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落としどころ

ずるずるとスードを引き摺りながら歩いていると、どうしても目立ってしまう。

俺の進行方向に立つ人達は、何事かと思案顔をしながら道を譲ってくれる。

そして、離れたところでヒソヒソとこちらを見ながら話をしている。

興味はあるが、関わり合いになってしまうことは避けたいといったところか。

俺だって、こんな風に街中を歩いている奴がいたら、好奇の目で見ることはあっても、話しかけることはしないだろう。

仰向けで倒れるスードは、未だに目を覚ます様子はないようだ。

それならそれで好都合といえば好都合だ。

ジタバタ暴れられたら、面倒な事この上無い。

また頭を蹴りつけるなりなんなりして、黙らすことは出来るだろうが、事情をしらない者が見たら、どう思うだろうか?

そこまで考えて、もう考えるのを止めた。

今更どうこう言おうと、変わりはしないだろうから。


歩いていると、程なく冒険者ギルドの建物が見えてくる。

それはそうだ。

まだ、それほど離れた場所には行っていなかったのだから。

建物の前には、ガイエンとアルク、それから何人かの職員であろう者達が待っていた。

憮然とした顔をするガイエンと、苦笑を禁じ得ないといった感じのアルク。

他の職員達もなんともいえない表情だ。


「よう、お出迎えかい?」


「そうだな。さすがにこの状況ではな。」


どうやら、事情は分かっているようだ。

騒ぎを見た誰かが、冒険者ギルドに伝えたのだろう。

それとも、たまたま現場に居合わせた職員でもいたんだろうか?

なんにせよ、話が通っているのならこれ程楽なことはない。


「取り合えずスードはこちらで預かろう。」


「ああ、そうしてくれ。荷物になってかなわないからな。」


掴み続けていた足を放り投げ、その場で無様に仰向けで倒れ続けるスードを、ガイエンの周りにいた職員の何人かが担いで運んでいく。

意識を取り戻していないためか、運んでいくだけでも一苦労といった様子だ。

わめき声を聞かないでいいから静かなものだ。


「それにしてもクルス。また派手にやったものだな。」


「やりたくて騒ぎを起こした訳じゃないさ。そいつ以外はその場に残してきたけど良かったか?」


「そいつらに関しては気にするな。すでに手は回してある。」


「それで、この落とし前はどうつけてくれるんだ?」


俺の問いに、悩み始めるガイエン。

俺がここに到達するまでに時間があっただろうに、まだ答えが出ていなかったのか。

しかし、ここで返答を間違えれば冒険者ギルドの評判も落ちるというものだ。

であるならば、悩んでしまうのも分からないでもない。

悩むガイエンを尻目にアルクが話し始める。


「まず、クルスを襲ってきた冒険者三人は、おとがめなしだ。」


「何?」


アルクの言葉に異論を言おうとする。

が、それを制される。


「まぁ、最後まで聞けって。冒険者ギルドの方針のようなものなんだが、冒険者同士の諍いについては、冒険者ギルドは関与しない。それはあらゆる事象に適用される。そのため、当事者同士での解決を願いたい。あまりに悪質な場合は、冒険者の資格の剥奪も有りうるが、今回はクルスに逆に撃退されたこともあり、適用はなかった。」


「ということは?生殺与奪の権利も俺にあると?」


「大袈裟に言えばそうなる。とはいえ、常識的に動いて欲しいところはあるがな。街中で、白昼堂々命の取り合いなんてしないでもらいたいものだ。」


そうか。

冒険者同士の事柄に関しては、全てこちらの裁量に委ねられるのか。

それなら、あの三人をしばき倒した事については問題ないな。

むしろ、もっとやっても許されるというわけか。

二度と歯向かってこれないように、足の一、二本でも折ってやれば良かったか?

無法のまかり通る世界だな。


「まぁ、悪質な行為を繰り返せば信用も無くなるからな。信用あっての冒険者なところがある以上、いずれは消えてたさ。」


「そうか。取り合えず三人については理解した。それでスードとかいう奴は?」


「それについては・・・支部長。」


アルクが話をしている間も悩み続けていたガイエンは、顔をあげる。

ようやく答えが出たのか?


「うむ、決めた。スードは更迭とする。それと強制送還といったところか。故郷に帰って頭を冷やすのがいい。」


悩んでいた答えがそれか?

そんなもの考えるまでも無いだろうに。


「それとクルス。今回はすまなかった。まさか、スードがこんな短絡的な行動をするとは思ってもみなかった。あれで、普段はそれなりに優秀な男なんだがな。」


「そんなのは知らん。」


「いや、本当にすまなかった。それと一つ、お前に名指しで命令が下っている。」


命令?

こんな騒ぎのすぐ後に言うことか?

もう少し考えを巡らしてから発言をして欲しいものだ。


「特殊依頼なら請けないぞ?」


「いや、今回は違う。特殊依頼を解決したことがもう知れたらしく、この街の南西に位置するトルスという国から、この件に関わった者全てに出頭命令が出ている。今回の特殊依頼で起きたことの顛末を知りたいらしい。」


何?

まだ、街に着いたばかりだぞ?

それほど早くに情報をやり取り出来る方法があったのか?

で、俺がそれに従う必要性があるのか?


「しばらく街の中でも、お前の噂は続くだろう。ほとぼりを冷ます意味合いでも行ってくるといい。」


「俺が行くメリットがあるのか?」


「メリットってお前・・・」


国に呼び出された事柄に対して、見返りを求める俺の発言にアルクが呆れたような声を出す。


「礼の一つくらいはあるだろう。すまないが、明日一番に向かってくれ。アルク後は頼む。」


ガイエンは言いたいことを言うと、サッと建物に戻ってしまう。

引き止めようとしたが、それはアルクに阻止されてしまった。


「アルク。」


「悪いな、クルス。だが、この命令には従ってくれ。さすがに一国を相手取っての喧嘩というわけにはいかないだろ?」


「はぁ・・・分かった。アルクが言うのならその話に従ってやる。そうなると、カインにも話をしないとな。」


「そうだな。明日の朝、冒険者ギルドまで来てくれ。休みか無くなってしまってすまないな。」


「もういいさ。別にアルクが悪い訳でもないだろ?」


そうして、俺は宿に向かって重たくなった足を向ける事にした。

というわけで、休む暇なく再び旅に出ることになりました。

新しい展開の始まりとなります。


ブックマークや評価を頂けると、物凄くモチベーションが上がります。

また、様々な感想を頂けるとありがたいです。

今後ともお付きあいのほど、よろしくお願いします。

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