復讐の対価
剣を見ながら、カインを後ろに下げさせて、トゥーンとバルを見ておくように頼む。
やられるとは万が一にも思っていないが、反撃をしてしまうと問題になるかもしれないからだ。
これだけ野次馬がいては揉み消すことも難しいだろうし。
おっと、ちょっと思考がブラックに走ってしまいそうになった。
「ハハハハハ・・・やる気なのか?」
「お前ごとき瞬殺してやるよ。」
「ぶっ!ギャハハハ・・・そりゃいい。」
いかにもな三下臭を放つ三人。
そして、その後ろでニヤニヤ笑みを浮かべ続けるオッサン。
えーっと、名前何だっけ?
ああ、そうだ。
スードとか言ったか。
興味を持てないとなかなか覚えないなぁ。
「いいから黙ってかかってこいよ。そのかわり剣を抜いた意味は分かっているよな?」
「はぁ?何言ってんの?」
「いや、これはびびってんだよ。ほら、心なしか震えているし。」
いや、これはびびりではなくて、怒りによるものなんだけど。
ここまで、テンプレな下っ端とか・・・
なんとも毒気を抜かれてしまうな。
「さあ、さっさと始末してしまいなさい。」
「はいっよっと!」
スードに命じられ、ようやく動きだす。
一番手前にいた奴が、力任せに剣を振り下ろしてくる。
遠心力に体重と載せられるものを全て剣に載せるかのように力を込めて振り下ろしてくる。
受ければ大ダメージは必至だ。
受ければね。
剣で、斧で薪割りでもするかのような、無駄な動きをしてどうするというのか?
半身を引いただけで簡単に躱せてしまう。
拍子抜けもいいとこだが、分かっていたことだ。
面白いくらいの隙を見せる相手の肩を左手で掴み、鳩尾の辺りに右手で殴り付ける。
驚くくらいキレイなボディブローが決まる。
そして、たまらず膝から崩れ落ちたところを、右膝で顎をかちあげる。
それだけで、もう動くことが無くなってしまった。
いや、死んでないよな?
さすがに街中、公衆の面前でってのはあまり良いものじゃ無いだろう。
とはいえ、確認をしてやる必要も感じない。
ちゃんと正当防衛ですし。
過剰防衛になってる?
いや、そんなの知らん!
少し怯んだ様子を見せた二人に、ゆっくり近付いていく。
恐怖心に煽られて激昂するか、それとも怯えて動けなくなるのか?
「なんだこいつ!こんなの聞いてねーぞ!」
「そうだそうだ!俺達はスードの野郎に雇われただけだ!」
答えは開き直る、か・・・
そんなこと、今更知るか!
ダッと駆け寄ると、一人の頭めがけて飛び蹴りを敢行する。
顔面が靴の底に思いきり当たり、嫌な感触がくつ越しにも分かる。
鼻でも折れたか?
後ろにバタンとそいつは倒れる。
次いで、もう一人の襟元を掴み、体を捻るようにして地面に叩きつけるように投げ飛ばす。
地面に当たったあたりで「ぐえっ。」というカエルの鳴き声のような声をあげる。
よくよく見ると、たまたま先に蹴り飛ばした奴の上に叩き付けたみたいだ。
仲良くダブルノックアウト出来たのだから、むしろ喜んでほしいくらいだ。
こうして、アッサリすぎるくらいにあっさりと三人をのしてしまった。
さて、スードの様子はというと、ポカーンと口を開けていた。
いやいや、これで終わりじゃないよね?
喧嘩を売ってきたのはそっちからなんだから。
「どうしたよ、はとが豆鉄砲でも食らったみたいな顔して。」
「な、なな、なんだと!こいつらはこれでもBランクの冒険者達だぞ!」
あー、やっぱり冒険者か。
それはご愁傷さまだ。
これで、しばらくは周りから後ろ指を指される生活だな。
いや、下手をすればもう冒険者として活動していくのも困難かもな。
「で、バルが何だって?」
「ぐぬぬぬぬ・・・覚えていろ!」
そう叫んで、逃げ出そうとする。
が、そう甘くはないよ?
思ったよりも素早そうだが、さすがに俺よりは速いわけがない。
すぐに追い付き、襟首を掴むと後ろに引摺り倒す。
それすら以外だったのか、目が泳いでいる。
どれだけ自分の素早さに自信があったんだろう?
なんか悪いことしたかな。
驚くソイツの顔を覗き込み、笑みを浮かべる。
俺のその笑みが恐ろしかったのだろうか?
スードの顔がみるみるうちに青ざめていく。
「くっ、私は冒険者ギルドの職員だぞ!こんなことして済むと思っているのか!」
「思っているけど、何か?」
「なっ、貴様!」
「あー、五月蠅い!」
倒れ込んだスードの鳩尾に一発いれ、痛みに呻く所を頭を蹴り飛ばして黙らせる。
周りの野次馬からは、声にならない悲鳴が聞こえた気がした。
黙ったスードの片足を掴むと引摺りながら、俺はもと来た道を引き返す。
「クルスさん!」
「カインはトゥーンとバルを連れて、先に宿に向かっておいてくれ。俺はちょっと文句言ってくる。」
「いえ、僕も行きますよ!」
「いや、ここは頼むわ。先に行っといてくれ。」
「でもっ。」
カインが何かを言おうとしたが、もう聞く耳を俺は持たなかった。
スードを連れて冒険者ギルドに行けば、どんな事になるのか分からない。
が、虚仮にされて黙っていられるほど、出来た人間でもない。
三人をその場に残し、俺は野次馬を掻き分けて進んでいった。
三下撃沈。
いや、わかってはいたことですけど。
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