ギルドからの帰り道
憤慨するカインの後を続くように、冒険者ギルドの建物を出る。
普段怒るところを見ることがないだけに、中々の驚きを与えてくれた。
いや、そもそも当事者たるトゥーンが怒るところなわけだが、あまり気にしていない様子を見ると、温度差を感じる。
どころか、俺の腕の中からスルリと抜け出してカインの肩の上に飛び乗り、ポフポフと頭を叩いていた。
『カイン?何そんなに怒ってるんだ?』
『だって約束が違うんだよ!向こうの提示してきた条件をこなしてきたのに、この仕打ちはないよ!』
『うーん、そうなのか?俺様はもうどっちでもいいなー。』
『おいおい、お前がそれを言うのかよ。』
すでに冒険者になることに、興味を失ってしまっているような態度をみせる。
確かに、トゥーンが冒険者として登録したとして、それで何かが変わるということは無いだろう。
扱いも今までと変わらないだろう。
端から見れば、あくまでも言葉の通じない獣なのだから。
人と同じに扱うということを良しとしない者も、沢山いるだろうから。
それを考えると、これはこれで良かったのかもしれない。
変に目をつけられる心配がなくなるからだ。
もっとも、まだ結果は分からないから気に病むだけ損な話ではあるんだが。
『まぁ、取り敢えずはガイエン達の頑張りに期待する以外方法がないだろ?まだ登録されないと決まったわけでもなし。果報は寝て待てともいうし、しばらくは様子を見ようか。』
『寝てたらいいことがあるのか?』
『いや、これはやるべき事を全て成して、後は寝ることしかやることがないという状態を指しているんだ。俺達はやるだけのことはひとまずやったわけだし、これ以上は変なことに関わる必要ないだろ?まぁ、しばらくはのんびり過ごそうぜ。』
『ええ、そうしましょう。もう僕は特殊依頼なんて請けたくありませんから。』
その意見には同意だ。
別にこれ以上何かしてやる理由もないしな。
義理が無いなら、打算で動くのは当たり前の話だ。
特殊依頼といったって、その依頼を請けるかどうかは冒険者次第なところがあるからな。
しかし、これはしばらく、カインは怒りを静めることは無さそうだな。
俺やトゥーンにその怒りが向けられているわけではないから、別に構わないが。
だとしても、怒り続けられても良くはないしな。
『そうだ、カイン。俺のもといた世界に伝わる迷信みたいなものがあるんだがな。』
『なんです?』
『あんまり怒り続けると、禿げるらしいぞ。いや、禿げたかったなら怒り続けてくれてもいいんだがな。』
『えっ!そうなんですか!』
やはり、こちらの世界ではこんな話は無かったのか。
もとの世界と、生活環境があまりに違うからな。
ストレスもあるだろうが、質が違うだろうし。
まあ、これで多少場が和んだのなら良しだろう。
『カイン、禿げるのはダメだぞ!乗り心地が悪くなるからな!』
『いや、僕もそんなつもりはないよ!』
『本当か?』
『本当だよ!』
珍しくいじられるカインとトゥーンを生暖かい目で見る。
その視線に気付いたのか、ばつの悪そうな顔をするカイン。
その頭をくしゃりとやる。
『さて、宿に行くか。こないだと同じとこにするんだろ?』
『ええ、その方がいいです。冒険者ギルドの方でもその方が連絡をしやすいでしょうから。』
『なら向かうか・・・とはいえ、まだ早い時間だな。』
『それなら減った物資の補給をしませんか?』
『そうだな、そうするか。ついでに何か食べていこうか。』
『おお!さんせーい!』
俺の言葉に、喜色満面といった様子のトゥーン。
食意地の悪さは健在だな。
バルも何か感じ取ったのか、俺の周りをチョロチョロしながら、自分の事をアピールしてくる。
お前の分が無いわけ無いだろ。
『とはいえ、先に買い出しの方からだな。それが済んでからでいいか?』
『僕もその方がいいと思いますよ。』
『ええー!やだー!』
「ワフッワフッ!」
買い出しが先という意見に対し、駄々をこねるような反対をみせるトゥーンとバル。
後か先というだけの話だろうに。
いつのまにか、カインの頭の上に移動していたトゥーンがバタバタするものだから、カインの頭がえらいことになっていた。
「うわっ!『トゥーンくん、痛いって!』」
『先がいい!』
『分かった分かった。それなら移動している間に何かよさそうな出店があれば買えばいいだろ?食べ歩きしながら、見て回ればそれでいいだろ?』
『お!クルス、分かってるな!』
トゥーンはバタつくことをすぐにやめ、俺の頭の上にジャンプして、移ってくる。
うれしい気持ちは分かるが、髪の毛ぐじゃぐじゃにされたカインが睨んでるぞ?
『トゥーンくん、酷いじゃないか!』
『おお!悪かった!でもそんなに怒ると禿げるぞ!』
『だから、禿げないってば!』
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