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かつての死人の村

かつて死人が支配していた村へと移動している間、昼間はカインに呪文を習った。

昔から使用されている呪文はどれもどこかで聞いた事のあるものばかりだった。

これすら、俺より前に来たであろう飛ばされ者の影響を受けたのであろうと予想してしまう。

何せ呪文の読み方が、一部例外があるがどれも英語なのだ。

ファイヤーボールとか、まんま名は体を表すを地で行くようなものだ。

お陰でどの呪文もイメージを非常に湧かせやすく、それはそれで助かるのだが。

さらに、呪文を声に発するということにも着目したい。

どうやら、声に出すことでよりイメージを鮮明に出来る効果があるようなのだ。

ただ、イメージするだけで発露させる無詠唱と違い、その頭に浮かべたイメージを脳内に固定化させるようだ。

イメージをあくまで固定化するためだとするのなら、他の言葉でも良さそうだが、カインの教えてくれる物になるべく限定することにしたいと考えている。

訳の分からない呪文で、俺の呪文を聞いたものをわざわざ混乱させる必要も無いだろうから。

さらに、念話を用いて呪文を唱えてみたが、口に発するのと同じような効果を得ることができた。

そうなると、魔法の素養を持つトゥーンにも呪文を覚えさせたい。

残念ながら、神聖魔法についてはカインが手にもつ魔道書には記載されていなかったが、呪文が英語で表現されているという法則に基づき、よくゲームで目にする呪文を口に出してみると、思った通りの効果を示した。

これにはカインも驚いていたようだ。


夜は二日に一回という制約を決め、アルクの監視の元でカインと器合わせをすることになった。

なぜ二日に一回にしたかというと、器合わせをすると驚くほどの疲労感が発現し、強烈な眠気に襲われてしまうためだ。

俺は、まったくもって大丈夫だったんだが、この眠気に対して、カインは対抗することができなかったため、必ず眠ってしまうことになる。

しかし、それでは夜の見張りを二人でこなす事になってしまう。

だが、昼間は御者を勤めるアルクに、多大な負担をかけるわけにはいかない。

必然カインの穴は俺が埋める事になった。

昼間に呪文を覚える以外の時間は、体を休めることに努めてきたので俺は別段構わなかったが、カインがどうしても恐縮してしまう。

それならばと、二日に一回という形をとることにしたのだ。

早めに魔法を使えるようにしてやりたいが、焦りは禁物だ。

じっくりやっていけばいい。


そうこうしているうちに、やがて村にたどり着く。

前回よりも急ぐことはしなかったが、それでもほぼ同じくらいの時間でやって来ることが出来た。

あれからそれほど時間は経っていないが、村には活気が戻りつつあるようだった。

それは、村の入り口から軽く中を覗いただけで伺うことができた。

すでに前回来たときは見なかった、冒険者の姿も見られる。

どうやら、トルスからの支援として派遣されてきたのだろう。

解決されるべき事柄が無くなったばかりの村に、手のひら返しをするような、それまでの対応とは真逆の対応に、若干嫌な気持ちになる。

とはいえ、支援の一つも無くては彼らが生き延びるのも困難であったのは想像に難くないし、これはこれで仕方ない話なのだろう。

馬車が村に入っていく。

入り口には見張りが立っており、アルクと二言三言言葉を交わすと深々と頭を下げていた。

ゆっくりとした速度で馬車は村の中を進む。

村人とおぼしき人達も、外からの来客に歓迎するかのような態度が見てとれた。

少しでも早く村を復興させるのであれば、外から来るものを拒んでいるような事はしないだろう。

トルスから外に出る玄関口のような位置にあるのであれば、来訪する者がいなくては成り立たないだろうから。


やがて、一時的に借り受けた宿の前に馬車は止まる。

この宿が宿としての機能を復活させていることを願いつつ、馬車を降りる事にした。

すでにバルは停止とともに外に飛び出していた。

その背にトゥーンを乗せていた。

まったく、どこに行こうというのか。

二匹ともさっさと外に出たかったようだ。

そこに、アルクが突き放すような言い方をした村人が、走ってこちらにやってきた。

俺の前までやって来ると、肩で息をしながらも笑顔で手を差し出してきた。

俺が不思議な顔をすると、その手を頭に持っていって後頭部を掻いていた。


「いや、お久しぶりです。見た覚えのある馬車でしたんで、思わずやって来てしまいましたよ。」


「元気になったようで何よりだ。それにしても、大した時間も経っていないのに、かなり活気があるな。」


「いや、あの後眠りについていた皆が続々と目を覚ましましてね。その後にも、近隣の街からすぐに支援がありまして。以前と同様というほどには、まだまだ程遠いですが。」


「そうか。早いところ以前のようになるといいな。活気に満ちていた時の村を俺は知らないからな。ところで、さっきのは?」


俺が手を差し出した理由を問う。


「いや、これは昔この地に訪れた方から伝わったものでして。握手と言って、歓迎したい方に挨拶をする際に行う物と聞いています。」


やはり、握手だったのか。

となると、訪れた者は飛ばされ者でほぼ間違い無いだろう。

俺は右手を差し出した。

その手に驚いた表情を浮かべつつも、俺の右手を掴んできたので、掴み返してやる。


「改めて、よろしく。えーっと・・・」


「コラムスさんだったな。」


そこに後ろから、馬車から降りてきたアルクが声をかけてくる。


「いやいや、ベッラからようこそおいでくださいました。」


「いや、名前を失念していた。失礼な事をした、申し訳無い。」


「いやいや、頭を上げてください。この村の恩人に頭を下げさしては、こちらが申し訳無いですよ。」


「そう言ってもらえると助かる。それで、ここは宿としての機能を取り戻しているのか?」


「それはもちろんです。この村は旅人達の往来で成り立っているようなところですから。今日はゆっくり休んでいってください。」


「ああ、ありがとう。」


その後、アルクとカインの二人と握手をするコラムス。

ちょっと涙ぐんでいたカインが印象に残った。

その様子をどこからか見ていたトゥーンが、バルに跨がったまま駆け寄ってきた。

ああ、俺たちの真似をしたいわけか。

さすがに四六時中一緒に居れば、考えてるいる事くらい分かるようになるというものだ。

コラムスに、この二匹にも握手をしてくれないかと頼むと、笑いながらそれに応えてくれた。

お陰で、二匹ともご満悦といった様子だ。

トゥーンはともかく、バルが怖くないかと尋ねると俺達と共にいるのであれば、恐れる必要がないと言ってくれる。

これには俺が驚かされたが、それ以上に嬉しい気持ちになった。

その後、コラムスと別れると俺達は宿へと入っていった。

死人の村は見事に再生しました。

復興が早すぎる気もしますが。


ブックマークや評価を頂けると、物凄くモチベーションが上がります。

また、様々な感想を頂けるとありがたいです。

今後ともお付きあいのほど、よろしくお願いします。

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