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第三十章 バトル・オブ・ライヒ演習作戦④

「観測班より報告。敵ラインハルト帝国軍布陣が活発化。前方12時方向より戦車群およそ2個連隊規模です」


 テトペッテンソン要塞陣地内では混乱が続いていた。


 ラインハルト帝国軍の異常な戦力投入に固唾を呑んだ参謀たちが肩を震わせ、視線を泳がすように眼球が目まぐるしく動く。


 このテトペッテンソン要塞陣地を前方とした3つの陣地は対ラインハルト帝国軍の要である。それを陥落させんがばかりの戦力投入は、かの帝国が大規模攻勢に転じたことを意味していた。


 今や世界の信用を失い、列強の義勇兵派兵も満足に望めない現在、ポリテーヌ共和国はラインハルト帝国を退けるため、何としてもここで食い止めなければならない状況に置かれていた。


 悪魔のラインハルト帝国さえ壊滅させれば、各国の信用も担保され、戦後の国連議会でのポリテーヌ共和国の発言権も保証される。


 戦後の立場を考え、ここで敗走するわけにはいかない。


「――追加情報です。大扶桑帝国が宣戦布告。敵部隊ごと我々を包囲するために展開しました……」


「かの国がか!?」


 大扶桑帝国は帝国枢軸同盟として事実ポリテーヌ共和国に対して敵国であったが、この大戦自体には参加せず、リバティー合衆国同様傍観者を決め込むものばかりと想像していた。


「――あの帝国の女総帥。我々を潰さんがために同盟国を引っ張り出してきたんだ!!」


 怒りと当惑を拳を介して机に叩きつける。その他の人間も同じような顔色で戦域マップを睨みつけていた。


 地理的要因としてはこちらに理がある。だがそれを連中は数と戦略で抑え込もうとしている。


 物量と言うものは非常に厄介だ。あの数に対処し得る兵器の備蓄がこちらにあると言っても、まだ予備兵力を潤沢に残している可能性もある。


 そしてラインハルト帝国軍の堅固な戦車相手では、こちらの要塞設置の対戦車砲で対処するには100メートル圏内でないと十分な効果は望めない。


 だが近距離まで接近されてしまうと、対戦車砲の再装填の時間で大多数の撃ち漏らしが予想される。


 そうなってしまえば袋小路。大人しく要塞を空け渡して後方に退避するしか道はない。


 そもそも全ての兵力を前方の敵戦車に向けたとしたら、正面を避け、左右から別動隊が接近してくる可能性が高い。


 故に敵戦車の半包囲を決め、今に至る。この賭けも全ては後方の要塞陣地からの増援を期待してのことだった。


 このテトペッテンソンを失ったとしても、まだ2つの要塞陣地が残っている。戦線を2つも抱えたラインハルト帝国が宿敵のポリテーヌ共和国に対する徹底攻勢に出たとしても、東部戦線から割ける兵力などたかが知れている。


 絶望的な状況の中にも光はある、彼らはそう信じていた。





 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇





 一秒一秒と時計の指針が時を刻む。


 それに比例してラインハルト帝国軍第1部隊は、敵ポリテーヌ共和国軍の半包囲陣内へ内進を続行していた。


 第1部隊から見て約9時方向から3時方向へ部隊を展開するポリテーヌ共和国軍は、何とかラインハルト帝国軍戦車部隊の側面を叩くために全力布陣を続けている。


 そこを狙って第2部隊が第3部隊の後方支援を頼りに突撃を敢行していた。


「――いたぞ、予言通りだ。こちらに目もくれず明後日の方角にすっ飛んでいく鴨が多数」


 敵を確認。部隊のメンバーを率いたフリードリヒが双眼鏡の向こうに的集団を捉えていた。


「連中の陣形の一か所を一転突破、内部へ進行し、目に付く機械化歩兵含むの敵の全てを蹂躙する遊撃業務だ」


 落ち着き切ったフリードリヒの精神は主の賜物。


 人知を超えた力を与えられたフリードリヒに匹敵する兵士はいない。彼と同じ境遇の人間を除いては――


 後は攻撃命令を待つのみ――上からの命令を待っている時、こちらへ走っってくる人影が一つ。


 駆け足でフリードリヒらの近くに寄るのは陸軍少尉。つま先まで揃えた敬礼でフリードリヒらに敬意を示す。


「全力出撃か?」


「はい。観測班より伝達――敵集団後方より莫大なエネルギー反応。これは一般的なポリテーヌ機械化歩兵の域を凌駕しています」


「特務仕様か――数は?」


「数は3、約小隊分です。ですが特筆すべきは前方の1体のみであります」


 観測隊員の運用するレーダーは、機械化人間(アンドロイド)の発する微弱な電磁波に特殊な電波をぶつけることで、可視不能の位置に存在する者も観測することができる。


 通常兵器とは違い、小さな対象物相手では通常のレーダーでは捉えきれないため、ラインハルト帝国軍は巨額の開発費を投じてこのレーダーを開発した。


 だがこれは蟻のように従軍するポリテーヌ共和国の機械化兵士の中から、特に電磁波放出率の高い特務仕様の機械化兵士を割り出すのが主目的である。


 現代の機械化人間(アンドロイド)は万能ではない。軍用に改良されたそれは、高い運動性を発揮すればするほど電磁波を放出するということが研究で分かっている。


 それを利用すればこのように脅威となる特殊部隊の位置を確認し、有効的に対処法ができるというわけだ。


 そしてその機械化兵士特務部隊を狩るのが『フリードリヒ・フッケバイン』。だが今回は的を絞らない遊撃部隊だ。


「――そうか。ご苦労」


 陸軍少尉に返礼をし、部隊各位に向き合う。


「諸君。我々に破壊命令が出たぞ。本日は雑魚も含めた敵機械化兵士狩りだ」


 銃火器が唸る。それぞれが持ち前の小銃に初弾を装填した響きであった。


「だがメインディッシュはあくまで特務隊だ。残りのカスは食後のデザートだということを忘れるな」


「隊長。私はデザートを食事中に食べる人間に部類されます。メインディッシュと同時に平らげてもよろしいのでしょうか?」


 ウキウキとしたクリスティアーネが手を挙げて発言する。発言の許可を与えた覚えは無いが、フリードリヒに叱責の予兆はない。


「大人しくマナーに従っておけ。コース料理ではメインディッシュとデザートが同時に運ばれることはないだろう」


 口を膨らませたクリスティアーネを無視する。


「――何か言いたげだなリンク少佐。許可するぞ」


 背筋を伸ばして口を開くのはオリバー・リンク少佐。


「ハッ! 突撃形態は普段通りでよろしいのでしょうか?」


「ああ普段通りだ。普段通りじゃないのは暴威を振るう抵抗と祝賀会がいつもの数倍豪華なだけだ」


 冗談地味た軽い口調に部隊内に笑みが零れる。


 過去最大規模の作戦で過去最強クラスの特務隊が相手にもかかわらず、彼らは落ち着き切っていた。


「――さて出発だ。遠足は帰るまでが遠足だということを覚えておけ」

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