出された提案
朝食も済み、味噌を分けてもらうことになり、ホクホクした気持ちで部屋に戻る事にした。
先程調理した際にトゥーンとバルにも食べさせてみたが、高評価を得ることが出来たようだ。
少し物足りないといった具合だったので、今度は豚汁なんかを作ってみてもいいかもしれない。
ん?豚ってこの世界に存在しているのか?
そもそもちゃんとした手順での豚汁ってどうやって作るんだっけか?
まあ、適当に肉をぶっ込めばいいか。
どうあがいてもそれっぽいものしか作れないし。
完全に男の料理といった感じになりそうだ。
部屋に入ると、朝食をとっている間に起きたのであろう。
カインもアルクも目を覚ましていた。
「お、起きていたか。おはよう。」
「あ、おはようございます。」
「んー、もう朝か。もう少し眠っていたいくらいだな。」
カインの表情が生き返っている。
いや、むしろ昨日ボケる前よりも精悍な顔つきをしているようにすら見えてしまう。
余程の体験を出来たのだろうか?
ここで何があったかは野暮であるし、下世話でもあるのであえて聞くようなことはしない。
どのような事があろうと、カインが元のように戻ればそれで構わない。
「さて、今日はどうしようか昨日も考えていたんだが、やはり領主の元に向かうしかないと思うんだが、どうだ?」
「そうですね・・・他に外に出る手は無いんですよね。だったら話を聞いてみるしかないですよ。」
「二人ともそれでいいのか?俺はその場にいなかったから、詳しい事情は分からないが。」
俺の意見に賛同をしめすカインと、領主への警戒からか慎重な意見を言うアルク。
いや、この場合は警戒だけでなく、冒険者ギルドの職員であることも影響している気もするが。
「まあ、何をさせられるか分からない以上、心構えはしておく必要があるかもしれないな。だが、このまま何の当ても考えもなく停滞している訳にもいかないだろ。それとも、レティシアへの義理立てでもしたいとか言うのか?」
「いや、そんなつもりはないさ。形は小さいがそれでも冒険者ギルドが存続をしているわけだし、何かしてやれるような力も持ち合わせていないからな。第一、あのような状態にしたのは、領主だけでなくレティシア達の責任もあるはずだからな。」
「じゃあ、行くということでいいんですね。」
「ああ、それでいいさ。俺としてもこの街でうだうだしているわけにもいかない。報告を済ませてさっさと戻りたいからな。こうしている間にも仕事は溜まっていく一方だろうからな。」
そう言って、げんなりしたような顔をしながらおどけて見せるアルクに、思わず笑ってしまう。
なるほどな。
会社勤めも大変な事だ。
さて、そうと決まったならこんなところにいつまでもいるのは時間の無駄だ。
準備を済ませて、すぐにでも領主の元に向かいたいところだ。
二人が朝食を済ませ、準備が終わるのを待って宿を出る。
領主の館に向かうと、待ち構えていたかのようにキールが出迎えてくれた。
本当に何処で俺達の動きを調べているんだか。
どこかに間者でもいるのか?
そんなことを勘ぐってしまう。
まあ、こちらに手がない事を分かっているだろうから、単純にこちらの動きを読めるんだろうけど。
「これはクルス殿にカイン殿。そして、そちらはアルク殿ですな。やはり、いらっしゃいましたな。主人の元にご案内致します。」
恭しく頭を垂れるキール。
少々慇懃無礼な気もするが、ここは気にしないようにしよう。
屋敷の中を移動し、昨日通された領主がいた執務室へと通される。
メイドの姿は無かった。
館内の仕事をしているのかもしれない。
ドアを潜ると、机に向かうネルフィットがそこにいた。
やはり何事かを書き連ねている。
俺達がいるのにそんなことをしているところを見ると、余程忙しいのだろう。
しかし、重要な案件もあるだろうに、部外者のいるところでそんな作業をしていてもいいのだろうか?
キールが、ネルフィットの側に近付く。
「ご主人様、お客様です。」
キールがそう告げると、軽く頭を上げてチラリとこちらを確認する。
が、すぐに視線を手元に落とす。
「いや、済まないね。もう少しでキリの良いところまでやれちゃいそうだから、そこのソファーにでも座って待っていてよ。あれ?昨日も同じ事言ったっけ?」
少し首をかしげるネルフィット。
俺達はソファーに腰を下ろす。
キールが出してくれたお茶をすすりながらしばらく待つ。
やがて、一段落したのであろう。
手に持つペンを机に転がして、椅子に座ったまま伸びをして体をほぐすような素振りをみせる。
「いやー、ゴメンゴメン。なかなか仕事が終わらなくてね。」
「いえ、大丈夫です。それよりも昨日お話にあった提案というのは何なのか聞きたいのですが。」
「そうだねぇ。回りくどいのは嫌いみたいだからね。本題を早速話そうか。ただし、話を聞いたら後戻りは出来ないと思ってもらいたいな。それでもいいかい?」
「不安はありますが、私達もそれなりに覚悟してきましたから。」
アルクの言に頷くネルフィット。
にこやかな笑顔を浮かべるその表情からは、何を考えているのか読み取れない。
「そうかい?それじゃ、話をしようか。と、その前にキール。」
「はい、分かっております。皆様、少々お待ち下さい。」
そう言って部屋を出ていくキール。
いったい何が待っているのだろうか?
キールが部屋に程なくして戻ってくる。
後ろに誰かを連れてきていた。
「お待たせしました。殿下、こちらです。」
「殿下?」
キールの言葉に思わず反応してしまった。
が、俺達三人とも同じ気持ちだろう。
「そう。こちらが第三王子であらせられるパウロ殿下だ。」
ネルフィットが紹介をしてくれるが、よもや王子を紹介されるとは思わなかった。
ネルフィットは何を考えているのだろう。
こんなどこの馬の骨ともいえない俺達に、王位継承の中心人物を紹介してくるとは。
「余がパウロだ。余の依頼を受けるという冒険者は貴殿らか。」
その言葉に驚きを禁じ得ない。
俺達に何かをさせたいのはネルフィットではなく、こっちの王子様だというのか。
確かにこれは他言無用だろうし、後に引くことも許されないのだろう。
こちらの心情などどこ吹く風といった具合で、王子は俺の対面に置かれていたソファーに座った。
王子様の登場です。
ブックマークや評価を頂けると、物凄くモチベーションが上がります。
また、様々な感想を頂けるとありがたいです。
今後ともお付きあいのほど、よろしくお願いします。