村の様子
しばらく部屋で休んではいたものの、まだまだ夜までは時間がある。
暇をもて余すのも贅沢な事ではあるが、暇すぎるのも考えものだ。
アルクはベッドで夢の中だ。
移動の全てを請け負っているわけだから、これは仕方がないことだ。
先に進むのを、明日か明後日かにするか分からないが、ゆっくり休むと良いと思う。
すでにカインは部屋にはいない。
移動中に消費した物資を補給しに行ったのだ。
「行くのはいいが、まだ復興したばかりでそれほど品物は無いんじゃないのか?それに、よしんばあったとしても、値段が跳ね上がっているかもしれないぞ?」
「無かったとしても、それならそれで仕方が無いですよ。それに少しくらい高いくらいなら、買っても良いかと思うんですよ。少しくらいこの村の為になることをしたいです。」
「そこまで考えているなら、何も言わないさ。」
「でも、あんまり高かったら買わないですけどね。それじゃ行ってきます。」
そう言って、カインは外に出ていった。
俺も少し動くことにしよう。
たまには一人でブラつくのも良いかもしれない。
思えば、何かをするときは誰かしらいたような気がする。
そうと決まれば外に出ようと、ドアに手をかけたところで足元に空気の流れを感じた。
フンスフンスと音が聞こえる。
何だと思い下を見ると、バルが俺の顔を見上げて見ていた。
そして、バルの頭の上にトゥーンが立ってこちらを見ている。
『何だ?何処か行くのか?』
そう問いかけてくるトゥーンと、何か言いたげな感じを出すバル。
二匹とも何かを期待するかのようだ。
『外の様子でも見に行こうかと思ったんだが・・・』
『そうなのか?俺様もついていってやるぞ!』
「ワンッ!」
そうですか。
結局、俺は一人では動く事の出来ない運命なのか。
まあ、別に構わないけどな。
『それじゃあ一緒に行くか。』
『おう!』
言うが早いか、トゥーンが俺の頭に乗っかってきた。
バルは俺の足の間に入り込んできた。
これは、いったいなんだ?
そうっとドアを開けると、一番にバルが外に出る。
何だ、早く出たかっただけか。
もしかしたら、アルクは起きてしまっていたかもしれないが、それでもなるべく静かにドアを閉める。
宿の外を何も考えず、ただただブラブラする。
それだけでも案外気がまぎれるものだ。
村はかなり甦っているように思える。
建物が朽ちている事もなかったし、あくまでも人がいなかっただけだから、目を覚ました人達がいれば、活気は早く戻ってはくる。
だが、それだけでは本当の意味では甦ったとは言えない。
やはり、旅人なり行商なり外から訪れる者がいなくては。
そういう意味でも、この村は大分戻ってきているだろう。
この村から近くの街から、様々な人達が派遣されてきているのだろう。
ベッラからの来訪者は、まだいないかもしれないが、これから増えてくるだろう。
『クルス!何か食べるところは無いのか?』
『食べるところ?』
ベッラでの出店での買食いが、この村でも出来ると思ってついてきたのか。
だが、周りには出店らしきものは見かけない。
元々無かったのか、それとも無いのは今だけなのかはわからないが、食事をしたければ、どこぞの食堂にでも入るのが早いかもしれないな。
『残念だったな。出店は何も出てないみたいだぞ。』
『ええー!』
俺が思っていたよりも、期待値が高かったのか?
思いっきり、ガッカリした声をあげる。
そんなことを言われてもな・・・
バルを見習って、普通に散歩でもしたら良いじゃないか。
そう思ったが、何やらガッカリした気配をさせているのは、トゥーンだけでなく、バルも同様のようだった。
『まあ、今回は我慢しておけよ。』
『ううー!』
我慢しろとは言ったが、我慢を出来るのか不安になる反応をするな。
いつもより、聞き分けが悪くなっている。
それに、俺の髪の毛を引っ張るような事はやめてほしい。
馬車での移動でストレスが溜まっていたのか?
仕方がないな・・・
『ハァ。出店は無いが、何処かの店に寄るか。果物でも買ってやるから、それで今回は良しにしてくれ。』
『むぅ・・・今回だけだぞ!』
『そんなことを言われてもな。』
トゥーンをなだめ、八百屋を探して適当に果物を買うことにした。
久々にリンガの実を見た気がするので、それを3つ買いそれぞれ1つずつ分けることに。
元々、何もいらないと思ってはいたが、いざ買うとなったとき自分も食べたくなってしまったからだ。
外で、シャクシャクとリンガを食べることにする。
歩きながらでは、バルが落ち着いて食べられない。
腹に物が入って落ち着いたようなので、再び散歩を開始する。
それなりに元気になった通りを抜け、目的地に考えていた場所に向かう。
そこには残骸が残っているだけだった。
まだ、片付けられていないようだ。
燃え尽きて、倒壊したかつての村長の家の後は惨憺たる有様と言っていい。
さすがに、ここまでは手が回らなかったようだ。
残骸の中を踏みいっていく。
ここで、生き死にの境界をさ迷うかのように、死闘を繰り広げたとは思えない程の静けさしかない。
粗方燃えてしまったのだろうし、燃え散る事を逃れた物はすでに村の人間の手によって回収されたのだろう。
辺りには何もない。
不思議とさみしい気持ちになってしまった。
そろそろ帰ることにしよう。
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