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第二十六話

 それからはクラスごとに集まって保護者も一緒に記念写真を取るというので、先生たちの誘導に従って移動する。

 新入生の子たちはやはり黒髪、あるいは黒髪に近い茶髪がほとんどで、サニアや絵璃座ちゃんのようなこれ見よがしな金髪はいない。

 肌の色も茶色く見えるくらい焼いている絵璃座ちゃんと、元々肌の色が小麦色であるサニアに対して、他の子たちは皆同じ肌色なので、二人はかなり目立つ。

 まあ、遠目に見てもすぐに分かるので、そういう意味ではそう悪いことばかりでもないかもしれない。


「では、新入生の子たちは集まって、前の子たちは椅子に座って、後ろの子たちは立って、保護者の方々はその後ろに並んで下さい」


 この日のために学校側はプロのカメラマンを呼んでいたようで、慣れた様子でカメラマンが写真の構図を決めていき、写真に収めた。

 撮影が終わると、オレを見上げてサニアは可愛らしく首を傾げた。


「ねえ、リュージ、シャシンって何?」


 分かってなかったのかよ。

 カメラマンが別のクラスの記念写真を取っているのを手で指し、説明する。


「あんな風に、風景を切り取って精巧な絵にする機械だよ」


 毎度のことながら、文明機器に疎いサニアでも分かるように説明するのはちょっと難しい。

 何から何まで、ただの使用者でしかないオレたちが知っているわけでもないからな。

 使い方は知っていても、原理までは分からない。そんなものは、意外に多いんじゃないかと思う。


「へー、凄いね! うちにもあるかなぁ?」


「ああ、オレの部屋から持ち込んだのがあるぞ」


「じゃあ、帰ったら皆でシャシン取ろうよ!」


「いいですね。エルナミラホームでも皆で一枚記念に撮って、額縁にでも飾りましょう」


 サニアの思いつきに、翔子も乗っかってきた。

 そうだなぁ。記念写真を撮るのは確かにいい考えかもな。

 行事ごとに撮ってアルバムを作るのとかいいかもしれない。

 何しろ日本の行事は和洋折衷何でもござれなカオスっぷりである。

 外国の宗教にまつわるものでも遠慮なしに取り込んでるから、よくいえば多種多様、悪くいえば雑多なラインナップになっている。

 まあさすがに、一番多いのはやはり日本古来の行事だが。

 でも、同じような行事は結構世界でも行われていたりするから、日本独自っていう行事は案外少ないかもしれない。


「写真を撮り終わりましたら、掲示されているクラス割りに従って、保護者の方と一緒にクラスに向かって下さい」


 先生方が、撮影を終えた家族連れに向けて次の案内を始めていた。

 対象にはもちろんオレたちも含まれている。


「クラス割り見にいくか」


「なあに、それ?」


 当然、異世界人であるサニアはクラスという概念がない。職業としてのクラスならどうか知らんが。


「学校では、いくつかの部屋に分かれて勉強をするんだ。その部屋のことを教室、教室や教室の生徒たちを含めた全体のことをクラスって呼ぶんだよ。ちなみにその場合生徒たちのことはクラスメートって表現する」


 かなりざっくばらんであるが、サニアに説明してやると、サニアは好奇心で目を輝かせた。


「分かった! じゃあ、その部屋割りが発表されてるんだね!」


「良かったら一緒に行きませんか? ウチのコもサニアちゃんのこと気に入ったみたいですし」


 ニコニコ笑顔を浮かべて、育美さんがオレと翔子に提案してくる。


「俺からもお願いします。サニアちゃんには絵璃座の友達になってもらえたら嬉しいっす」


 敬語が崩れかかっている二人であるが、別に気にするようなほどではないし、よくも悪くも今時な家族であるだけで、根は悪い人たちではなさそうだ。


「サニアはどうする?」


「私は構わないよ! 絵璃座ちゃん、一緒に見に行こ!」


「う、うん! 行く!」


 どうやらサニアと絵璃座の関係は、サニアが絵璃座を引っ張っていく形で落ち着いたらしい。

 こういう言い方をすると誤解を招くかもしれないが、サニアは外国人らしく、自分の意見をはっきり主張してぐいぐいいくタイプだもんな。

 ポニーテールなサニアの金髪と、気合の入った盛り髪の絵璃座ちゃんのコンビは、遠くからでも一目で分かるくらい目立ちまくっていた。

 髪の色が他と明らかに違うってだけで目に付くから仕方ない。


「えっと、私の名前、どこかなぁ……」


 まだ日本語については数字と自分の名前が辛うじて読めるだけでしかないサニアは、目を皿のようにして探しているが、中々見つからないようで、先に絵璃座ちゃんの方が発見した。


「あ、私の名前あった! サニアちゃんの名前も私の前にある!」


「えっ!? どこどこ!?」


「ここ!」


 絵璃座ちゃんが指した場所には、確かに『工藤サニア』という名前があった。

 元々孤児で親が誰かも分からないサニアには苗字がなかったが、今はオレと養子縁組してるから苗字がある。

 すぐ下にある『近野絵璃座』という名前を見ると、どっちの名前もキラキラネーム度合いではそう変わらないような気がする。

 日本の苗字とサニアっていう名前は違和感があるかな、やっぱ。サニア自身は凄く喜んでくれたんだが。

 意気投合している子どもたちに促される形でオレと翔子、靖弘さんと育美さんは教室に向かった。



■ □ ■



 発表されていたクラス割りに従って、サニアと翔子と一緒に教室に移動する。靖弘さん、育美さん、絵璃座ちゃんの近野家族も一緒だ。

 苗字の関係で、サニアと絵璃座ちゃんはすぐ近くの席になった。

 入学式の時点で意気投合していたので、これはすぐに友達になりそうだな。

 小学校の教室は、机と椅子も含めて、オレが小学生だった時の記憶に比べて、随分と小さかった。


「私たちも子どもの頃は、こんなにちっちゃな椅子に座ってたんですね……」


 翔子もオレと同じ感慨を抱いたのか、感嘆の声を上げている。

 サニアと絵璃座はまるで一番を争うかのようにきゃあきゃあと着席すると、雑談に花を咲かせた。


「サニアちゃんってどこに済んでるの?」


「駅からちょっと離れたエルナミラホームってところだよ! 凄く大きいんだ! まるで豪邸みたいで!」


「豪邸! 凄い! 行ってみたい!」


「今度遊びに来なよ!」


 止めろ、ハードルを上げるな。

 確かに大きいし良い建物だと思うけど、新築じゃないからな。


「ね、いいよね?」


 振り返り、サニアがオレと翔子に目で訴えかけてくる。


「どうします?」


 困った表情で翔子がオレに問い掛けた。


「おう、いいぞ。ただし日時を決めたら早めに教えてくれよ。ちゃんと準備してもてなしたいだろ?」


「うん、分かった!」


 こういっておけば、サニアのことだからちゃんと準備期間を数日設けて計画を立てるだろう。

 個人のプライバシーなどの観点から児童養護施設は閉鎖的になりやすいと聞くが、オレはせめてサニアが友達くらいは自由に連れてこれるくらい開放的にしてやりたいと思っている。

 やがて担任が来て、出欠を取り始めた。

 サニアと絵璃座ちゃんにとっては、初めての出欠確認だ。あいうえおで割り振られた出席番号順に、次々名前が呼ばれる。


「工藤サニアさん」


「はい!」


「近野絵璃座さん」


「はっ、はーい」


 緊張よりも楽しみや喜びといった感情が上回っているのが分かる声のサニアに対し、絵璃座ちゃんはこんなの余裕ですよみたいな態度を取ろうとして失敗し、声が上ずっている。微笑ましい。

 そんな絵璃座ちゃんを、靖弘さんと育美さんがニコニコしながら見守っていた。

 いかにもな今時のギャル風ファッションな郁美さんに、土方の仕事中にちょっと抜け出してきましたみたいな格好の靖弘さんは、服装という意味では完全に浮いているが、やはり悪い人間ではない。

 ちなみにオレと翔子はいつもと同じスーツ姿である。

 オレはどう見えているか分からないが、翔子はいかにもなできるキャリアウーマン的な雰囲気で、物凄くキラキラしている。

 いつも白衣姿でいることの方が多いが、スーツが似合うんだよな、翔子は。

 出欠を取り終わると、担任は黒板に自分の名前を書き、自己紹介を始めた。


「それでは、生徒の皆さんにも軽くで構いませんので自己紹介してもらいましょうか」


 結構若そうに見える女性の担任の発言に、子どもたちはざわめいた。

 困った顔で、側にいる両親らしき保護者の顔を見上げている子もいる。


「自己紹介って、何いえばいいの?」


 サニアも首を傾げながら、オレと翔子に問い掛けてくる。


「そうだな。名前を名乗ってよろしくお願いしますって挨拶すればいいんじゃないか?」


「趣味とか、特技とか、後は好きなこととか、食べ物とかをいえばいいですよ」


 二人でサニアにアドバイスすると、サニアは神妙な顔で頷いて、うんうん内容を考え始めた。

 絵璃座ちゃんも靖弘さんと育美さんに相談しているようだ。

 自己紹介は着々と進み、やがてサニアの番が来た。

 サニアが立ち上がり、クラス中を見回す。

 それからしっかりとした声で喋り始めた。


「工藤サニアです。髪の色と肌の色から分かるかもしれませんが、日本人ではありません。日本語は話せますが、文字は簡単な数字と自分の名前くらいしか読めませんし書けません。好きなことは身体を動かすこと、勉強はちょっと苦手です。たくさん友達を作りたいと思っています。これからよろしくお願いします」


 思っていたよりもはるかにしっかりとした自己紹介がサニアの口から出てきて、オレと翔子は揃って目を丸くしてしまった。

 ただ、露骨に顔に出すことだけは、オレも翔子も堪えた。

 オレたちがヘマをしてサニアに恥をかかせたくないからな。

 自己紹介を終えて座ったサニアが、振り向いてオレと翔子と目を合わせて、少しはにかんで笑った。


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