南へ向かう
宿で一夜を明かし、翌朝旅立つことになった。
出立の準備をしていると、どこからかコラムスが表れ、もう少し滞在期間を伸ばしたらどうかと提案を受けるが、丁重に断りをいれた。
あてのない旅なのであれば、それも構わないかもしれないが、今回は目的のある旅だ。
どのような目的があるかを明かすつもりは無かったので、少々しつこく言ってはきたが、それでも旅立つ意思を強く示すと、笑顔で送り出してくれた。
馬車がゆっくりと村の中を抜けていき、入ってきたところとは違う出口から村の外に出ていく。
ここから先は俺にとって未開の地となる。
どのようなことが待っているだろう。
楽しみにも不安にも思える。
昨日聞かされた話を思い出すことは止めておこう。
不安しか残らなくなりそうになる。
さて、馬車は一路南へ向けて走っていく。
たった一晩だけの短い休息ではあったが、リフレッシュするにはちょうど良かったかもしれない。
あまり長い期間ではだれてしまう。
適度に緊張感を持ったままで、移動をすることが出来るのは大事な事だ。
何もない安全な旅になるとは限らない。
魔物や盗賊に遭遇したりするかもしれない。
気を張りすぎるのも良くないが、丁度いいバランスを保つことが肝要だと思うのだ。
南へと移動を続けていると、たまにすれ違う馬車に出会す。
村に向かっているのだろう。
いや、さらにその先を目指しているのかもしれない。
あの馬車も、村の復興を支援するために国から派遣されているのだろうか?
それとも、ここが商機と見た行商が一旗上げに出たのかもしれない。
理由は何であれ、俺も関わった村なのだから、活況に湧くような状態になれば良いと思う。
どんな形にしろ、人が集まるからこその村であり、街であり国であるのだ。
段々と気温が高くなってきたのか、汗が流れてくる。
幌から外を見ると、空が高く澄んでいる。
抜けるような青空だ。
太陽も高く、煌々と大地を照らしている。
お陰で移動の間にやっていた、カインからの呪文の勉強もなかなか実に入らない。
それはカインも同じのようだった。
俺もそうだが、カインにとっても慣れない気候なのだ。
涼しい顔のアルクが羨ましく思える。
すでに周りには魔の森は見えなくなっており、街道の脇は草原が広がっていた。
草原といっても、丈の高い植物はあまり見えなかったが。
この地にはどのような魔物がいるのだろう。
魔の森は世界有数の魔物出現率を誇る場所だ。
だが、他の場所で魔物が出ないとは聞いていない。
森に出現するタイプとは違った魔物がきっと生息している事だろう。
無論、無駄な殺生をするつもりはないし、魔物に対しても殺生などと考えられるようになったのはバルのお陰だろう。
魔物とて、心を通わせる事が出来たなら、頼もしき隣人のような関係性になる可能性もあるのだ。
そんなことを思っていた、少し前の俺を叱ってやりたい。
出現する魔物の多くが、昆虫型の魔物ばかりだったからだ。
さすがに、節足動物と心を通わせるなどという発想は、俺の中にはなかった。
まったく、なんという世界だ。
無論、このような魔物に出くわしてしまった以上、全て迎撃することにした。
巨大なカマキリが振り回した両手の鎌は、魔力を帯びた軌跡を描き様々な物を切り裂いてくるようだったし、巨大な蝶は空を飛び、リン粉を撒き散らして状態異常を誘ってきた。
巨大なバッタは、その強すぎる脚力で高く宙を舞い、上空からの蹴りが驚異となった。
リアル仮面○イダーかよ!
思わずそんなことを考えてしまう。
素手で殴り飛ばすのも何か嫌な気持ちになってしまう事もあり、どの魔物も魔法をメインに用いて戦った。
カインは矢を放って敵を牽制していた。
アルクは俺と同様に魔法を使用し、やはり中遠距離での戦いに終始した。
トゥーンとバルは虫型ということに何も気にすることはないらしく、いつも通りに爪で、または牙で敵を屠っていった。
また、魔剣を呼び出そうとしたが、理由が理由なだけに、モルドレッドには怒られてしまった。
『高貴な存在であるこの我を、そのような下賎な理由で呼び出すとは何事か!』
とのことである。
まあ、目の前にいた魔物の討伐には協力してくれたが。
別の魔物が出てきた時に、呼び出そうとしたが何故か束が出てこず、頭の中に言葉が響くのみだった。
『たわけが!』
この一言のみだ。
本当の強敵が出てきたのであれば、協力もしてくれるのだろうが、この程度ではダメだということなのか。
それともモルドレッドも虫は嫌なんだろうか。
だとしたなら親近感も湧いてくるものだが、はてさてどうだろうか。
倒していった虫型の魔物は確実に解体をしていき、カインの魔法の袋に預ける。
いつものごとく、大量になってしまっていた素材が全て吸い込まれていく。
そうこうしながら街道を南下し続ける。
遠くにうっすらとではあるが、建物の輪郭が見える。
あれが目的地である首都オブライエンに至る間に訪れると言っていたアッガという街なのだろう。
遠くから見ても、中々の規模の街であることがうかがえる。
自分たちの所属や目的がバレなければいいが、おそらくは無理だろうな。
街に入るのにも目的を尋ねられるだろうし、そもそも名前や所属を聞かれれば、どのような目的で街に来たのかもすぐにわかる。
面倒事はごめんなんだがな。
いや、すでに面倒事の渦中の真っ只中にいる時点で、こんなことを考えていても詮無いことだとは思うのだが。
どうしてもついつい考えてしまう。
やがて、馬車は街の入り口に差し掛かる。
ほとんど会話らしい会話の無い回となりました。
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