第1話 【現実】
生まれながらに才能が優れている。しかし、その才能を活かすことが出来ていない。なんて言葉をよく言われるが、一体何がいけないのだろうか。
「おい、佐藤!」
運動は苦手だが、成績は全国模試1位。帰宅部。やはり、部活に入ってないからいけないのだろうか。
「今すぐゲームをやめろ!佐藤 桂馬!」
「あ、高橋ティーチャー、こんにちは。」
「何がこんにちはだ。今は授業中だぞ。何故、ゲームをやっている!」
「答えるまでもない。学校の授業なんて無意味だからですよ。先生。」
「なんだと?成績がいくら優秀でも、態度がなってないんだよ。お前は。」
「はぁ、そうですか。なら、次から気をつけます。気の済むまで授業をやっててください。高橋先生。」
僕は再び、ヘッドホンをつけ、手に持っている携帯用ゲーム機【PlayStory γ《ガンマ》】のボタンを高速な指使いでプレイし始めた。
クラス中にはカチカチという音が鳴り響いている。
「佐藤、これは没収だ。授業後、職員室に来い!」
「ちょっと待て、高橋ティーチャー!セーブしないとデータがぁぁ!」
ブチッ
高橋先生という残酷な生き物が、セーブをしていないゲームの電源をいい音を鳴らし、切ってしまった。
「いいから、後で職員室に来い!いいな佐藤!」
「だから、こんな理不尽な学校は嫌いなんだぁぁ!」
クラスの生徒達は皆、クスクスと笑っていた。
だが、予備に制服に8個、カバンに約30個入っている。もちろんあんな教科書は持ってきていない。
「はぁ、これだから現実は...。」
と呟きながら、再びゲームを始めた。
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「一体何がいけないのだろうか。ってか、この世界に合わせようとする事自体が間違っているんじゃないか?」
僕はため息をし、ゲームをしながら職員室に向かっていた。
この学校は他と変わらない一般的な高校だ。入った理由といえば、家が近く、ゲーム販売店にも近いという理由だ。実は普通に家でゲームを満喫していたいところだが、親に心配かけるし、出席日数とかもあるから一応通っている。
「佐藤君!」
「ん?誰だ、お前。」
The モブキャラって感じの女子生徒が話しかけてきた。
「誰ってひどいな〜。私、佐藤君の隣の席に座ってるんだよ。」
女子生徒はちょっと腑抜けた感じでそう答えた。
「で、何か用か?」
「いや、用ってほどではないけど、歩く時までゲームやってたら危険だよ。」
「余計なお世話だ。用が無いなら俺は行くぞ。」
「あ、うん。気をつけてね…。」
ちょっと暗い感じでそう言った。
少し態度冷たかったかな。まぁ、いいや。どうせもう話すことはないだろうし...。
僕は世間でいうボッチだ。意味はまぁ簡単に言えば友達がいないという事だ。別に寂しい訳では無い。人間関係は苦手だし、1人だけでゲームをする事が好きだからな。
僕はそんな考え事をしながら職員室の前に突っ立って、セーブポイントまでゲームを進めて、セーブをし、電源を落とし、ポケットに入れた。そして、ガラガラと音を立て扉を開け、職員室に入った。
「高崎先生いますか〜。」
「お、来たな佐藤。まぁ、とりあえずここに座れ。」
言われた通り、職員室の多分高崎先生の机の椅子に座った。
「お前、これが何だかわかるか。」
高崎先生は一般的な事務用の机の引き出しを開け、中に入っているしっかりと整理されているファイルを見せつけてきた。
「何って...。授業で使うプリントを挟んだファイルじゃないんですか?」
「いや、これは生徒一人一人の弱点や得意な所などをまとめたものだ。」
だから何?とかキモッとかいう言葉が思い浮かんだが、ややこしくなりそうなので言うのは控えた。
「俺達先生はな、お前ら生徒一人一人を思って授業をやっているんだ。佐藤、お前には実感がないかもしれんが、人は数え切れない程の人から支えられて生きている。俺も普段はお前を起こってばかりかもしれない。それはお前に、そんなしょうもないゲームなんか辞めてしっかりと授業を受けて貰って、1人の生徒として学校生活を送って欲しいんだ。」
「先生...。」
「わかってくれるか、佐藤。」
「先生ぇ!」
佐藤 桂馬の心の中には【改心】ではなく【怒り】の感情が含まれていた。
「なんだ、佐藤。」
「ゲームの何が悪いんですか!」
「......は?」
「ゲームを辞めて授業を受ける?1人の生徒として暮らす?ふざけるな!そんなの苦痛にしかならない。先生の言っている事は理解したよ。ただ、ゲームは悪くない。ゲームを侮辱をするのなら、俺はこんな学校辞めてやるよ!」
「ちょっと待て、佐藤 桂馬!」
僕はそのまま、職員室を飛び出した。そして、教室にもよらず、校門をよじ登り、校内を出た。そして、ポケットからゲームを取り出し、再び起動。そして、ゲームしながら帰宅することにした。
「あんな学校、こっちからお断りなんだよ。でも、やりすぎたかな。」
ため息をつき、横断歩道を渡る。
キキキキキー
と、甲高い音で車がブレーキする音が聞こえた。と思ったら一瞬、身体中に痛みが走り、目の前が真っ赤になった。そしてそのまま意識を失った。
そう、僕は赤信号なのに横断歩道を渡り、トラックに跳ねられたのだ。