プロローグ:人間の本質
手に確かな反動を覚えながら、銃撃を放つ。
聞きなれた音と共に男の脳髄が弾け飛んだ。
転がる薬莢の音があたしに生を教えてくれる。
倒れた男の姿があたしに死を教えてくれる。
この男は何もしていない。
あたしは何もされてない。
ただ、持っていた紙袋の中に金目の物があるだろうと考え、撃っただけのこと。
生きるため、これは生きるための仕方ない犠牲であり、あたしが望んでしていることじゃない。
そう自分に言い聞かせながら男から紙袋と装飾品を取り外していく。
こんな所で生活していて罪の無い人間なんていない。そう思うと、少しだけ感じた罪の意識が消え、急激に心が冷めていくのを感じる。
大丈夫、あたしはいつも通りのあたしだ。
財布、時計、ネックレス、ピアス、服……
解体が終わると、それは本当に「肉」と言って差し支えない物へと変貌した。
そして、その中。男が持っていた紙袋の中には、「可愛い」とはきっとこういうものを指すのだろう。意匠を凝らす包装がされていたそれは、児童向けの玩具……、所謂ぬいぐるみとよばれるものであった。
誰かにプレゼントでもするつもりだったのか?娘に?それとも息子か?
そう思いぬいぐるみをよく観察すると、そこには「サーヤ」という刺繍がされていた。
やはりこれは娘に宛てたプレゼント……
もしかしてあたしは取り返しのつかないことをしてしまったんじゃないのか?
あぁ、あたしは、あたしは
「……これも、小銭にはなるか」
自然に口から出た言葉は謝罪の言葉などではなく、自己を肯定する言葉だった。
例え生きるために人を殺していたとしても、人に害を成す前に生きることを諦め、自ら死を選択できないあたしはクソみたいな悪人、怪物の類だ。
「クレイ」の名にふさわしく、冷たい、人形のような女だ。
そして、だからこそわかる事がある。
────人の本質は悪だ。