口論
「まったく、揃いも揃って・・・」
「一括りにして言わないでくれ。余計に腹が立つ。」
「あたしだって、こんなのと一緒にされたくないね!」
アルクのぼやきに俺が反応すると、それに負けじとレティシアも返してくる。
何なんだ、この女。
勝ち気にも程があるだろう。
冒険者ギルドで荒くれ者と付き合っていくためには、多少は必要かもしれないが、これでは行き過ぎというものだ。
「もういい。アルク、場所を替えよう。こんなとこでは落ち着いて話も出来そうにない。それに、余計なやつに話を聞かれるのも嫌だしな。」
「余計なやつってのは誰のことだい!」
「別にあんたの事をいってる訳じゃないさ。あんたごときに聞かれたところで影響は無いだろうからな。」
「何だってー!」
俺が何かを言う度に突っかかってくるのは止めてほしいものだ。
話が全然前進しないじゃないか。
面倒くさい事この上ない。
「もうやめろと言っているだろ。仕方ないな、場所を替えるか。」
「ああ、どこか適当に宿を取ろう。そこなら落ち着いて話も出来るだろ。」
「待ちな!詳しい話をしていかないと、ここからは帰さないよ!」
穏便に済ますためだろう。
俺の提案を飲んだアルクだったが、それにレティシアが待ったをかける。
別にお前に聞かせる必要性など無いだろうに。
「それはお断りだ。なんでお前に話を聞かせなきゃいけないんだ。」
「あたしは、ここの冒険者ギルドの支部長だよ!あんたらの動向を知っておく必要があるんだよ!」
「はぁ?」
俺の言葉に激昂するように、レティシアは言葉を出した。
これに、アルクは額を押さえるような動きをみせた。
まさか、こいつが支部長?
さすがにこれには驚かされた。
まだまだ、若いだろうに。
だが、それがどうしたというのだ。
「どうにも冒険者ギルドの上に立つ奴ってのは、俺ととことん相性が悪いみたいだな。」
「どういうことだい!」
「今のあんたみたいな奴が俺は嫌いだってんだよ。協力を求めてくるならともかく、高圧的に来る奴なんぞに話すことなんて無いって言ってんだよ。」
「ふざけんじゃないよ!あんたたち!」
周りに声をかけるレティシア。
その声に呼応し、周りでこちらの様子を伺ったいた連中が武器を片手にこちらに寄ってくる。
こいつら、ただの冒険者だと思っていたが、どうやらレティシアの私兵のような役割を担っているようだ。
だが、それは悪手であることは誰が見ても分かることだろうに。
俺は、そいつらの攻撃に抗する為に身構える。
しかし、そいつらは俺の横を素通りして、レティシアを押さえつける。
どういうことだ?
予想していた行動で無かったために、若干毒気を抜かれてしまう。
「お嬢、ストップだ。」
「さすがにありゃやりすぎだわ。」
「そんなことしてたら、いつまでたってもここから抜け出せないぞ?」
口々にレティシアを諌めるような言葉を出す。
押さえつける腕に抵抗するように、バタバタともがいているが、さすがに屈強な冒険者。
抜け出すことは叶わないようだ。
この状態を見て、ようやくカインが再起動したようだ。
何が起きたのとばかりに、驚いているようだった。
「周りで見ていた連中の方が、余程わかっているみたいだな。」
「何だって!あんたたち、離しな!」
そうレティシアが言っても拘束は解かれる様子は無い。
どころか、速く建物から出ていくように促してくる。
俺はそれにありがたく従い、先程まで惚けていたカインの首根っこを掴んで出ていく。
「まったく・・・短気は損気だと思わないのかお前は・・・」
「五月蝿いよ!」
「それに、クルスに威圧していったのも逆効果だ。もうあいつはお前の味方は絶対にしないだろうな。ありゃ、完全にへそを曲げたようだからな。ベッラの支部長も出だしに失敗して、苦労していたからな。」
「フンッ!そんなの知らないね。それにアルク、あんたがあいつから話を聞いたらあたしに教えてくれたらいいんだよ。」
「そりゃ駄目だ。あいつを裏切るような事は出来ない。第一、そんなことしたら、国からの要望すら無視してベッラに戻りかねないからな。そうなれば、冒険者ギルドにとっての損害が大きい。まあ、大人しくしておけ。」
「アルク!何してんだ!早く行くぞ!」
何事かを話しているアルクに、俺は声を掛ける。
イライラしていたせいで、言葉が少し荒くなってしまったが仕方ない。
俺の呼び掛けに、アルクは右手を軽く上げて応える。
「そういうことだから、突っかかってくるのなよ。あんたたちもレティシアが変なことしないよう、目を光らせておいてくれ。」
「分かってるよ。お嬢の事は任せておいてくれ。」
ようやく会話が終わったのか、アルクが小走りでこちらに向かってきた。
何を話すことがあるというのかと思うが、冒険者ギルドに職員として勤めている以上、その辺の礼儀を大切にしたのだろう。
サラリーマンの悲哀は、俺にも多少なりともわかるつもりだ。
まあ、だからこそ建物の外に出ずに、ここで待っていたのだが。
そして、俺達は冒険者ギルドを後にした。
きっとここの冒険者ギルドには二度と来ないだろうな。
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