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久々の森の人亭

迷いながらも、以前見たことのある場所にたまたま遭遇すると、ようやく宿への道程を思い出す。

方向音痴ではないとは思うが、さすがに自信の無くなりそうな事案の発生に頭が痛くなる思いだ。

いや、宿にたどり着くことが出来たから、そこはセーフと思っておこう。

だいたい半月ぶりに訪れた宿は、何も変わった様子は無い。

もっとも、たったそれだけの期間で変化が起こってしまったとしたら、かなりの問題と言えるが。


宿の扉を開けると、待ち構えていたかのようにバルが飛び付いてきた。

よだれだらけにされる洗礼も、取り合えずは受け入れる。

びちゃびちゃにされながら、食堂となっている一階のフロアを見回すと、椅子に座るカインがこちらを見ていた。

その顔には安堵の表情を浮かべていた。

いったい俺が何をしてくると思ったのだろう?

ちょっと話合いに行っただけなんだが。

その向かいにはキサラが座っており、ニコニコと笑っていた。

心配で押し潰されそうなところを、キサラが話をすることで宥めていたのだろう。

トゥーンの姿は見えないな。

いったい、どこに行ったのだろう?


「お帰りなさい。それでどうだったんですか?」


「ん?無事に話しは済んだぞ。ただ、ちょっとな・・・」


「?」


何事かと首をかしげるカイン。

少しもったいぶった言い方になってしまったか?

そんなつもりは少しも無かったんだが。


「なんでもトルスという国から出頭命令が出ているらしい。特殊依頼での顛末を知りたいらしい。」


「それは凄いことですよ!一国から名指しでお声が掛かるなんて!でも、情報が伝わるのがあまりにも速くないですか?」


「ああ、それは俺も思った。」


何らかの通信方法があるのだろうが、予測が出来ない。

まさか電話なんぞあるわけでも無いだろう。

電化製品など、この世界で見たことも聞いたことも無いのだから。

第一、死人の村から情報がトルスに伝わるまでの時間に加え、この街の冒険者ギルドに伝わるまでの時間を考えると、無線での通信手段があるのではないかと勘ぐってしまう。

だが、現状どう逆立ちしたところで、その秘密を知ることは叶わないのならば考えるだけ無駄だとも言えるんだが。


「まぁ、それはそれとしてだ。明日には街を出発せねばならなくなってしまった。」


俺の言葉に、特に驚いた様子を見せたのは、意外なことにキサラだった。

カインを心配するのは分かるが、何をそんなに驚くことがあるのだろう。

冒険者として活動する以上、急な依頼を請けることだってあるだろうに。

もっとも、しばらくは休みにするつもりだった訳だが。


「おばさ、じゃなかった。キサラさん。どうしたんです?」


あ、言い直した。

おばさんって言おうとした瞬間のキサラの気迫に圧されたか。

いや、あれはこれまでのどんな相手よりも強敵かもな。

そんな下らないことを考えて、隠れてくつくつと笑う。


「カインちゃんも行っちゃうのー?」


「えっ、ええ。そうなると思いますよ。」


いつの間にか、ちゃん付けで呼ばれているな。

親戚ということもあるし、食堂の仕事も手伝っていたからな。

キサラにはまだ子供もいないようだし、カインの事を可愛がっていたのだろう。

そりゃ、寂しくも思うか。


「キサラさんには悪いが、カインにも出頭命令が下っているんだ。さすがに置いていくことは出来ない。」


「そうなのー?寂しくなるわー。」


「用事が済んだら、すぐに帰ってきますよ。」


「そうー?それなら仕方ないわよねー。」


間延びした言い方をするせいか、顔は悲しそうなのに、あまり悲しそうに見えないのが不思議なものだ。

あまり、キサラの前でこの話を膨らませるのは良くないかもしれないな。


「出発は明日の朝ということになっている。朝食をとったくらいで向かえばいいんじゃないか?詳しい話は明日、アルクにでも聞いてくれ。」


「わかりました、明日の朝ですね。そうしたら、旅の準備を急いでしないと。」


「ん?いや、買い出しは済んだんじゃなかったのか?」


「それは、今回の分を補充しただけですよ。トルスに向かうんだったら、その分も見越して多目に買っておかないと。」


「そうか?途中で購入することも出来るだろ?」


トルスという国に行くわけだが、そういえば目的地になる場所をちゃんと聞いていなかった。

まあ、聞いたところで場所なんて分からないけども。

が、おそらく国から呼ばれた以上、首都に向かう事になるんだろう。

となれば、途中途中で村なり街なりに逗留する事もあるはずだ。

そこで補給してもいいんじゃないだろうか?


「いえ、向こうの物価もわからないですから。それに、今王位を争って揉めてるって話じゃないですか。石橋を叩いて渡るとも言いますし、準備は大事ですよ。」


「そういえばそんな話もあったな。失念していた。そうしたら買い出しにまた出るか。」


「ええ、そうしましょう。キサラさん、ちょっと出かけてきます。」


「気を付けてー。」


そうして、買い出しを済ませると宿に戻り、今日は早めに休むことにした。

ちなみにトゥーンは俺達が買い出しに行っている間中、部屋で眠っていたらしい。

俺に任せておけば大丈夫だと言って、休んでいたとの事だ。

ささくれだった心が少しほぐれることになった。


ブックマークや評価を頂けると、物凄くモチベーションが上がります。

また、様々な感想を頂けるとありがたいです。

今後ともお付きあいのほど、よろしくお願いします。

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