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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

短編集

東京裁判

作者: 浩志

何となく異世界人が突然現れたらをテーマに書きたくなったのでありそうでない裁判を書いてみました。裁判を傍聴した経験や法律に関して勉強したことがないので、不適当な箇所が多いと思います。事件・事故は全てフィクションであり、地震についても作者に特別な意図はありません。あくまでも物語の一部として書いただけです。

「起訴内容は殺人罪であり検察は被告人に死刑を求刑致します」


事件の経緯を説明していこう。ニ○ニ○年に世界各地に空想上のものでしか無かった魔法を扱う人々が突如として現れた。各国家は国内法に基づいて対応しようとしたがそれに限界があり翌年に、国連によりある国際法が制定された。【異世界民による犯罪等に関わる法律】、【地球民・異世界民保護法】、【国連加盟国及び地球国家における異世界国家との通商及び国交に関する法律】等、通称【異世界関連法案】である。


異世界人【アウター】は当然、地球における各国の法律を知らない。地球の大部分で劣り、一部分野において優るアウターの確保は国民に極秘裏に行われた。アウターの持つ遺伝子情報は遺伝子工学において画期的な発明・発見を期待され地球外生物、日本における【特別指定災害獣】特災獣も科学の発展に寄与するものだと思われていた。


しかし、交渉は困難を極めた。言語体系も文化も異なるアウターを地球政府は扱いに失敗したのだ。クリスマスの大虐殺で死亡した市民・治安当局関係者は数万から数十万ともいえ、初動が遅れた先進国では被害者遺族による訴訟が相次いだ。それより悲惨だったのは後進国であった。


人類は飢饉問題、宗教対立、宇宙への進出など様々な問題を人類意思として統一できておらず、とある宗教指導者は民族浄化の名の下で他国民ばかりかアウターをも排除しようとしたのだ。唯一、国連に対して拒否権を発動できる先の戦争における五大戦勝国は自国内での問題に頭を悩ませており、日本を中心とした国の国連非常国会の召集に応じるどころでは無かったとされている。


アウター出現当時は日本も例外なくパニックへと陥った。一人の若者が撮った映像はSNSへとアップされ拡散したが、制作予算の少ないB級映画のステルスマーケティングであると他のユーザーに叩かれ、削除された。しかし、一度ネットに掲載された情報はデジタルタトゥとなって完全に削除される事は難しい。警察庁に設置されたネット犯罪に携わる対策チームが発見し、報告を上げたが信用する者は報告をした警官、有野仁(ありのひとし)を除いていなかった。


この映像を信用し、警察が適切に対応していれば日本での被害を抑える事が出来たと主張する被害者遺族がいたが、警察を責めても仕方がない。この時点で映像の真偽を判断できた者がどれくらいいただろうか。多くのネットユーザーが特撮であると判断した様に警察もまた事件性が低いとして捜査を諦めざるおえなかったのだ。


数時間後に起きた事件を未然に防ぐ事は不可能であり、警察にそれを求めるのは酷だった。通常の事件として出動した警察官の多くが死傷する事になった。警邏にあたる警察官の装備は警棒に拳銃、そして手錠である。発砲に関する手順を踏まなければ、警察官は罪に問われる。同僚の警察官が突如として現れた炎に包まれた時には、発砲を許可されたが、容疑者が手をかざしただけで銃弾が目標から逸れていった。


各地の警察本部は準特殊部隊である銃器対策部隊の出動を決定。首相官邸への報告を行ったが射殺された容疑者は少数であり、日本国民に与えた影響は大きかった。今回、起訴された容疑者はこの一件に関わっており、腹部に受けた銃弾の治療の後に逮捕された。


裁判の公正さを保つ為に傍聴が許されており、希望した被害者遺族の他にも多くの報道機関が傍聴を希望した。事件発生から裁判が行われるまで三年の日を要していた。まず被告人に対しても弁護士をつける権利はあり裁判を受ける権利があった。言葉の問題もある。日本政府は録画された音声を言語学者へと提供し、情況を照らしあわせ言語体系の解析を行った。


現実世界ではどんな言語を理解できるような秘密道具は存在しない。国際法廷で裁くにも戦争犯罪でもなく、国内法で裁くべきか国連での議論は荒れに荒れた。被害者遺族の賠償問題もある。容疑者が身に付けいた金属の一部は未知の金属であり、それを欲する研究者との兼ね合いもあった。


今後、多くのアウターによる犯罪を裁く基準となり、日本では死刑の執行も有り得たが、死刑を禁止する国家も多くその理由は残虐性からと人権保護としていたが、凶悪犯罪に対しての抑止力としての死刑に日本は肯定的であり、法務大臣の署名によって今も日本では死刑が執行されていた。


「検察は有効な証拠とするべく、被告人を逮捕した警官の証言を求めます」


「職業と名前を教えて下さい」


東京の地方検事局に在籍する検察官は、日本初の広域特殊捜査官の資格を持ち、被告を逮捕した警官を証人として召喚した。


「警察庁、所属特殊犯罪対策課、警部有野仁です」


「被告人を逮捕したのは貴方で間違いありませんか。逮捕時の情況を教えて下さい」


「当時日本はパニック状態でした。非番の警察官も召集され、事態の対応に不眠不休であたりざるおえなかった」


犯行当日はクリスマス。カップルで賑わう街中での犯行であり、警察官も恋人や家族と過ごす者も多く、独身である仁にクリスマスに休みが欲しいと言える雰囲気ではなかった。


「当日、情報分析官であった私は課での待機を命じられた」


警察官として逮捕術や職質の訓練を受けていた仁であったが何事も適材適所である。仁の職務は鳴り止まない通報に対しての原因究明であり、出動は地域課の警察官が優先されて派遣された。


「被疑者の逮捕に被害が出ると考えている警察官は少なく、銃刀法違反者が暴れているのだと考える者が多かったが、上層部は念のために警察官に銃を装備させて現場へと急行させた」


身内(警察官)に被害が出れば責任をとらされる上層部は集団パニックを起こした状況は分からなかったが少なくとも制圧用の催涙弾と暴徒鎮圧用ネットを警察車両に搭載させていた。多く警察官が出動し、警察庁は手薄となっていた。警察の特殊部隊SATで残っているのは出動待機命令を受けた一部隊のみで作戦準備を終え、指令が下るのを今かと待っていた。


突如、警察無線で警視庁が襲撃されている旨の報告が上がった。警視庁は一般の人に広く警察の活動を広報するために民間人の受け入れを行っており、正面玄関から侵入する事は不可能ではなかった。対応した警察官は奇抜な格好をした男に職務規定に則り職質をかけようとしたが遅かった。後に回収された防犯ビデオから男は呪文の詠唱を行っており、この際に死傷者はニ十五人だったと公式発表された。


「私が命令により警視庁駆けつけた際には既に負傷者で溢れかえっており、消防への通報とともに多くの警察官が召集された後でした」


「貴方はどうやって被告人を発見し、逮捕したのですか」


混乱に陥る中で病院より派遣された医師によってトリアージが行われていた。大きな災害に遭った際に少しでも多くの命を助ける為に怪我の重度によって色分けされていた。


「私が違和感に気付いたのは黒のタグをつけている患者が綺麗過ぎた事です。熱気を吸い込み外傷なく、死亡する事例は報告されていましたが服には破れた箇所はなく、苦しんで亡くなった人とは思えなかったからです」


「何故、貴方は気付いたのですか医療知識についてはそう詳しくない筈ですよね」


ニ○一八年に首都直下型地震によって多くの人が死傷した。都知事の要請によって自衛隊も派遣されており、経済損失も多大なものになった災害だ。


「皆さんもまだ記憶は新しいと思いますが首都を地震が襲った時に私は警察官として行方不明者の捜索にあたった経験があります。過酷な体験によって今も苦しんでいる人は多い。その忘れられない経験があったからこそ気付けたのだと思います」


「そして貴方は犯人に気付いた」


「はい、どのような理由で偽装したかは不明でしたが、未だ犯人は逃亡中であり、被疑者の逮捕は急務でした」


仁は同僚の警察官に告げることなく、銃を構えて

被疑者と思われる人物へと接近した。初弾は空砲となっているが、万が一に備えて銃から空砲を抜く。内務調査によって仁は罪に問われる可能性が高いと知っていてもこの時の判断を間違っていないと今でも確信していた。


「私は手錠をかける為に直ぐに取り出せる様にしながら被疑者に近付き万が一に備えて銃を構えていました。被疑者が抵抗するのを確認すると犯人に向けて発砲した」


「貴方はその発砲は妥当だったと考えていますか」


「はい。上層部は信じていませんでしたが、特撮では説明のつかない現象が確認されており、後の調査で他の事件の被疑者を撮った映像を私は見ていました。確信を持って通常と同じ様に扱えば被害が拡大するのみだったと証言できます」


警察は内務調査を行う監察官を派遣し発砲の妥当性を調査した。服務規定に違反して発砲した事に関しては減俸処分の対象となり、調査を受けて検察庁の出した判断は不起訴であった。仁を英雄として扱う事は法治国家日本では無理だった。だが、銃社会のアメリカでは警察官が罪に問われる事は無かった。人権団体は仁を殺人未遂罪で起訴しようとしたが、日本は過去にSAT隊員が犯人を射殺した事で訴えられそうになっており、職務を遂行した警察官を訴えさせる訳にはいかなかった。


「証言ありがとうございます。被告人は異世界人、通称【アウター】でも特殊な地位に就いており、殺意を持って人を死傷させたのは明白です。罪には罰をもって答えるべきだと考えてます。証人尋問は以上です」


「弁護人。反対訊問をどうぞ」


刑事事件において被告人は弁護士をつける権利を有する。自己で選任した私選弁護人、経済的に困難な場合、国選弁護人をつけるかは、被告人次第である。私選弁護人をつける為には大きな壁があった。アウターの中にも弁護士に相当する職に就く者はいるだろうが言葉の問題と日本の六法を知っていてなおかつ弁護士資格がないと違法行為になってしまうということだった。金があっても多くの民間人を殺傷したテロリストを弁護することは難しい。


勝訴を得てもテロリストを弁護した弁護士ともなれば依頼人が減る事は明白であった。そして、被告人の裁判を受ける権利を保障するために時間が置かれ、現地の有識者にがようやく弁護人として選任されたのであった。


「貴方は映像で被告人をアウターだと知っていたと証言いたしましたが、本当に信じていましたか」


「はい」


「では証拠物件の提示を二つ致します」


青年が携帯電話で撮ったと思われる映像が流れる。解像度は高く鮮明に写っているが、緊張しているのか手振れが酷い。青年が何やら呪文らしきものを唱えると火の玉が現れ気を燃やしていく。仁が確認し、疑問を抱いた動画であり、もう一つの動画は有名監督によるファンタジー小説の実写映画だった。


「これは依頼人が不当に拘束される原因となった動画であり、もう一つは完全な映画です。裁判員の皆様にも判断をして戴きたい」


弁護人の主張はこうだ。もし依頼人が突如、発生した異世界扉【ゲート】を通って日本に来なければ犯罪を犯す事は無かった。正式な手順を踏んでいない発砲によって負傷した事で逮捕され、治療を受けた。もし、同じ地球人として逮捕されたのであれば銃撃によって負傷することはなく、逮捕手順の違法性と正当防衛をもって無罪を勝ちとる。


「裁判員の皆様はどちらがアウターを写したものか判断できましたでしょうか。ここにいる証人は動画からアウターが事件に関わっていると判断し、依頼人を負傷させました。確かに依頼人は多くの人を死傷させたのかも知れない。しかし、それは正当防衛でもあったのです」


事件報道後に有名になった動画で報道によって知った者も中にはいるだろう。そして仁がそうだとは知らなくても広域特殊捜査官がアウター犯罪におけるかなりの捜査権限を有していることを知らない者は少ない。被疑者がゲートを通じて自国に戻った場合にも逃亡先で逮捕する権限を有しそれは国外逃亡をした時も同様だった。


「依頼人は自国では証人と同じ様に治安を維持する職務に就いております。そして特異点【ゲート】によって未知の世界へと迷い込んでしまった。私達の国では自動車も高層ビルもありません。もしそんな先で現地住民と遭遇した場合、貴方ならどうしますか」


「私なら通ってきたゲートを探し元の場所に戻ろうと努力するでしょう」


「そう。私の依頼人も元の場所に戻る最中だった。だが、私達の世界において地球そして東京は異質だった。そして人が多く居る建物へと入り依頼人は助けを求めたに過ぎません。そして動揺した。異なる文化で育った故の悲劇であり、依頼人は自己防衛したに過ぎません。これで質問は以上です」


その入った建物で見知らぬ人から声をかけられた被告人は同じ服を着、同じ組織に所属する人間に囲まれた。逃走する為に放った魔法で人が死傷したとしても、自己の身を守るためであり、危険な世界で生きるにとって当然の権利だと主張した。この後には様々な証拠と証人によって裁判は進められた。そして審理が始まってから一ヶ月後に判決が出た。


「主文。被告人を死刑とする。異なる文化、突発的な遭遇。確かにそれは悲劇を生む主因となった。しかし、多くの人を死傷させた被告人の罪は重い。ただ逃走するのであれば攻性魔法を使用する妥当な理由はなく、対話によって意思疎通を図ろうとしなかった被告人の行動に正当性はないと判断する。以上で本法廷を閉廷する」


日本は三審制を採用している為に被告人は直に控訴・上告したが有罪判決が覆ることは無かった。収監された死刑囚は多く、犯罪に対する姿勢を示す政治的な判断によって死刑は執行された。ある者は言った想像できる事は現実に起こり得る事であると、ただ多くの人にとって不幸な遭遇にならない事を切に祈るばかりである。

誤字脱字や内容の指摘に関する訂正には時間がかかる場合があります。申し訳ありませんが、感想や指摘に対しては基本的には返信しませんので御了承下さい。

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