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領主の館に

俺とカインはキールの後についていく。

歩く姿もしゃっきりとしたものだ。

姿勢が良いだけで、出来る男に見える。

いや、実際のところ中々頭が良いのは先程の会話からでも、その一端が分かるし、優しそうな微笑みを浮かべながら、俺達の前を付かず離れず絶妙な距離を保って移動するその様を見ているだけでもかいま見える。

領主の執事をしていることも納得できるというものだ。


アッガの街中を歩いていると、色々と気になる物が目に入ってくる。

例えば、反対側から歩いてくる人達の服装や髪型。

それが冒険者であるのならば、腰もしくは背に据えた装備を。

明らかに刀に見えるのだが、もしかしてもしかするのか?

俺同様の飛ばされ者が伝えたのかもしれないな。

だとしたら、この世界に剣道とかあったりするのか?

いや、実践的なものでいうのなら剣術か?

そういうものがあるのなら見学してみたいところだ。


また、遠くに見えるかなり大きな建物が見える。

あれは一体なんなんだろう。

進行方向にあるわけではないので、領主が居を構える屋敷ではないだろう。

剣術道場というわけでも無いだろうし。

どこか厳かな雰囲気を遠目にも醸し出しているのが分かる。

あそこにも、領主の用とやらが終わったのなら見に行ってみるのも面白そうだ。


カインも物珍しいのか、周りをキョロキョロと見ていてまるでおのぼりさんだ。

人の事は言えないが。

頭の上でノリノリのトゥーンと、真横で俺の顔をじーっと見ながら歩くバル。

こちらはいつも通りといったところか。


『お!何か売ってるぞ!クルス、あれなんだ?』


『何だろうな。ここからじゃちょっとわからないな。』


『ちょっとよろうぜ!』


『後でな。』


『何でだよー!』


『何でもだよ。』


そう言いながら、トゥーンをいなし歩いていく。

それでもノリノリな様子は続いているから大したものだ。

さすがに今どこかに立ち寄るというわけにはいかないだろう。

前を歩くキールに何を言われるかわからない。

いや、むしろ受け入れてくれそうな雰囲気もあるにはあるが。

それを何らかの交渉材料に使われるのも嫌だしな。

考えすぎかもしれないが。


「どうなさいました?先程から心ここにあらずといったご様子ですが。」


「いや、そんなことは・・・あるかもしれないな。見たことの無いものばかりで驚いていたんだ。なぁ、カイン。」


「ええ、ベッラとは違った環境に驚きを隠せませんよ。領主様の統治が行き届いているのでしょうね。」


「ええ、我が主は領民にも優しい政策をうつ心優しいお方ですから。お二人を驚かせるようなものが、この街にあるとするのであれば、喜ばしいことてすな。」


誤魔化すつもりでカインに話を振ったが、カインの言葉を聞いてどうにもご満悦といった様子だ。

自分が仕える主が褒められれば、そりゃ嬉しいか。


「幼い時からお仕えさせてもらってますが、先代は気高い方でしたが他人にも厳しいお方でした。キルフィット様は先代のような気高さを持ち、文武両道に長け、しかも弱き者に優しい。たいへんに優れたお方です。」


こりゃ、主に対して盲目的になっているな。

いや、主というよりも孫の感想でも言っているかのようだ。

語っているその顔が、それまでも浮かべていた笑顔とは一線をかくすような笑顔だ。

幼い時から仕えているうちに、そういう感情が芽生えたのだろう。

身近にいれば、そうなるのも分かる。

これは、良いことを知ったかもしれない。


のろけにも聞こえるキールの言葉を聞いているうちに、俺達は大きな屋敷の前にたどり着く。

門からかなりの距離を歩いたというのに、キールの語りはとどまる事を知らず、立板に水とでもいうごとき流暢さをもって続いていたが、それもようやく終わりとなる。

正直ホッとしたのはここだけの話だ。

領主の館は、とても大きく、そして綺麗な建物だ。

白亜の豪邸と呼ぶにふさわしい威容をみせている。


「さて、ようやく着きました。お二方、ご足労いただき感謝します。主は、立場上なかなか礼を言う事が出来ませんので、わたくしが代わりにお礼を言わせていただきます。」


屋敷の前で、キールは恭しく頭を下げる。

それすら堂にいったものだ。

領主が出来ない事を、代わりに今までもやっていたのだろう。

これに恐縮してしまうのはカインだ。

急な行動に慌ててしまう。


「そんな!頭を上げてくださいよ。僕達は、領主様に呼ばれて来たんですから。」


「ホッホッ。カイン殿はお優しい。」


そう言って、カインを見て満面の笑みだ。

何故か、手玉に取られているような気がするのは俺だけだろうか?

疑り深くなってしまっているのも、考えものだ。

にしては行動がともなっていない気がするが、それは置いておく。

今更言ったところで、変わることなどそうそう出来やしないのはよくわかっているつもりだ。

ガチャリと扉を開けるキール。

扉の先には、メイド服に身を包んだ女性が三人控えていた。

キールが、おそらく俺達の前に現れる前に屋敷の方に連絡を入れていたのだろう。

綺麗な女性達で、目の保養になる。

こんな世界もあるんだな。


「それではこちらです。お客様だ、失礼の無いように。」


「かしこまりました。こちらにおいでください。」


三人の内の一人が前に出てくる。

どうやら、彼女に引き継ぐようだ。

キールがそのまま案内するかと思ったが違うようだ。

メイドに先導されて、入口を入って真正面にある階段を上がり、二階の一室に通される。

上等そうなソファーが、部屋の中央にテーブルを挟んで対面に2つ置かれている。

壁際の棚には花が活けられており、部屋を明るくするように演出されていた。

俺達がソファーに腰を下ろしたのを確認すると、メイドはお茶を入れテーブルに置いてくれた。

トゥーンとバルにも水を出してくれたのは、気が利いていると言っていいだろう。


「この部屋でお待ちください。」


と、一言告げて部屋を出ていってしまった。

ずいぶんと扱いがいいが、これって大丈夫なのか?

メイドが出してくれたお茶を飲みながら、その時を待った。

次回、領主登場です。


ブックマークや評価を頂けると、物凄くモチベーションが上がります。

また、様々な感想を頂けるとありがたいです。

今後ともお付きあいのほど、よろしくお願いします。

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