の戦時国際法では非武装の中立者に対する武力行使は禁止とされている。

 神が国際法を守る常識人だと信じ、エレナは必死に自分の管理する世界を守る。


 いつものようにエレナはりんりんの世界の協会に入り浸っている。

 だが戦争が始まった今、以前のように気楽にお菓子を平らげる気にはなれなかった。


 エレナは一抹の不安はあるものの、同じ境遇であり親友のりんりんの存在のおかげで安心して日々を生きていけた。

 

 戦争が終わるまで2人で励まし合いながら過ごしていこう。

 きっと平和が訪れる。


 だが2人の安寧は崩れ去ることとなる。

 その友情とともに――


 開戦より数十年後。


「私が――戦争を止める鍵?」


 突如りんりんを訪ねるファルネスホルン最高評議会役員。

 突然のことに驚きながらも詳しい話を聞いた。


「私の力で……平和な世の中にできる」


 胸に手を当て自分に言い聞かせる。

 未だ現実味が沸かない。だが与えられた希望が勇気と覚悟をりんりんに植え付ける。

 

 りんりんは承諾した。

 まずはファルネスホルン最高評議会に出頭する。

 その後、終戦に向けた身体強化の段階に移行する。

 向かうはファルネスホルン出資の研究所、そこで行う身体強化カリキュラム。


 エレナにしばしの別れを告げたりんりんの心はやる気に満ち溢れていた。

 そうして彼女は()()()()()()()()()となる実験を受けた――

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