チンケな復讐劇
その後、俺達は買い物を淡々と済ましていく・・・つもりだったんたが、トゥーンの食欲が爆発し、これでもかと出店で食料を買わされる事になった。
別に負い目があるわけではないが、冒険者の登録が円滑に進まなかった事もあり、甘やかしてしまった点は反省すべきところだ。
それのおこぼれに預かるかのように、バルもせがむのでともに与えることになった。
だが、出店で買った物を嬉しそうに頬張るトゥーンとバルを見ると、まぁいいかと思えてしまうから、困ったものだ。
終いには、カインが呆れて先に色々な物を買いに行かせる事になったのはご愛敬だ。
「そろそろいいですか?」
「ああ、済まないな。買い物を任せるような事になってしまって。『ほら、そろそろ行くぞ?』」
「まぁ、いいですよ。二人を放っておく訳にもいかないですから。」
『ほぇ?もうか?』
『あれだけ食べてまだ食い足りないとか、胃袋化け物過ぎだろ。さすがに、バルはもう腹一杯のようだぞ?』
そう言って俺は、その場で伏せるバルを親指で指し示す。
満腹なのだろう。
満足げな顔で、口の周りを舌で舐め回していた。
このままにしておくと、この場で眠ってしまいそうな雰囲気を出し始めている。
「ほら、行くぞ。」
バルの頭を軽く叩き、動き出すように促す。
その手をうろんげな目で見つめているようだ。
そんな目をしてもダメだぞ?
眠るのは、宿で部屋を借りた後だ。
「で、目的の物は買えたか?」
「それは勿論。まだまだ蓄えはありますから。」
「宿に戻ったら、幾らかかったか言えよ。ちゃんと折半しないとな。」
「え?いいですよ、このくらい。」
手を振って大丈夫と意思を示してくる。
だが、それはいけない。
小さな事かもしれないが、一人だけに負担をかけるのは良くない。
これを繰り返せば、そのうちなあなあになってしまうし、やがては不満に繋がることになるかもしれない。
そうなれば待っているのは、パーティーの解散だ。
解散するとしても、遺恨を少しでも残すような形は嫌だからな。
「ダメだ。ちゃんと等分に割るんだ。じゃないとフェアじゃない。むしろ、全て任せてしまったんだ。俺の方が多く払った方が良いくらいだ。」
「わかりました。ちゃんと分けますよ。」
「ああ、それでいい。それで“森の人亭”だったか?どっちだったか?」
「ああ、それならこっちです。」
しばらく街から居なかったせいか、道を忘れてしまっていた。
とはいえ、滞在していた期間が短かったからな。
方向音痴ではない、断じて。
そうして、カインの後について歩いていく。
昼時を過ぎたくらいだったため、道を歩く人の姿はまだまだ多い。
活気があるのは良いものだな。
などと、他愛ない事を考えていると、カインの歩みが止まる。
「おいおい、街中に魔物がいるぞ?」
「それはいけないな。討伐してやらないと安全に暮らすことも出来ないなぁ。」
「見れば、バトルウルフか?こりゃ、怖いことだな。」
と、ニタニタ笑う男が三人ほど進行方向を塞ぐように立っていた。
面倒な事だ。
「すみませんが、通してもらえませんか?」
「おいおい、はいどうぞって通すわけ無いだろう?」
「悪いが、あんたらに付き合っている時間はないんだがね?それにバルは従魔の登録を済ませてある。イチャモンつけるのは止めてくれ。」
「そんなこと信用できるかよ。こっちは住民の安全のために言ってやってんだろ?親切を無下にするってのか?」
これはただ単に絡みたいだけか。
だが、見たところ酔っ払いというような様子は見えない。
では何故?
身につけているものを見るに、冒険者のようだが従魔については知らないのか?
いや、むしろ知った上での行動のようだな。
「それで、どうしたら通してくれるんですか?」
「そりゃ決まってんだろ。そいつを置いていけばいい。」
男の一人がバルを指差す。
その行動に「それはいい。」と同意の姿勢を見せる残りの二人。
だが、俺達にそんな選択肢はあるわけがない。
あまり騒ぎを起こしたくはないんだがな。
さて、どうしたものかね?
そう思案していると、そいつら三人の後ろから、下卑た笑みを浮かべる男が近付いてくる。
「おやおや、どうしたのか?」
「これはスードさん、お疲れ様です。いえね、ほら魔物が街の中に入り込んでしまっているんでね。円滑に討伐してやらないといけませんから。」
「ほうほう。それは殊勝な心掛けだ。私が許す。すぐに討伐してしまえ!」
「ギルドの職員の許可も得たわけだし、そいつを渡してもらおうか。」
「いや、こいつは従魔の登録を済ませてあると言っているだろ!」
「いえ、私は知りませんね。そんな話聞いた覚えもない。」
そんなバカな。
もう、バルは俺達の仲間なんだよ。
そんなこと認められる訳無いだろ!
そんな中、カインが念話で伝えてくる。
『あいつ、以前クルスさんが宿で吹っ飛ばした奴ですよ。』
『何?そういや、そんなこともあったか・・・?』
『えっ?もう忘れてしまったんですか?』
『覚えておく価値が無いものは、すぐに記憶から排除することにしてるんだ。』
『それは便利な頭ですね・・・』
何にせよ、これはこいつが仕組んだ事か。
ということは、これは復讐ということになるのか?
いかにも三下が考えたような、陳腐な手だ。
いつのまにか、周りに人だかりができ始めていた。
「俺達は従魔の登録を済ませていると言っているのに、信用されないとはな。この首につけた物を見ても信用はされないのか?」
「そんなもの幾らでも偽造できるだろう。であるならば、それが証明とはならない。」
「ああ、そうかい。それなら冒険者ギルドに行くか?そこならガイエンあたりが証明の一つくらいしてくれるだろうさ。」
「フンッ!そんなことを言って逃げようと言うのだろう?貴様の魂胆は分かっている!いいからお前たち!早く殺してしまえ!」
「はいはい、了解。」
三人は腰から剣を抜いて構える。
こちらを見ていた人だかりは輪を大きくするような形で、俺達との距離を取る。
そして、どのような事になるのかと固唾を飲んで見ているようだ。
いや、見せ物じゃないし、なんなら冒険者ギルドの他の職員を呼んできてほしいくらいなんだけども。
「待ってください!こんなところで剣を振り回すことの方が、余程危険ですよ!」
カインが叫ぶが、それが通じる相手じゃない。
俺はカインの前に出ると、握り拳を作って身構える。
穏便に行きたいが、それは叶わないようだ。
剣を抜いてしまったのなら、こちらも遠慮はいらないだろう。
こういう三下臭のキャラ素敵です。
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