第三十三章 バトル・オブ・ライヒ演習作戦⑦
「――11時方向より敵車両、数は……い、1!?」
視察口から外の様子を探っていたラインハルト帝国陸軍戦車長が素っ頓狂な声を上げた。
「少尉殿こちらでも捉えました! ジープ1両で重戦車集団に突っ込んでくるなんざ、ここをハリウッドの撮影現場だとでも思ってんじゃないっすか!?」
砲手が照準器を通して一台の敵車両を捉えていた。
「こちらも視認! 乗員は、茶髪の美人1、強気な豊満美女が1、スレンダーロリ系娘が1ですぜ!!」
加えて運転手の咆哮が車内を飛び回る。
「あいつ他の戦車の砲撃を全て避けて走っているな――弾種榴弾! ジープの左手前10メートルに撃ち込め!!」
「弾種榴弾!!」
装填手が素早く重い砲弾を装填する。
「撃て!」
室内に響く爆音。
凄まじい速度で飛翔した弾頭が狙い通りジープの左手前に迫る。
だがそれを察知していたかのように、ジープを操る女軍人がハンドルを切った。
急カーブで進路を変更したジープが右へ進む。
その際、茶髪の女軍人が構える小銃を乗組員は目撃していた。
一瞬の手ブレ補正の後、素早い指の動きで二発の銃弾を発射した。
一発目が操縦手視察口を貫通し、迫る二発目。
それが吸い込まれるように戦車長の視察口を破壊した。
車内に侵入してもなお勢いを止めない銃弾が戦車長の眉間を撃ち抜く。
小銃用徹甲弾。
それは過去の決壊戦における遺産の技術。
主に走行車両の乗組員を射殺するための弾頭であり、対物ライフル級の威力を小銃で再現するために作られたものであった。
足止めのために戦車を一時的に沈黙させ、ジープはその横を通り過ぎていった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「リル! 敵戦車群の群れはいつ潜り抜けられるの!?」
「――不明です! それと姫様、あまりお体を車両の外に出さないでください、ぶっ飛びますよ!!」
「私は大丈夫! それにこうでもしないと上手く敵戦車を無力化できないの!!」
進路上にいる敵戦車だけを無力化し、彼女たちは敵の中を掻い潜る。
弾薬の消費を抑えるため、できるだけ発砲は抑えているが、既に弾薬クリップを二つも使用している。
「もっと飛ばしてリル!」
了解です姫様!! 乗員の安全を無視した速度で戦場を翔ける。
同乗のアントワネットに視線を向ける。
普段の頼りの無い様子とは裏腹に奮戦する。
すれ違いざまにスコップで戦車の履帯を破壊し、砲身の内部へ手榴弾を正確に投げ込むなど、機械化兵士ならではの常識外れの働きをする。
自分にはできないだろうと直感した。
リルは運転をし、いつでも自分を守ってくれる。
アントワネットは次々と戦車を無力化し、掃討数ではあっという間にアレクシアを抜いた。
強く胸元を握りしめる。
いや、私にもできることはあるはずだ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
最前線の後方、元々ラインハルト帝国とポリテーヌ共和国との境を接する地区。
フリードリヒ・ヴァルトハイムは最前線へ向けて飛行していた。
スツーカの爆弾庫に身を潜める精鋭たちは降下の瞬間を待っていた。
一機につき数人が爆弾庫に押し込まれ、各々が武装確認をする。
ラインハルト帝国軍では機械化兵士はこのように航空機からの投下が多い。
敵が十分な対空体勢をとっていなければ尚更だ。
移動に労力を使う敵対空砲は未だ前線に到着していない。
降下するなら今が好機だ。
『――隊長。まもなく降下予定地点に到達します』
『分かった。総員安全装置解除』
体を固定する器具を取り外す。
『いいか。今回は低空降下だ。降下装備も何もない。着地の衝撃でミンチになることを避けろ』
『――了解。にしてもうちの軍は機械化兵士は貴重なのに、どうして扱いはこうもぞんざいなのですかね?』
『子供を崖から落とすを無理やり都合よく解釈した結果だ、グロボクニク少佐』
降下前にもかかわらず部隊の緊張は無い。
選抜試験で散々経験したパラシュート無しでの低空降下。
練習でできれば本番でもできる。簡単な法則だ。
『総員降下だ。外に出た瞬間敵集団のど真ん中だ。着地後すぐに散開』
ハッチ解放。
部隊員の体が重力に従って投げ出された。
小銃に初弾を装填し、真下にいる敵を捉える。
敵多数。
まずは目に付く戦車部隊を狙って徹甲弾を発射した。
生身で装甲部隊と交戦することの多い機械化兵士。
生産性の悪い小銃用の徹甲弾は精鋭たる機械化兵士にのみ支給される弾薬だ。
二発の徹甲弾を真上から食らった敵戦車が火を噴いた。
弾薬に引火し大爆発を起こす。
「総員着地!!」
派手な音を立てて全員が地面に接地した。
クレーターができるほどの衝撃に顔色一つ変えない部隊員はすぐさま散開。
敵戦車の機銃掃射を掻い潜るように接近。
フリードリヒは薙刀のように小銃を振り下ろす。
激突――鍛え上げられた銃剣が操縦席の装甲を叩き斬った。
操縦席を破壊。
空いた穴に手榴弾を投げ込む。操縦手の短い悲鳴。
爆発前に傍の戦車に飛び移り、至近距離で真上から小銃をぶっ放した。
背後から爆発音――
パンツァーファウストを両手に携えるクリスティアーネが敵戦車を撃破していく。
「そろそろね。第3部隊の支援砲撃!!」
直後、上空より無数の砲弾が飛来した。
落下と同時に爆発し、歩兵と戦車を刈り取っていく。
更にスツーカの降下爆撃に伴って友軍の士気が上昇する。
「総員傾注!! お手伝いはここまでだ! 前進して敵特務隊の撃破に移るぞ!!」
マイクに叫んだフリードリヒは前方を注視。
敵特務隊との接敵に備え、不必要な戦闘は避ければならない。
ここからが機械化兵士の力の見せ所である。
「進撃!!」
フリードリヒ・フッケバインが敵集団の間隙を掻い潜って前方へ。
この先現ラインハルト帝国領市街地――特務隊を狩るには絶好のキリングフィールドだ。




