現状確認と色ボケ
冒険者ギルドを後にした俺達は、話をするため適当な食堂にひとまず入ることにした。
それなりに買食いをしていた為、俺やカインはそれほど腹が減っていた訳ではないが、アルクは別だろうと考えたからだ。
予想通り、まだ食事をしていなかったようで、アルクは腹に何かを収めるために注文する。
俺達はお茶を頼むことにした。
トゥーンとバルにも器に水を注いで出してもらう。
それらは、それぞれテーブルの上と床の上に置く。
「まあ、そんなに怒るな。レティシアもあれでいい奴なんだがな。」
「どうだかな。腹が立つことしかされていないからな。領主のところに顔を出してきただけで、何故あれほど言われなくてはいけない?」
「そりゃ、勿論理由はあるさ。今、アッガの冒険者ギルドは、建物を接収されているからな。あんな入り組んだ場所に、仮にとはいえ冒険者ギルドを構えることになってしまったからな。」
「それはなんでだ?冒険者ギルドは独立独歩なところがあるんじゃなかったのか?」
「確かにそうだ。本来であれば領主からの介入はあり得ないんだがな。」
そう言って表情を暗くするアルク。
どの権力からも離れた場所にあるのが冒険者ギルドだと思っていたが、それぞれの国にあると言う時点で、その国からの影響を零にするというのは、無理からぬ事なのかもしれない。
だが、だとしてもわざわざ建物を接収する理由になるだろうか?
「領主は、冒険者ギルドにある通信装置を使用されることを危ぶんでいるんだ。使用されて、街の情報を相手方に流されるのを防ぐために、一時的に接収したらしい。」
「確かに情報は大事だな。だが、そんなことをすれば冒険者ギルドから反発が起こるんじゃないのか?この街だけでなく、周りの街からも。例えばベッラの冒険者ギルドからとかさ。」
「それはそうなんだが、しばらく前までこの街は完全に他所との繋がりを断つことになっていたからな。この事を知ったのもこの街に来てから知ったくらいだからな。」
ロウルが、死人に支配される村に成り果ててしまっていたのに、解放を目指さなかった理由がこの辺にもあるような気がする。
兵を出していたこともあるだろうが。
とするなら、なかなか強かな事だ。
領主はやはり食えないような奴らしい。
「それで、領主は何と?」
「ただでは先に進ませる事が出来ないんだと。何か交換条件があるみたいなことを言っていたな。」
「それで、その内容はもう聞いているのか?」
「いや、まだ聞いていないな。下手に聞いて、後に退くことが出来なくなるのもどうかと思ったからな。」
「ふむ。賢明な判断だったかもしれないな。」
パンをちぎって口に運びながら、そう言ってアルクは褒めてくれる。
だが、現状何も打開策がないのが困り物だ。
提案を受け入れて先に進むか、それともそれを無視して隠れるようにして先に進むか。
もしくは、全て諦めてベッラに戻るというのも一つな気がする。
「こうなれば引き返すか?」
「いや、ここに至るにあたりそれも叶わないだろうな。この街の情報をすでに俺達はある程度握ってしまっているからな。些細な情報すら放出することは避けるためにも、俺達が街を出ることは制限されてしまうだろうさ。」
「本当に面倒くさい事になってきてるな。カインもこの調子だしな。」
そう言ってカインに視線を移す。
まだ、何処かポケーッとしているようだった。
思春期真っ只中といった具合だが、今は止めてほしいものだ。
言ったところで直るとは思いはしないが。
それでも何とかしないといけない。
こんな調子でいて、不意な事があれば抵抗が遅れてカインのみならず、こちらにも被害が出るような状態を望んではいないからだ。
「これ、何とかならないか?」
「そうだな・・・いっそのこと荒療治でもするか?」
「どうするつもりだ?」
「夜、ちょっと連れ出してくる。女ってもんがどんな物か分かればこんな事にはならないさ。クルスも行くか?」
「俺もか?」
少し惹かれる提案だな。
女っ気の無い生活をしているから、とても魅力的だ。
だが、俺は止めておく事にした。
「なんだ?お前は行かないのか。」
「行きたいのはやまやま何だが、こいつらの面倒を見ておかないとな。俺が行くとなれば必ずついてくるだろうし、連れていくのを拒否したらそうとう拗ねるだろうからな。」
水を飲み終えたトゥーンを、掴み引き寄せ頭を撫でる。
気持ち良さそうな表情を浮かべてご満悦の様子だ。
俺にもとねだるバルの頭も同時に撫でてやる。
「そういうものなのか?従魔を従えるというのも、存外利点ばかりじゃないんだな。」
「まあ、そういうわけだからカインの事は頼むわ。」
「了解した。そうとなれば、まずは今日泊まる場所を確保しないとな。」
「そうだな。次に何をするかはカインが戻ってからだな。」
アルクが食事を終えるのを待ち、俺達は宿を探しにまた街の中を歩くことにした。
純粋なカインが・・・
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