進めない理由
「何故かか・・・やっぱり説明の必要はあるよね。」
「それは当然です。でなくては到底納得できるお話ではありませんよ?」
「まあ、そうだね。実は、このアッガと隣の街であるトラスの間で兵が展開されているんだ。」
「それはどういう・・・」
「君達も少しは話を聞いているかもしれないけど、今この国では王位の継承問題が起きているんだよ。第一王子派と第三王子派が、それぞれ軍を率いて睨みあっているんだ。困ったものだよね。」
おどけた風に手を上にあげて、茶化すかのような態度をとるネルフィット。
困ったような表情を浮かべている。
事実、困っているのは間違いがない。
アッガのすぐ近くで兵隊達が展開して、戦端がいつ開かれるかわからない一触即発の状態なのだ。
「申し訳ありませんが、あまりその辺の詳しい話を聞き及んでいないのです。国が揺れているということくらいしか聞いておりませんので。」
「おや、そうなのかい?そうだとしたら、その辺の事も多少なりとも頭に入っている状態でなければ、納得なんて出来ないだろうね。」
「お聞かせいただけますか?」
「それについては、わたくしからご説明致しましょう。」
ズイッと前に出てきたのはキール。
この辺の話の説明まで、自分の主人にさせる事を憚ったようだ。
俺からしたら、誰が説明役でも変わらないんだが。
ネルフィットにしても、これから自分が話そうとしているのに邪魔をするなと言いたげな顔だ。
「まず原因は第一王子が、第三王子の立太子に反対したことから始まります。」
「え、でも普通そういうのって年功序列じゃないですけど、始めに生まれた方から候補が決まるものでは無いんですか?」
「あまり大きな声では言えませんが、第一王子は妾腹の子になります。対して第三王子は本妻の子。その為に起きた事なのです。」
カインの疑問にさらりと答えるキール。
なるほど、そういう事か。
だが、王は健在であるならば、この騒ぎくらい収めそうなものだが。
それとも、今の王にはその力も無いのか?
「現在の王は病に伏せっており、国政は第一王子中心に回っております。そこに王が、次代の国の舵取りをするべき者を第三王子と定めたのです。第一王子達にとって、この話が面白いものであるはずがありません。また、第一王子が次代の王だと肩入れしてきた者達にとってもそれはいえます。対して第三王子にしても、王に直接跡継ぎに指名されたのです。しかし、まだ若い王子の能力に疑問視するものも多いは多いのですが、僻地に飛ばされた者達から見れば、中央に復帰する良い機会と捉えている者も多数おります。」
「何とも、どこぞで聞いたことのあるようなお話ですね。」
「とはいえ、お陰でトラスとの交易ルートも今は停止状態だし、旅人も訪れないし、陸の孤島のような感じになっていたんだよね。」
トラスとの間は軍人が通行を制限し、反対側のベッラに繋がるロウルは死人だらけでそもそも通行できる状態ではなかった。
ならば、交易が麻痺し、やがては民の不満も募ることになる。
そして、その矛先は国に、王族に、そしてアッガの領主であるネルフィットに向かうことは必至だ。
だが、それならば自分の持つ兵力でロウルを救済すればよかったのでは?
仮にも大きな街の領主なのだ。
それなりに力を持っているはずだ。
いくらなんだって戦力を持ち合わせていない何て事は無いだろう。
「だとしても、何故ロウルに兵を出さなかったのです?」
「そうなんだよねぇ。出すことが出来れば良かったんだけどね。いや、この街の兵達も戦場に出てしまっているんだよ。今の情勢では、兵を出さないで日和見何て事が出来なくてね。それでロウルは泣く泣く見過ごさざるおえなかったんだ。調査の名目で少しの配下は出したけども。」
つまり、利権の問題でロウルは見捨てられていたと?
これは何ともやるせない。
しかし、彼は領主である以上、時に涙をのんで行動に移ることも必要だろう。
ロウルを見捨てたのは、どう考えても明らかな悪手だと思うが。
街と繋がる交易路が塞がれていれば、街の力は衰退するだけだというのに。
話を聞いて眉根をひそめるかのような俺の顔を見て、苦笑を隠すこと無く浮かべるネルフィット。
「そうは言っても、何もしない訳にはいかないからね。村の様子を確認させることくらいはしていたし、冒険者ギルドの方に支援を頼んでいたんだ。」
「ですが、ロウルを見捨てた事には違いはありませんね。」
「クルス殿!失礼ですぞ!」
「いや、キール。本当の事を彼は言っているだけだから。」
俺の言葉にキールが反応するも、それをネルフィットが制する。
これにしぶしぶといった具合いでキールが従う。
だが、失礼な発言があれば、直ぐにでも口を挟もうという態度がありありと出ていた。
「まあ、利権なんて大したものがある訳じゃないんだけどね。ちょっとした腐れ縁というやつだよ。」
「腐れ縁ですか?」
「ああ。私と第三王子は竹馬の友というやつだよ。昔からの仲でね。あいつを見捨てる事が出来なかったんだよ。民よりも友をとってしまった私を愚かだと笑うかい?」
「いえ、そのようなことは・・・」
笑うことなど出来なかった。
自分がネルフィットと同じ立場だとして、自分に助けを求めてきた相手を無下にすることなど、俺には簡単に選択出来そうに無い。
俺と共にいてくれてるカインやトゥーン、バルを見捨てる事など俺には出来ないのだから。
「だから、本当にロウルを救ってくれた事は感謝しているんだよ。」
「いえ、お気持ちはわかりました。しかし、先に進むことが出来ないとは、困りました。」
「そうだねぇ。何とかしてあげたいところなんだけどね・・・そうだ!提案があるけど聞いてみるかい?」
悩むそぶりを見せてから、急な提案を出してきた。
この流れは何か色々想像させるな。
しかし、それに飛び付くとでも思ったのだろうか?
さすがに、この状況での軽挙は身を滅ぼしかねない気がした。
まあ、一介の冒険者が何の力になるのか、想像だに出来やしないが。
「申し訳ありませんが、共に移動するものがここにおりませんので、その提案を聞くことは出来ません。仮に聞いてしまって、後に引くことが出来なくなると困りますので。」
「それは随分と用心深いんだね。うん、わかった。それでは聞いてみる気になったら、もう一度来てくれればいいから。」
そう言うと、もう話すことはないと言わんばかりに、手元にあった書類に目を落とす。
それを合図にキールが、俺達に退席するように促してくる。
素直にそれに従うと、俺達は領主の館を後にした。
アルクが来なかったが、何をしているのだろうか。
この街の冒険者ギルドにでも向かってみるか。
書いていて思うのは、それにしても女性キャラがほとんど出てこないという事。
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