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第十四章 キルハウス②


「こちらイェーガー01、目標は現在逃亡中。これより追撃を敢行するわ」


 通信が途切れる。


「さぁってと」


 そう言って周囲を見渡すのはラインハルト帝国軍突撃機械化軍特務隊「フリードリヒ・フッケバイン」において副隊長に任じられた雪髪少女、クリスティアーネ・シュヴァインシュタイガ―少佐。


 つい数十秒前までの銃撃戦の痕跡が講義室一面に残されていた。


 床に転がる学友だったものに囲まれ、運よくクリスティアーネの牙に穿たれることなく生者であり続けることができた学生たちは恐怖に震え、全員がその場に(うずくま)っている。


「シュヴァインシュタイガ―。目標はどうした?」


 ここで入室すると同時に状況報告を促す声が一つ。


「逃亡。これから隊長と一緒に鬼ごっこするわ」


「……逃がしたのか。まあいい私は仕掛けるものを仕掛けてくる、貴様は――」


「貴様だと? グロボクニク少佐。階級が同じであろうと副隊長と平隊員の扱いを混同するな。次に私に上から目線で命令でも下すものならその場で殺すぞ」


 一瞬にしてすり替わるクリスティアーネの人格。


 殺意のこもった脅しをまともに食らってその巨躯を委縮させたのは、クリスティアーネと同じ第一突撃隊のヴァルター・グロボクニク少佐である。


「グロボクニク少佐、他の連中と教導して学生たちを総合体育館に収容して。この作戦の本質は人質を取ってラインハルト帝国の意向をポリテーヌ共和国全土に宣伝すること。実際アレクシアの殺害は二の次よ」


 これは降下直前にフリードリヒから知らされた事実、今回の作戦の真の主目的はラジオ放送局を占拠し、放送をすること。計画される『ジーク・ライヒ作戦』の足場となるのが今回の潜入任務である。ラインハルト帝国領内のポリテーヌ共和国スパイへの情報漏洩を防ぐための単純な欺瞞工作だそうだ。


 窓の縁に足をかけ、ふわっと飛び降りるクリスティアーネ。


(弾を食らって出血したのは近衛兵(ロイヤルガード)のリル・エタンダール。あの銃創なら走る速度も遅いわね)


 地面に降り立って遮蔽物に身を隠す。


 中庭を突っ切る壁の無い渡り廊下が真っすぐ五〇メートル伸びている。基本的に校舎と校舎は渡り廊下や空中回廊によって複雑に絡み合っている。遮蔽物はいくらでもある、だがそれは相手にとっても同義であり、物陰から姿を現して攻撃を敢行する――ゲリラ戦術が大いに可能なこの場所で、クリスティアーネはそれらを掻い潜ってアレクシアを追いかけなくてはいけない。


 抵抗する敵はリル一人とは限らない。潜入の際、何人もの憲兵は既に殺傷済みだ。しかしリルのように学生のふりをしながらアレクシアを守る近衛兵(ロイヤルガード)がどこに何人潜んでいるのかは定かではない。


 周囲を警戒しながら前進するクリスティアーネ。この任務を『フリードリヒ・フッケバイン』単独で行わせるエレナの頭のおかしさに嘆息しながら短機関銃(mp40)を構える。


 何の情報も無い、こんな重苦しい仕事など願い下げだが、『フリードリヒ・フッケバイン』としての初任務。笑顔で成功させたいという想いをクリスティアーネは抱いている。


(隊長の方は既に奴らを追撃し始めているはず……私も急がないと)


 今彼女の目の前に横たわる五〇メートルほどの長さの廊下。それもコンクリートで舗装され、上には天井と屋根があるだけの簡易的なものだ。周囲には中庭の風景が広がっている。


 このまま廊下を走り抜けた場合、狙撃兵なる者に捕捉される恐れがある。


 そこで事前に用意していたものを取り寄せるためにクリスティアーネはポケットから一つの無線端末を取り出す。


 片手で操作するそれの中央のボタンを強く押し込んだ。


 ボタン操作で電波が送信。空中の無人航空機へと転送。自動操縦でストラスマルセイユ大学上空四〇〇〇メートルを飛行していた無人航空機の底部ハッチが展開。


 筒状の物体を固定していたロックが解除され宙に投げ出される。後部に火が灯ったミサイルが大学中庭へ向けて発射される。


 重力によるエネルギーと推進剤を消費しての推進力が相重なり、凄まじい速度で地上へ降下。


 そして後部ユニットがパージされ、そこからパラシュートが展開、傘下降下へ移行する。緩やかな速度でクリスティアーネの半径二メートル以内に降下したミサイルが力無く地面に突き刺さる――そして。


 花が咲くようにミサイルが三つに割れる。その中から出てきたのは一枚の中型防弾シールド。


 クリスティアーネは左腕の機械化された人工腕に供給した防弾シールドを服の上から取り付ける。妙な厚みのあるその盾は、表面を迷彩色に塗色され、戦車の装甲をそのまま携行できるように切り詰めたようなデザインをしている。


 できるだけ体を盾で隠したクリスティアーネが意を決して正面渡り廊下を駆け抜ける。


(よし! 狙撃手皆無)


 その時、正面より銃撃。


 咄嗟に真正面に構えた盾を据え付けた左腕、両足に力を籠める。


 爽快な銃火と硝煙を持続的に排出する拳銃(コルトガバメント)の銃撃が豪快な音を鳴り響かせ、クリスティアーネのシールドへと襲い掛かる。


 飛び散る火花、重い衝撃。プスプスと熱を宿した銃弾が次々と彼女の足元に落ちていく。


「私がここで足止めします!! 姫様は今先へ急いで下さい!!」


「分かった! でもいい? リルも必ず追いついてね」


「承知しています。また列車でお会いしましょう!」


 走り去るアレクシアを背後にリルは残り少ない弾倉(マガジン)拳銃(コルトガバメント)に叩き込む。リルは重く厚い耐火扉を閉め、僅かに開いた隙間からクリスティアーネを照準器に捉えている。少なくとも単純な火器攻撃では突破できないこの扉。


 銃撃を受けながらも徐々に前進を開始するクリスティアーネ。彼女の口元がニッタリと笑うように引き裂かれていく。


「ようやく姿を現したわね? あなたの残り少ない命には申しないけど、既に一方的な第二ラウンド(殺し)は終焉に近づいているのよ」


 盾への弾着の重い衝撃を一発一発受け止めたクリスティアーネ。右手に保持する短機関銃(mp40)の銃口を銃撃の源へ。


 片手で連射(フルオート)の反動を抑えつつ射撃する。高熱を宿した弾頭が、およそ秒速三〇〇メートルほどの速度で直進する。自動的に排出される薬莢が足元に散乱していく。


「おいおいおいおい!! いっつまでそんなやる気のない銃声を創り上げてんだ? 私を殺すならもっと殺意を込めて撃ってきなさいよこのドサンピン!!」


 数発撃つごとに指を話して射撃を休止するクリスティアーネの挑発に、内心ではムカつきながらも冷静に狙いを定めるリル。


クリスティアーネは一挙手一投足で握りしめたリモコンを操作する。


 今なお銃撃を受け止めている盾のから、僅かに出した無線端末に装備された小型カメラを銃声の方向に向ける。


 カメラを通して映し出した座標を上空を旋回する無人航空機に転送、順次攻撃指示を発令すべく再設定、空対地ミサイルの射出準備が整い勢いよくボタンを押し込んだ。


 無人航空機底部ハッチ解放。そこから飛び出す一本のミサイル。


 空中の気流を乱しながら地上へと降下するミサイル。


 クリスティアーネは爆発の衝撃に備えるべく後方へ後退。


 目の前の盾女が後退していく光景を目に焼き付けたリルが不可解な感覚に陥る。


(前進なら可能だろう? なぜ下がる?)


 奥に潜む嫌な予感を振り払いながら残り少ない弾薬で権勢射撃を続行する。


 そしてクリスティアーネ、リルの双方の動きがぴたりと止まる。


(何か…音が……)


 ふと空中を見上げるリル。


(ミサイル攻撃!?)


 そこで彼女が捉えたのは一発のミサイル。噴煙を上げながらこちらに接近してくる牙突を前に呆気に取られる。


 だがすぐに正気に戻り、凄まじい反応速度で後方へと飛び込んだ。


 跳躍で地面に倒れ込むと同時にミサイルが耐火扉へ弾着。扉諸共彼女の体を人形のように吹き飛ばした。


 瓦礫にまみれ、埃だらけになりながら宙を舞う。


 アレクシアが走っていった方向へと飛ばされ、脱力しきった体が地面に叩きつけられる。


 キーンとした異音が脳内に響き渡り、それが極端に彼女の全身を麻痺させた。虚ろな瞳で見つめる床が陽炎のように歪み、取り戻したはずの正気が再び闇に葬られたのであった。


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