特殊依頼の顛末
「よく無事に戻った。」
ガイエンは開口一番そう発した。
やはり、それなりに心配していたのがうかがえる。
俺達は、罪人達を引き渡す。
彼らは、とくに抵抗することは無かった。
ここに至っては、何をしようとも無駄な事はわかっているのだろう。
それならば、多少なりとも従順にしていた方が心証もいいだろう。
取り返しのつかない過ちをおかしたとはいえ、それに裁定を下すのはあくまでも人なら、この対応も間違いではないだろう。
移動中の態度などが聞かれたが、俺は彼らにとって不利になることも有利になることも言わなかった。
どうにも、一緒に食事をとったりしたことで、情が湧いてしまっていたのかもしれない。
もっとも、初めから裁定については口を挟むつもりは微塵も無かったといえば無かった訳だが。
処刑されることになるのか、それともどこぞで強制労働のような事になるのかはわからないが、真っ当な人間になるといいんだが。
「そうか。まあ、いい。詳しい話はここでは不味いだろうからな。支部長室に来てもらえるか?」
「ああ、構わないさ。トゥーンの事もあるしな。カインもいいか?」
「ええ、それで大丈夫です。」
「そうか。アルク!お前も早いところ部屋に来るように。」
「了解しました。馬車を片付け次第向かいます。」
罪人達が連れ去られていく中、慇懃に頭を垂れるアルクをその場に残し、俺達はガイエンの後について、支部長室に向かうことになった。
何処かに向かおうとするバルを呼び止めると、トゥーンがばつの悪そうな顔をしていた。
おそらく、この後に行われる話し合いが、退屈な物になるとの予想でもたてているのだろう。
だから、バルの背に股がっていたのか。
バルもトゥーンの行動に従うところがあるからな。
でも、バルを巻き込むなよ。
第一、これからの話はお前のためというところが大きいんだぞ?
『トゥーン、お前の冒険者登録についての話をするのに、お前がいなくなってどうするんだ?』
『えっ!なんだっけ?』
『いや、トゥーンくんそれ本気で言ってる?』
いや、忘れるなよ。
お前が言うからこんな事になったんだろ。
カインも呆れ気味な顔をしてるぞ。
『特殊依頼を請けた理由くらいは覚えとけよ。トゥーンの冒険者登録のために請けたんだから。」
『そういえばそうだった!俺様もクルス達とこれで同じになれるな!』
『そういうことだね。良かったね。』
『おう!これでみんなお揃いだな!』
うれしそうなトゥーンに、少しほっこりしながら移動をする。
部屋に入ると、ソファーに座るように促されるので、それに従う。
周りの目を全く気にしないバルが甘えてくるが、今は話をする方が先だ。
足下で、何事かモゾモゾしだしたバルをそのままにする。
トゥーンはすでに俺の膝の上にふんぞり返っている。
いつものことなので、特に何かを言うことはない。
「思ったよりも早くに帰ってこれたな。依頼の方は首尾はどうなんだ?」
「詳しい話はアルクからもあると思うが、それなりに上手くこなしてこれたと思う。」
「こんなことを仕出かした人達も捕まえてこれましたし、住人の方達も救出することが出来ました。」
「そうか、それは重畳だな。」
俺達の言葉を聞き、破顔一笑するガイエン。
これで、南との交通も蘇るだろう。
これほどの大事を解決出来たのだ。
喜びもひとしおといったところか。
そんな中、リフィが部屋に入ってくる。
トレイにカップが載っているところを見るに、お茶でも用意してくれたのだろう。
「それで、俺にとっては本題になるが、トゥーンの冒険者登録についてなんだが。」
「ああ、少し待て。まだ、本部に連絡を入れて了承を取れてからになる。」
「何?話が違うじゃないか。そんなこと少しも聞いた覚えが無いんだがな。」
特殊依頼をこなしてこれば良かったという話では無かったのか?
そんな疑問を提示する俺に、カップを配るリフィが答える。
「いえ、確かに告げてありますよ。実績が認められればと。」
「どういう事だ?」
「この件は特殊な案件になりますから。この依頼の照査は本部の方で行われます。つまり、実績として認められるかどうかは本部しだいなんです。」
これはしてやられた。
確かに、実績を認めるのが誰と言う話は聞いていない。
ガイエンが判断をするとてっきり思っていただけに、うかつだった。
契約書の類いがあるわけでもなく、ここは引き下がる以外に無い。
「そういうことだ。とはいえ、南へのルートを復活させたのは非常に大きな功績であるといえる。すぐに答えが出るよう俺からも働きかけるから、ここは我慢をしてくれないか?」
「ああ、分かった。」
「クルスさん・・・」
『クルス?』
悔しい思いが顔に出ていたのだろう。
カインはともかく、トゥーンも俺の事を心配してか、声をあげる。
「いや、大丈夫だ。『すまんな、トゥーン。冒険者登録にはしばらく時間がかかってしまうみたいだ。』」
「そこでだ。俺から提案だが、他にもいくつか依頼をこなしてくる気はないか?後押しになるかもしれない。」
「請ければ確約出来るのか?」
「それは・・・出来ないな。」
「なら、無しだ。それよりも、この話が流れたときの事を考えておけよ。街と南との道を戻したんだ。トゥーンの事があったから請けたが、ダメだったのなら普通に報酬は出るのだろ?」
依頼を請けてのダメ押しのような形ではなく、ガイエンを脅して動かすことにした。
どの程度影響力を持っているかは知らないが、やる気のあるなしで結果が変わることだって、世の中存在するものだ。
「わかりました。確かに用意はさせておきます。勿論、支部長のポケットマネーから捻出されることになります。支部長もそれを承知の上でしょうから。」
リフィが、ガイエンに有無を言わさないといった感じに承諾の意思を示す。
それにギョッとした表情をみせるガイエン。
役に立つ部下なのだろうが、あまりに扱いがひどい。
確かトゥーンの冒険者登録の提案をしたのは彼女だ。
だが、責任のすべてをガイエンが負うことになっている。
なかなかの策士といえるな。
なら、俺もそれに乗っかるか。
「それじゃ、今日はこの辺で。アルクはまだ顔を出して来ないが・・・まぁ、いいか。それじゃ、よろしく頼んだ。『カイン行こう。』」
「失礼します。『わかりました。これでは納得いかないですもんね。』」
何かを言おうとするガイエンが話をしだす前に、捲し立てるように言葉を紡ぎ、トゥーンを抱き上げると、その場を後にしようとする。
それに、カインも追従する。
いつも以上に、にこやかに笑っているが、目の奥が笑っていない。
これ、俺が怒ったときより怖いんじゃないか?
「おっ、おい!」
声を上げるガイエンをその目で見つめるカイン。
思わず、声をうしなったようだ。
人懐こい雰囲気のカインがそうなのだから。
おそらく百戦錬磨であったであろうガイエンも形無しだな。
俺達が部屋の外に出ると、たまたまアルクとかち合う。
「ん?もう話は終わりなのか?」
「ああ、アルクか。そうだな、俺達の方はひとまず終わりだな。後はガイエンに頑張ってもらうだけだな。」
「ん?支部長に?どういうことだ?」
「詳しい話は中で聞いてもらえればいいと思いますよ。僕達はこれで帰りますから。」
「おっ、おう。そうだな。何があったか知らないが、もう少し、そのなんだ・・・あまり怒るなよ?」
カインの笑ってない目に、アルクも若干引き気味だ。
なだめるように軽く肩を叩いて、支部長の待つ部屋に入っていく。
そうして、俺達は冒険者ギルドを後にした。
普段あまり怒らない人が怒ると怖いということが表現出来たでしょうか?
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