●女の友情
●女の友情
みどりさんの前で着替え始めたオレだったが、そのパンツとシャツは少し前まで使っていた男物だった。
「ミキ。 そ、それって」
みどりさんの視線を追って自分の下半身を見ると白のブリーフが目に飛び込んでくる。
「うん? おわっ!」
「・・・」
みどりさんは固まったまま、オレのパンツを凝視している。
み、みどりさんは、オレの事、変態だって思ったかな?
オレは頭の中が真っ白になって、言い訳の言葉も思いつかずに、そのままの格好で立ち尽くしていた。
「ミキさん・・・」
やっぱ正直に言おう。
「ごめん。 オレ・・・」
「ねぇ、ここって、やっぱりお兄さんのお部屋だったの?」
「へっ?」
「だって、ベッドの下にあったHな男性雑誌やそこのアルバムってお兄さんのでしょ?」
「雑誌? アルバム?」
ぎょっ
この女ーーー! いつの間にーーー
みどりさんが、ゆびを指したそこには、さっきベットの下にオレが隠した物が並んでいた・・・
「ミキさん。 自分のお部屋が無いなら無いって言ってくれればよかったのに。 ミキさんのお部屋なら、わたしのうちに5部屋ほど用意するから遠慮しないで」
「あぅぅ」 パクパク
オレは何か言おうとしたが、言葉にならなかった。
でも良かった。 この娘の感は、肝心なところは鈍かったんだ。
「それにしてもお兄さんって、ミキに良く似てるわね。 流石に兄弟だわ~」
オレのアルバムと本人を見比べながらそんなことを言ってるし。
そりゃ~本人だもん。 似てるわけだよ!
「そ、そかな」
「うん。 お兄さんも今度紹介してよね」
「そ、そのうちね」
それにしても転校の挨拶でオレが1人っ子って自己紹介したのを覚えていなかったのは意外だった。
「ねぇ、でもそのパンツは早く履き替えたほうがいいと思うんだけど」
「あっ、うん。 そうだね。 じゃあ着替えてくるね」
オレは急いで1階の母さん達の部屋へ駆け下りた。
「母さん、オレじゃなかった。 わたしの下着は?」
「あらそうだったわ。 まだ下着とか全部入れ替えてなかったわね。 そこの洋服ダンスの中にデパートの袋が入ってるから探してみて」
「あぅ~。 一度洗濯してからじゃないとゴワゴワして嫌なんだよな~」
「そうね。 ゴメンゴメン。 残りは明日洗っておくわ」
「ところで母さん、夕飯は何時頃?」
「もうすぐよ。 出来ればお父さんが帰ってくれば一緒にって思ってるんだけど」
「そう。 ところで今日の夕飯は何?」
「あなたの好きなビーフシチューを作ったんだけど。 みどりさんのお口にあうかしら?」
「どうかな? なにしろあっちは朝から豪勢なもん食べてたからなぁ・・・」
「まぁ、大変! それじゃ、”お寿司”とか”うな重”とか取った方がいいかしら?」
そんな話しをしていると
「ただいま~」
ちょうどタイミング良く父さんが帰ってきた。
「おかえりなさい」
「おや? だれかお客さんかい?」
玄関に並んだ見慣れないクツをみながら父さんが聞いてくる。
「あぁ、オレの友達。 今日泊まりに押しかけて来たんだ」
「ほぉ、友達もうできたのか」
「それがね、理事長さんのお嬢さんなんですって」
オレより先に、母さんが答えてしまう。
「理事長? それじゃ神崎さんの・・」
父さんは、少し驚いたような顔をしている。
「あら。 アタナご存知なの?」
「ああ。 神崎さんなら、わたしの2年先輩だよ」
「まぁ、同じ大学の」
「うん。 実はミキの事、彼にも頼んだんだ」
「そうだったの」
「でもみどりさんは、父さん達の関係は、知らないみたいだったけど」
お互いの父親どうしが知り合いだったなんて、オレも初めて聞いたんだけど。
「そうか? それより智子。 腹が減ってるんだけど夕飯は?」
やっぱり、研究者は子供のことなんか、あまり興味はないようだ。
「いまちょうどその話しをしてたんだけど・・・」
「なんだい?」
「えぇ、神崎さんのお宅でミキがご馳走になったから、お寿司でも取ろうかしらって」
「でもいい匂いがしてるじゃないか」
「一応ね。 シチューを作ったのよ」
「なんだ、母さんのシチューは世界一じゃないか。 お寿司なんか取らなくても大丈夫さ」
「あら、アナタってば。 煽てたって何にも出ませんよ」
イイ歳をして、いまだに熱々のカップルだ!
「コホン。 じゃオレ、みどりさん呼んでくるよ」
そんなワケで、一家団欒プラスお邪魔虫のみどりさんとの夕食が始まった。
「おじ様ってカッコ良くて素敵だわ。 おば様のお料理も最高においしいし。 ミキさんが羨ましいわ~」
「実はね。 うちの父は、みどりさんのお父さんの後輩なんだよ」
「ええ。 おじ様の事は父から伺っています」
「じゃあ、ミキのことも?」
「いいえ。 ミキさんについては、何も聞いていませんけど何か?」
「実はオレ・・・」
「ちょっと、美樹」
母さんがちょっと慌ててオレを制す。
・・・・・
「いや、いいんだ母さん。 いつまでもみどりを騙しているのは嫌なんだ」
「・・そうね・・ 美樹がそう思うのなら・・・」
「実はね。 みどりさん」
「なぁに?」
「オレ、一ヶ月前までオトコだったんだ」
「えっ? なっ、なんですって!」
「信じられないかもしれないけど、父さんと母さんが作った変な薬を飲んだら女になっちゃたんだ」
「まぁ、変な薬なんかじゃないのよ! 人類の将来を変えることが出来る画期的な薬なの」
母さんが、憤慨したような顔をして割り込んでくる。
「そんな。 オレにとってはとんでもない薬さ!」
「まぁ、まぁ・・・冷蔵庫に薬を保存していた父さんが一番悪かっんだ」
・・・
・・
・
「あの~。 わたし状況が良くわからないんですけど・・・」
そんなワケで、この後たっぷりと時間をかけ、皆でみどりさんに詳しい説明をしたんだ。
父さんなんかは、学会で発表するための資料を見せて、かえって話しを難しくしていたけどね。
みどりさんも最初は信じられない様子だったけど、いままでの事やアルバムなんかを見せながら説明していくうちに、やっと状況が理解できたようだ。
「そうだったの。 ミキも大変だったのね。 状況は良くわかりましたわ。 ここは、わたしにド~ンと任せてください。 女同士の友情ですわ!」
女同士? 友情? オイオイ、いったい何を任せろって言うんだ?
次回、「やっぱり特訓」へ続く