アッガの冒険者ギルド
おっさんに言われた通りに道を行き、辺りを見て回るがそれらしい建物が見当たらない。
よもや、ガセネタを話したとも思えないし、一体冒険者ギルドはどこにあるのだろうか。
やはり、ここは誰かに尋ねるべきだと考え、カインに聞いてくるように頼む。
先程の二の舞はごめんだ。
いや、必ずしも起きる話では無いとはわかっているが、若干のトラウマに似たものとなって、脳内に植え付けられてしまった。
どうしても自分で行かなくてはならない状況ならばともかく、そうでないのなら、人当たりも俺より遥かに柔らかいカインが行く方が、話が円滑に進むというものだ。
カインは仕方がないなという顔をしながら、たまたま付近にいた女性に話しかけることにしたようだ。
ちょっと勝ち気な雰囲気を醸し出す、中々の美人だった。
こんな女性に話しかける方が、ナンパに思われないか?
そんな考えも杞憂に終わる事になる。
「すいません!道を聞きたいんですけど。」
「道?どこに行きたいのさ?」
「冒険者ギルドに行きたいです。でも、初めてこの辺に来たからちょっと道に迷ってしまって。」
「冒険者ギルド?それじゃ、あんた冒険者かい。そんな若いのに大変な仕事を選んだもんだ。いいよ、ついてきな。そこまで道案内して上げるよ。」
そう言って、カインの手を取るその女性。
その急な行動に慌ててしまうのはカインだ。
段々と異性を意識する歳になっているのだろう。
どこか顔が赤いように見える。
しかし、俺の時は心を折られる状況になったのに、カインの場合だとこれ程良い目を見ることが出来るのか。
釈然としない気持ちの中、カイン達の後を付いて歩いていく。
「それで、この街には何しに来たんだい?最近じゃ、移動も制限されているから、旅人はそれを嫌がって、あまりこの街には近付かないとか聞いていたけど。」
「詳しい事は言えないですけど、ちょっとオブライエンに用がありまして。」
「へー、公都に行くんだ。そうなるとまだまだ距離があるね。まあ、頑張るんだよ。あ、ほら。あそこが冒険者ギルド。うら通りのさらに深いところにあるから、知らない人には難しい道だったかな?」
「いえ、ここに来るまでで道順は覚えましたから大丈夫です。とても助かりました。ありがとうございます。」
頭を下げるカイン。
そして、その頭を下げたカインの肩を叩く女性。
「なに、困った時はお互い様さ。しかもそれが冒険者なら尚更だ。そんなに気にしなくていいよ。」
それだけ告げて、その女性は案内してくれた建物の扉を開く。
その行動に疑問を浮かべる俺。
その顔が見えたのか、ニヤッと笑う。
なるほど、そういうわけか。
クエスチョンマークを頭に浮かべる様なカインを促して、俺は彼女が開いた扉に向かう。
少し冷静に考えればわかる話だ。
だが、舞い上がって冷静さを失っていたカインには、理解までに少しの時間を要した。
「さあ、行くぞ。おそらく彼女は冒険者。そうでなかったとしても、少なくとも冒険者ギルドの関係者であることは間違いない。」
「えっ、えっ。」
「まったく・・・」
カインには、女性に対する免疫をつけてやらなければならないかもしれないな。
あまり、直接的な手段はそれほど取らせたいとは考えていないから、仮にあるとしてではあるが、夜の店などにつれていく気にはならないが。
しかし、以外な弱点を見た気がした。
話すときはまったくもって普通だというのに、ちょっとしたボディタッチには緊張してしまうのか。
それがたとえ手だとしても。
思春期真っ只中のようだな。
それはともかく、扉の前でこちらを見ている彼女を放っておく訳にいかないだろう。
カインの背を押して建物の中に入っていく。
それにしても中々の古ぼけた建物なのだが、こんなところでもちゃんと業務を出来るのだろうか?
冒険者が訪れにくい様な立地だし、それほどの力を持っていないのだろうか?
中も、まさに老朽化が進んだといった具合で、不安に拍車を掛ける。
だが、それでも何人か、冒険者とおぼしき者達がいたことに、少しの安堵をする。
なんにせよ、俺達の目的を果たさなくてはいけない。
アルクはどこにいるんだろうか?
先程の女性がカウンターを越えて中に入っていく様子を見てとれた事から、冒険者ギルドの職員であることがわかる。
ならば、彼女に話を聞く方が早いか。
「すまんが、ここにベッラからアルクが来ていると思うんだが。」
「おや、アルクの連れかい?で、あんたたちは?」
「俺はクルス。こっちはカイン。アルクと同道してきたんだが、あいつ冒険者ギルドに向かうって言っていたからな。迎えに来たんだ。」
「ふーん、そうかい。それで、それを証明する手立てはあるのかい?」
こちらを値踏みするように見ると、そう訪ねてくるので登録証を見せる。
これで、俺達がベッラから来たことの証明になるかと思ったが、そうはならないようだ。
たとえ、ベッラで取得していたとしても、それが一緒に来たことにはならないとのことだ。
それは確かにそうだ。
ならば、他に手はあるかと考えるが、すぐにその必要が無くなってしまった。
「なんだ、クルス。もう領主の用とやらは終わったのか。」
「ん?アルクか。」
ということは、やはりここは冒険者ギルドで間違いないは無いようだな。
それにしてもベッラとは落差が激しい。
俺がそう考えても仕方がないだろう。
「まあ、礼を言われただけだよ。村を救ってくれて感謝しているってな。」
「そうなのか。それで他には何もなかったのか?」
「この街から先に進むことは出来ないと言っていたな。」
「ふむ。やはり、街道の封鎖は事実だったか・・・」
顎に手を当てて何事かを考え出すアルク。
そこに言葉を挟んできたのは先程の女性だった。
「あんたたちがアルクの連れだってことはわかったけど、領主の為に働くっていうんなら、わたしゃ許さないよ!」
「一体どういうことだ?」
何故、彼女がこんなことを言ってくるのか、理解の外だった。
彼女に一体何があったのだろうか?
彼女の行動を見かねてか、アルクが考えるのを止める。
「レティシア、あまりクルスに当たるのはよせ。」
「だけどね、こいつは領主のところに行ってきたんだろう?それなら何を吹き込まれたかわかったもんじゃないよ!」
今だ事情を飲み込めないでいるが、彼女はあまり領主に対していい印象を持っていないようだった。
だとしても、初対面の相手にこいつ呼ばわりされる謂れは無い。
冒険者ギルドを運営させるべく働く職員達は、ベッラでもそうだったが、どうにも琴線に触れるような事を言ってくるな。
「何があったかは知らないが、どうにも俺達は招かねざる客のようだな。こいつ呼ばわりされるような謂れもない。まったくもって不愉快だ。」
「クルスも、そう簡単に怒るな。まったくお前ら・・・カイン何とか言ってやれ。ってカイン?」
怒りを隠す気もない俺を見て、アルクは深いため息をつく。
そしてカインに話を振るが、カインはポーッとした顔でレティシアを見ていた。
さらにアルクは、深いため息をつくことになったのだった。
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