●変な女の子
●変な女の子
さてさて、転校生の初日は、自己紹介から始まる。
当然、クラス中の視線がオレに集中し、心臓がドキドキする。
「え~みなさん静かに。 今日から新しくこのクラスの仲間になる山口美樹さんを紹介します。 それじゃ山口さん自己紹介して」
担任の先生にいきなり自己紹介を振られ、少々焦る!
「は、はいっ。 父の仕事の関係でこちらに転校してきた山口です。 きょ、今日からよろしくお願いします」
たったこれだけの事だけど、言い終わった途端に体中からイヤな汗がどっと噴き出した。
う゛~ オレ、めちゃめちゃ緊張してるよ~。
「山口さ~ん、質問いいですか?」
一番前に座っていた男子が、興味深そうに手をあげて質問をしてきた。
オイオイやめてくれよ~!
心の中では、そう叫びながらも顔は平静を装う。
「な、何でしょうか?」
「前の学校では、クラブ活動は何をやってたんですか?」
普通な質問にちょっと油断した。
「あっハイ、自分はプロレス同好会でした。 って、アワワしまった」
本当は、合唱部って言うつもりで練習して来たのに、いきなり間違えちゃった。
「プロレスですか? それは残念ですね。 富士見ヶ丘中には、女子のレスリング部はありません」
担任の先生が、サラッと流してくれた。
「そっ、そうですか。 それはとても残念・・です」
何とかそう言いながらも、背中にはさらに滝のような汗が・・・
「兄弟は何人ですか?」
「ひ、一人っ子ですけど」
「は~い。 今度山口さん家に遊びにいってもいいかなぁ」
今度は右列後ろの、にきび面の男子が絡んでくる。
「あ~オレも、行く行く。 いいでしょ? 山口さん」
コイツラ面白がって・・・後で絶対に殺す!!
オレの炎のような殺気を感じてか、みんなからはそれ以上のつっこみは無かった。
「コホン。 さっ、それじゃ山口さんの席ですが、確か神崎さんの隣が空いていましたっけ? 今日からそこに座ってもらいましょうね」
オレは、どこが空いている席かを探すのに、教室の中をクルリと一周見回した。
「山口さん、こっち こっち」
そう手を挙げてオレを呼んでくれた女の子は、髪が長く目のぱっちりした、お嬢さんタイプの子だった。
その席に座ると直ぐにその子が声をかけてきた。
「山口さん、よろしく。 わたし、神崎みどりです」
「あっ、こちらこそよろしく」
うわ~かわいいなぁ。 みどりちゃんかぁ。
「ねぇ、時間割。 まだわからないでしょ?」
「えぇ」
「それじゃ、これを写しておいて」
「あ、ありがとう。・・・・・・」
みどりちゃんのノートにかかれた、今日の時間割を見て愕然とする。
「どうしたの?」
「えっ? 1時間目って・・・」
「そうなの、月曜日って1時間目から体育なの。 もう信じられないでしょ!」
体育って、体操服に着替えなくっちゃいけないじゃん。
「山口さん、着替え持ってる?」
「ええ、一応・・」
「そっか、じゃ着替えに行こうか」
「う、うん。 わたしその前にトイレにいってくる」
HRが終わったので、オレはいったん心を落ち着かせようとしたのだが・・
「あっ、じゃあ私も付き合うね」
「えっ?」
「どうしたの?」
「いえ、何でも・・」
そうか、女の子ってつるんでトイレに行くって母さん言ってたっけ。
「トイレは、あっちよ」
家から富士見ヶ丘中まではバスで15分ほどだが、初日で緊張が続いたせいか、さっきからトイレに行きたくってしかたなかったんだ。
そんなわけで、自然と早歩きになる。
学校ってだいたい階段の隣がトイレって造りだよな。
「あっ、あった。 トイレはココね?」
「ちょっ、ちょっと。 山口さん待って! そこは・・」
みどりさんが、はや走りで先に歩いていたオレを止めようとしたが・・・
余裕がなかったオレは、みどりさんの後ろからの注意も耳に入らなかった。 結果、勢い良くドアを開ける
バンッ
・・・
「うわ~っ」
ほんの少しの間が空き、直ぐに複数の太い声がトイレの中に響きわたる。
一瞬何が起こったかわからなかったが、次の瞬間トイレ中の男子達と目が合ってしまった。
「あぅぅ、ご、ごめんなさい。 ま、間違えましたぁ」
そう。 オレは、男子トイレの戸を思いっきり開けてしまってたんだ。
「山口さんってば。 男子トイレって書いてあるの見えなかったの?」
みどりさんが、あきれたような顔をして、オレを見ている。
「ごめん、つい」
「ついって?」
「あ、わたし ぼ~としてて。 ごめん」
あんまり自分が情けなくって涙が出てきた。
「やだ、泣かないで。 わたしがちゃんと案内すれば良かったのよ」
「ううん、もう大丈夫」
オレ達はトイレを済ませて、女子更衣室へと向かった。
「山口さん、今日はここの空いているロッカーを使えばいいよ」
「あ、ありがとう」
更衣室では、もう何人もの女の子達が着替えを始めていた。
うわっ、早く着替えてココから出ようっと。 まったく目のやり場に困る。
「あら、山口さん顔が赤いわ。 熱があるんじゃないの?」
「ううん。 大丈夫。 さっきトイレ間違えた恥ずかしさがよみがえっただけだから・・」
赤面しているほんとうの理由は絶対言えないよ。
「でもアレは、正直びっくりしたわね」
「ごめんね。 ドジで」
「アハッ、気にしない、気にしない」
みどりさんは、オレを気遣って明るく対応してくれる。
「ところで、今日の授業って何をやるの?」
オレが好きなサッカーって、女子でもやるのかなぁ・・そんな事を想っていると。
「今日はね、確かバレーボールのはずよ」
「えっ、よっしゃあ。 バレーかぁ!」
球技好きなオレは、思わずガッツポーズが出てしまう。
「??? 変な子ね」
みどりさんは、しらないうちに男の部分が出ているオレを不思議そうに見つめていた。
ピーーッ
体育館に笛の音が響きわたる
「ハーイ! 集合~!」
雌ゴリラのような体育の先生が大きな声でみんなを集合させる。
授業はクラスの女子を3チームに分け、隣のクラスとの対抗戦になった。
こうなると、球技大好き人間のオレ様の血が騒ぐ。 ふふふっ。
そ~れっ
女子にしてはキツメのサーブが飛んでくる。
「山口さん、いくわよ」
タイミングよくオレの前にみどりさんがトスをあげる。
「おぅ、まかしとけ。 そりゃーー スパイクッ」
バーン
得意のクロスが見事に決まる。
「きゃー 凄~い」
「ふん。 ど~だ。 ざっとこんなもんだ」
「ちょっと。 あれだ~れ」
「今日転校してきた子だって」
「ふ~ん。 まるで男ね。 かわいい顔してるのに」
「ねぇ、知ってる? あの子。 さっき男子トイレ覗いたんですって」
「え~やだ。 何それ。 痴女?」
周りで試合を観戦していた隣のクラスの女子達がオレのことを見て、ひそひそ話しをしている。
「どうでもいいけど、これじゃうちのクラスは負けね~」
「バレー部の三咲キャプテンが黙ってないんじゃない?」
「しっ、ほら。 噂をすれば・・」
「ちょっと。 あなたいいかしら?」
長身のスラッとした、小顔でちょっと冷たそうな女子がオレに声をかけて来た。
「えっ? わ、わたし?」
「そうよ。 あなた前の学校では、バレー部だったの?」
「いえ、わたしはプロレス同好会でしたけど」
「プロレス? ふ~ん、変わってるわね」
「そ、そうですか」
「ところで今日の放課後、暇だったらちょっと付き合っていただけないかしら」
「放課後ですか? すみません。 わたし、ちょっと用事があるんですけど」
「あら? どんな用事?」
「え~と」
「ミキは、私と買い物に行く約束があるんです」
オレの隣にピッタリと寄り添っていた、みどりさんがさりげなく助け船を出してくれる。
「か、神崎さんとお約束があるなら仕方ありませんわね。 それじゃまた今度にしましょう」
そういい残してバレー部キャプテンは、ゆっくり体育館を出て行った。
「山口さん、三咲さんには気をつけたほうがいいわよ」
「”ミキ”でいいよ。 助けてくれてありがとう」
「それじゃ、わたしも”みどり”って呼んでね」
「うん。 でも”みどり”って凄いんだね」
「やだ、別に凄くないわよ。 わたしは、ここの理事長の娘なだけ。 親の何とかよ」
「理事長の・・・」
この娘、理事長の娘だったんだ。 すっげぇー。
「でも、ミキってちょっと変わってるわね」
「そ、そうかな? どんな風に?」
「良くわからないけど、なんだか男の子みたい」
そう、するどいよ”みどり”ちゃん。
でもオレだって初日から正体がバレちゃ困るんだ。
「え~。 ひど~い」
充分女の子っぽく演技してみる。
「ごめん、ごめん。 それじゃ、お詫びに私の家に招待するわ」
「えっ。 でも・・・」
「あ~遠慮しないで。 わたし、ミキのこと気に入ったわ」
次回、「ドキドキお嬢様」へ続く