アッガに到着
アッガの門の近くまで行くと、馬車から降りて通行の手続きをしている人の列に並ぶ事になった。
乗ってきた馬車は、指示された場所に停車させる。
並んでいる人達の中には、冒険者らしき人達もいたがそれ以上にいたって普通の格好をしている者の方が多かった。
近隣の村からこの街にやって来たのだろう。
ベッラではなかなか見られない。
外を少し散歩するだけで、すぐに魔物に遭遇する環境とは違うということが分かる。
大行列というわけでも無かったので、ほどなく自分たちの番になった。
「おや?見たことの無い人達だけど、もしかして北からの旅人かい?これは、久しぶりの客人だ。」
門番が気さくに声をかけてくる。
門番という仕事の関係上、人の顔をおぼえるのも職務の一つなのだろう。
顔パスで全ての人を入れてしまっては大問題だが、円滑に処理を進める為には必要な事だと思う。
そして、頭の中で整合して記憶と合致しない人物であった為、このような反応をしたのだろう。
「私は、冒険者ギルドベッラ支部所属の職員をしているアルクといいます。こちらは冒険者であるクルスとカイン。」
アルクが、取って付けたかのような丁寧な口調で話し、冒険者の登録証を見せる。
俺とカインも、それに合わせるようにして登録証を出す。
その登録証を手早く確認していく門番。
かなり手際がいい。
ベテランのなせる技といったところだろうか。
「なるほど。ベッラからとはまた、遠くからやって来ましたね。最近ようやく移動許可が出たばかりだから、もう北から訪れる人がいるとは思ってもみなかったですよ。」
そう言いながら、もうしまっても構わないというジェスチャーをするので、俺達は登録証を引っ込める。
次いで目線はトゥーンとバルに向かう。
やはりどこでも対応は同じなんだな。
そう思っていたが、あっさりしたものだった。
「こちらの魔物は従魔の登録をしているようだね。そっちの小さいのは魔物ではないようだね。まぁ、悪さをしないようにちゃんと目を光らせておいてくれよ?責任は飼い主に全てかかってきてしまうからね。」
「ああ、わかってる。」
俺がうなずいて納得したような素振りをみせると、うなずき返してくる。
どこの街に行ったって、同じ対応をされているのが分かっていたのか、実に慣れたものだ。
「それじゃ、良い滞在になるといいね。あ、通行料は一人銀貨三枚になるから。」
と、それだけ話して入門の許可がアッサリと下りる。
アルクが、サッとお金を渡すとそれでもう終わりだ。
「よし、それじゃ早いところ移動しよう。」
「そうだな。そうしよう。」
そうして俺達が馬車まで戻ると、見慣れない人物がその前に立っていた。
髭を綺麗に整えた老人だ。
だが、背がしゃっきりとしていて歳を感じさせない。
どころか、凛とした雰囲気を醸し出している。
その姿を見て、即座に嫌な予感がした。
問題事が向こうからやって来たと言っていいと思う。
無視して馬車に乗りたいところだが、それは叶わなそうだ。
「申し訳ありませんが、馬車をこれから移動させますので、移動してもらってもよろしいですか?」
「ふむ。貴殿がアルク殿ですかな?そして、そちらのお二人がクルス殿とカイン殿で間違いは無いですかな?」
「そうですが、あなたは?」
「わたくしはアッガの領主、ネルフィット・アッガ様の執事を勤めますキールと申します。以後お見知りおきを。」
「これは、ご丁寧にどうも。」
アッガの領主の執事が、いきなりやって来るとか想像出来なかった。
いったい、どこで待っていたのだろう。
もしかして、門番の審査がさっさと終わってしまったのは、この老人が裏で手を回していたのかもしれないな。
だとしても、どこにいたのだろう。
「それで、執事さんが俺達に何の用なんだ?」
「はい、我が主人が皆さんをお招きしたいとおおせでして。皆さんをご案内をするように言付かっております。」
「大変光栄なことではありますが、まずはこちらの冒険者ギルドに顔を出さねばなりません。」
やんわりと執事の言葉に対して、断るような物言いをするアルク。
だが、そんなことは百も承知なのだろう。
キールは軽く微笑む
「それについては問題ございません。すでに冒険者ギルドには人をやっております。」
「いや、しかしですね。それでは支部長に失礼にあたるかもしれませんし。」
「では、領主の呼び出しを後回しにするのは、失礼にあたらないとおっしゃる訳ですか。」
アルクの揚げ足を取るかのような言いようだ。
とはいえ、街の最高権力者を後回しにするのも、確かに不味い。
ならば、折衷案でも出そう。
「それならアルクは先に冒険者ギルドに行ってくるといい。何といっても冒険者ギルド所属の職員なんだからな。給料出してくれる組織の方に顔を出してこればいい。用事が済んだのなら、それから向かえばいいだろう?そのかわりと言ってはなんだが、俺とカインは、これから領主の元に向かおう。それではダメか?」
そう提案すると、髭を撫で付けながら少し考える素振りを見せるキール。
こんなことを言ってくるくらい想定済みであろうはずなのに、なかなか芸の細かい事だ。
やがて、考えが出たかのように髭を触るのを止める。
「わかりました。アルク殿にもご事情があることと思います。押し付けるような事を言ってしまい申し訳ございません。それでは、クルス殿とカイン殿。ご案内致しますので、わたくしの後についてきてください。」
言うが早いか、スタスタと歩き始める。
そして、ある程度先に進んだところでこちらを見ながら待っている。
「それじゃ、アルク。そんな感じで。カインも悪いな。」
「いや、僕は大丈夫ですよ。それにどうせ断る事なんて出来ないでしょうから。」
「俺も、冒険者ギルドに顔を出したらすぐにそちらに向かうようにする。不用意な発言をするなよ、クルス。」
「名指しかよ。まあ、注意しておく。」
そうして、アルクは冒険者ギルドへと行き、俺とカインは領主の元に向かうことになった。
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